これまでのこのシリーズの議論をまとめておきましょう.外接球をもつ多面体を「サイコロ」として利用すると各面のでるおよその確率を計算することができます.それに対して,内接球をもつ多面体では各面のでる確率の計算は困難であって「積木」としての活用が考えられるわけです.
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【1】外接球をもつ多面体
(その8)で取り上げた小菱形立方八面体[3,4,4,4]と大菱形立方八面体[4,6,8]は準正多面体なので,外接球と中接球をもちますからサイコロとしての確率を計算できます.そして,(その2)(その3)ではサイコロを投げたとき(toss)と転がしたとき(roll)の目のでる確率計算を取り上げました.
tossingの確率は各面の立体角の大きさを球面三角法によって割り出します.それに対して,rollingの確率は辺を支点として回転するときの重心の位置の違いから割り出すことができるのですが,サイコロを転がすと勢いがつくので小さな面がでる確率は低くなります.
計算結果は,
小菱形立方八面体(tossing) 三角形面:四角形面=0.157896:0.842104
小菱形立方八面体(rolling) 三角形面:四角形面=0.0976515:0.902348
となりました.一般に2種類の面をもつ多面体では小さい面がでる確率は10%程度低くなることがわかりました.
大菱形立方八面体は3種類の面(四角形面,六角形面,八角形面)をもっているのでその分計算が面倒になりますが,計算結果は
大菱形立方八面体(tossing) 四角面:六角形面:八角形面=0.186534:0.331685:0.481781
大菱形立方八面体(rolling) 四角面:六角形面:八角形面=0.0969247:0.298545:0.604531
となりました.
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【2】内接球をもつ多面体(日本サイコロ)
小菱形立方八面体[3,4,4,4]と大菱形立方八面体[4,6,8]はもとの立方体の1辺の長さを2とし,切稜パラメータd1,切頂パラメータd2をそれぞれ
d1 d2
小菱形立方八面体 2(√2−1) 2(2−√2)
大菱形立方八面体 (6+2√2)/7 (12−3√2)/7
と設定したものです(→コラム「切稜立方体の計量」「切頂立方体の計量」参照).すなわち「切稜切頂立方体」というわけですが,このようにするとうまく調節され各面がすべて正多角形になります.これらは準正多面体なので内接球はもちません.
ところで,「中国サイコロ」の原型となる切稜立方体
d1=2(√2−1)
は内接球を有する18面体で,この値は小菱形立方八面体の切稜パラメータd1の値と一致しています.そこで切稜立方体に対してうまく切頂を施すと内接球をもつ切稜切頂立方体を作ることができるはずです.
また,内接球・外接球の両方をもつ切頂立方体は14面をもつ「朝鮮サイコロ」
d2=3−√3
ですから,実際の設定値を
d1=2(√2−1)
d2=3−√3
とすると内接球をもつ切稜切頂立方体(26面体)ができあがります.
この多面体は中国サイコロ(d1=2√2−2)と朝鮮サイコロ(d2=3−√3)とのハイブリッドと考えることもできるので,その意味ではこの多面体のことを「日本サイコロ」と呼ぶことができるのですが,外接球はもたないので「サイコロ」としては適していません.
サイコロよりも四角形面,六角形面,八角形面までの3方向の厚さがすべて同じというメリットを活かして「積木」としての活用が期待されるわけです.以下に,中川宏さんの分子構造模型の例を掲げます.
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【3】外接球・内接球を併せもつ多面体(双心切頂20面体)
外接球と内接球を併せもつ多面体というと,まず「朝鮮サイコロ」が思い浮かびます.切頂操作により
立方体←→切頂立方体←→立方八面体←→切頂八面体←→正八面体
と連続的に変形させると,外接球を有するという条件を保持したまま遷移していくわけですから,その中間段階で外接球・内接球を併せもつ多面体を見つけることができます.実際,このようにして発見されたのが正方形面6枚と不等辺六角形面8枚の合計14枚の面で構から構成される「朝鮮サイコロ」であって,
立方体←→切頂立方体←→立方八面体←→★←→切頂八面体←→正八面体
に位置しておりました.
これらについて,tossingとrollongの確率を比較してみると
切頂立方体(tossing) 八角形面:三角形面=0.906684:0.0933161
切頂立方体(rolling) 八角形面:三角形面=0.983874:0.0161255
立方八面体(tossing) 四角形面:三角形面=0.649038:0.350962
立方八面体(rolling) 四角形面:三角形面=0.762392:0.237608
切頂八面体(tossing) 四角形面:六角形面=0.212643:0.787357
切頂八面体(rolling) 四角形面:六角形面=0.0941103:0.90589
朝鮮サイコロ(tossing) 四角形面:六角形面=0.406665:0.593335
朝鮮サイコロ(rolling) 四角形面:六角形面=0.302534:0.697466
となりました.
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これと同様にして
正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→正20面体
の切頂系列にも外接球・内接球を併せもつ多面体が存在します.
正二十面体の切頂比を(0≦t≦2/3)とおくと,内接球をもつための条件は
切頂面までの距離:r12+(R20−r12)(1/2−t)
正二十面体面までの距離:r20
が等しくなることであり,その解は
t=(7-√5-2√(10+2√5)/3))/(6-2√5)=0.242947
となりました.
すなわち,正二十面体のある頂点から隣接する頂点までの距離の約24%のところを五角錐状に切り落とすと,正五角形面12枚と不等辺六角形面20枚の合計32枚の面で構成される外接球・内接球を併せもつ多面体になります.切頂20面体(サッカーボール)の切頂の深さは
t=1/3=0.333333
ですから,サッカーボールよりも正五角形面の小さい立体ができあがります.
すなわち,この多面体はサッカーボールと正二十面体の間,
正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→★←→正20面体
に位置するのです.この多面体のことを仮に「双心切頂20面体」と呼ぶことにします.
切頂12面体,12・20面体,切頂20面体は外接球をもちますが,内接球はもちません.それに対して「双心切頂20面体」は外接球・内接球を併せもつ多面体というわけですが,これらについてもtossingとrollongの確率を比較してみました.計算方法は割愛しますが,結構骨の折れる演習問題となります.→(その2)(その3)参照
切頂12面体(tossing) 十角形面:三角形面=0.8751:0.1249
切頂12面体(rolling) 十角形面:三角形面=0.975902:0.0240984
12・20面体(tossing) 五角形面:三角形面=0.713749:0.286245
12・20面体(rolling) 五角形面:三角形面=0.856054:0.143946
切頂20面体(tossing) 五角形面:六角形面=0.31379:0.68621
切頂20面体(rolling) 五角形面:六角形面=0.229493:0.770507
双心切頂20面体(tossing) 五角形面:六角形面=0.162779:0.837221
双心切頂20面体(rolling) 五角形面:六角形面=0.067601:0.93024
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