■メビウス変換とシュタイナーの定理(その8)

 19世紀に大いに発展した理論のひとつに,楕円関数論があります.これは相異なる2つの方向への平行移動に対して不変である関数の理論で,楕円関数はトーラス上に棲んでいると見ることができます.

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【1】単周期関数

 三角関数は周期2πをもつ一変数一周期の実関数です(sin(x+2π)=sinx).他の周期はその整数倍2nπですから二重周期ではありません.指数関数exp(x)も複素数の世界にはいると,オイラーの等式exp(2πi)=1よりexp(z+2πi)=exp(z)ですから周期2πiをもちますが,これも単周期関数です.

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【2】二重周期関数

 アーベルとヤコビは一変数二重周期の複素関数,すなわち,f(z+p+q)=f(z+p)=f(z+q)=f(z)を満たすような関数を発見し,さらに,ヤコビは二変数四重周期の関数f(z+a+b,w+c+d)=f(z,w)を発見しています.このように,複素関数のなかには2重周期をもつものがありますが,これはドーナツ面(円環面)上の関数と見ることができます.なぜなら,ドーナツ面は環状に並べられた円と考えることができるからです.

 アーベルはレムニスケートが複素変数の有理型関数に拡張できることを明らかにし2重周期関数となることを示しました.楕円曲線は複素数射影平面(4次元)内の曲面とみたとき,ドーナツ面と同相(示性数1)で,この関数の研究は楕円関数の研究につながるものであったのです.

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【3】保型関数とメビウス変換

 有理変換(メビウス変換)z’=(az+b)/(cz+d)は円を円に変換します.実は,周期性とは有理変換によって不変,すなわち,f((az+b)/(cz+d))=f(z)の特別な場合にすぎません.

 有理変換によって不変なこの関数は存在し,保型関数と呼ばれていますが,三角関数は楕円関数の特殊な場合であり,さらに,楕円関数は保型関数の特殊な場合に相当しています.

 楕円積分の逆関数として導入された楕円関数は2つの相異なる周期(二重周期性)をもつ関数で,楕円曲線はこの楕円関数でパラメトライズされる関数ですが,さらに保型関数でパラメトライズされるというのが,有名な谷山・志村予想です.

 不幸にして夭折したアーベルの夢は,楕円関数を超えるような,さらに興味深い超越関数の発見にありました.クラインもポアンカレも,クライン群に関して不変な関数(保型関数)を見つけることの興味をもっていました.後世の人々は多変数の多重周期有理型関数(アーベル関数)や保型関数を発見してその夢を実現させています.

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