■メビウス変換とシュタイナーの定理(その7)

 約2000年に及ぶユークリッド幾何学(放物線幾何学)の時代を経て,17世紀以降,ボヤイ・ロバチェフスキー幾何学(双曲線幾何学),リーマン幾何学(楕円幾何学),射影幾何学,位相幾何学などいろいろな考えに基づく種々の幾何学が誕生しましたが,これらを別々の幾何学としてそのままにせず,ある観点で統合することが必要とされていました.

 19世紀になると対称性や合同の概念に変革がもたらされました.2つの図形が合同であるためには,必ずしも通常の意味で同じ形をしている必要はなく,ある決まった関係(たとえばメビウス変換)が両者の間にある場合,同じとみなすと定義します.

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【1】クラインのエルランゲンプログラム

 1872年にエルランゲン大学の教授として迎えられたクラインは,研究プログラムを大学に提出しました.それがエルランゲンプログラムと呼ばれる教授就任講演目録ですが,クラインはその中で「幾何学とは変換によって変わらないもの(不変量)の研究だ.」として,いろいろな幾何学を「変換群」の概念のもとに統一する画期的な見解を発表しました.

 すなわち,幾何学とは変換群(運動)が与えられたとき,この群で不変な図形の性質を研究する学問であることを強調したもので,群論によるいろいろな幾何学の統制という指導原理を主張したことになります.

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【2】対称性と結晶構造

 クラインの原理はたとえば,「ユークリッド幾何学は合同変換群で不変な図形の性質を研究する幾何学である」ということを主張するものです.合同変換とは長さと角度を変えない変換として特徴づけられます.

 ところで,自然界には結晶と呼ばれる対称性の高い物質が存在しています.対称性の群の数学は結晶学で重要な役割を演じます.平面結晶,すなわち2次元結晶群は17種存在することがわかっています.壁紙のパターンは無限にあるのですが,どのようなパターンも対称性という意味では17種類のどれかに一致してしまうのです.わずか17種しか存在しないといったほうがよいかもしれません.なお,3次元結晶群は219種,4次元結晶群は4783種存在します.

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