■可能なタイル貼り・不可能なタイル貼り(その9)
ここではまず,多面体の分割に関するデーンの定理(1900年)
「正四面体と直方体は(たとえ同じ体積をもっていたとしても)分割合同ではない.」
を紹介したいと思います.
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【1】デーンの定理(1900年)
「正四面体と直方体は分割合同ではない」あるいはそのn次元版「等積なn次元正単体とn次元直方体とは分解合同にならない」ことは,二面角δがππとは通約できない,すなわち,0でない整数n1,n2に対して
n1δ+n2π=0
が成り立たないことを使って証明されます.
2つの多面体(多角形)が分割合同とは,一方を有限個の小多面体(小多角形)に分割し,それを別の仕方で寄せ集めることにより他方の多面体(多角形)ができることをいうのですが,任意の三角形は長方形と分割合同であることが証明されるので,デーンの定理は2次元と3次元の違いを際立たせていることになります.
デーンを有名にしたこの定理は,パリの国際数学者会議(1900年)においてヒルベルトが提出した第3問題を直後に否定的に解決したものです.第3問題「分解合同・補充合同でない2つの多面体の存在を示せ」の背景には,ユークリッドの原論にみられる面積と体積の理論を幾何学の厳密な公理の上に再構成しようとしたヒルベルトのプログラム(幾何学基礎論)が潜んでいるのですが,それに対する否定的な解答がデーンの定理というわけです.
なお,4次元多面体に対しては,3次元の場合のように,分解合同であるのはデーン不変量が等しいときかつそのときに限る.しかし,5次元ではもはやそれは正しくない.新たな不変量が現れるのである.それはPの(n−4)次元面に関する不変量である.つまり,1次元と2次元では体積(長さと面積)だけが問題であり,3次元と4次元ではデーン不変量が加わり,さらに高次元では新たな不変量が加わり,n次元多面体の分解合同に関しては[(n+1)/2]個の不変量によって特徴づけられるという予想がある.
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【2】ヒルベルトの第3問題
ヒルベルトの第3問題は23の問題の中で最初に解決された.1976年にアメリカ数学会が論文集「ヒルベルトの問題から生まれた数画の発展」を刊行したが,22の問題については徹底的な解説がなされたものの,第3問題はまったく議論されていなかったのである.→「ヒルベルトの忘れられた問題」
しかしながら,「多面体元素定理」(2009年)はデーンの定理の100年後の発展形であり,いまだ幾何学における熱いテーマになっている.
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【3】デーンの定理(1903年)
次に,長方形の正方形分割に関するデーンの定理を紹介します.
「縦がa,横がbの長方形Kを縦横比が有理数であるような有限個の長方形に分割することができるならばa,bの比は有理数であることが必要十分条件である.」
分割された小長方形は,縦横比が有理数という条件が付いているだけで,それぞれの長さは無理数でもかなわないのですが,分割の際,小長方形の配置は多様にありうるわけですから,この定理はまったく自明な定理とはいえません.
[参]砂田利一「分割の幾何学」日本評論社
によると,1940年になってからブルックス,スミス,ストーン,テュッテはデーンの定理を電気回路とみなしてキルヒホッフの法則とオームの法則に帰着させて鮮やかに証明したとあり,この問題について詳しく述べてあるので参照してほしいと思います.
特に,Kを有限個の正方形に分割できればa,bの比は有理数であることが必要十分条件となります.デーンの定理により,縦横比が有理数であるような長方形は正方形分割されるのですが,その方法は1通りではありません.
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[系]長方形Rが,どちらかの辺の長さが整数の長方形によってタイル貼りされているならば,長方形Rのは長さが整数の辺がある.
1×2の長方形RをRと平行な辺をもつ長方形にきり掛けて,それを√2×√2の正方形に集めることはできるか? → No.
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