■4次元正120胞体の3次元投影(その2)

 3次元の多面体を平面上に投影すると,外形となる大きな多角形の中を小さな多角形が埋めつくす平面図形になる.4次元の多胞体を3次元空間内に投影すると,外殻となる大きな多面形の中を小さな多面形が埋めつくす立体図形になる.結局,4次元正120胞体の3次元投影図は,外殻が正五角形12枚と扁平な六角形30枚からなる凸多面体となった.

 この多面体は,菱形三十面体の五辺が集まる頂点だけを切り取った形である.切頂菱形三十面体であるというわけであるが,扁平な六角形は対角線の長さの比が黄金比1:τの菱形の辺を切頂比

  1/(1+τ)=0.381966

すなわち1:τなる内分点で切り取った形である.

 この切頂菱形三十面体は切り口となる正五角形が中心に置いた正十二面体の正五角形面と合同になるが,球には内接も外接もしない.前回のコラムではこの計算方法を割愛してしまったが,まずはその解説から始めたい.

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【1】菱形十二面体の切頂

 菱形十二面体は1辺の長さの比が1:√2の立方体と正八面体の相貫体の外殻となるのであるが,菱形十二面体の四辺が集まる頂点だけを切頂して球に内接・外接するようにしたい.

 この計算に必要とされる数値は

  立方体の中心から頂点までの距離(外接球の半径):R6

  立方体の中心から面の中心までの距離(内接球の半径):r6

  立方体の中心から辺の中心までの距離:l6

  正八面体の中心から頂点までの距離(外接球の半径):R8

である.

  R6=sin(π/3)=√3/2

  r6=cot(π/4)cos(π/3)=1/2

  l6=cos(π/4)=√2/2

  R8=√2sin(π/4)=1

 切頂比をt(0≦t≦1)とおくと,外接球をもつための条件は

  切頂面までの距離:a=r6+(R6−r6)t

  切頂面の中心から頂点までの距離:b=r6t

  正八面体の中心から頂点までの距離:c=R8

の間にa^2+b^2=c^2が成り立つことである.2次方程式に帰着されるが,この2次方程式は一つの根としてt=1をもつことがわかっているので,実質的には1次方程式である.これを解くとt=1/3が得られる.

 一方,内接球をもつための条件は,菱形面までの距離がl6となることに気づけば簡単である.

  切頂面までの距離:a=r6+(R6−r6)t

  菱形面までの距離:b=l6

a=bよりt=2−√2が求められる.

 切頂菱形十二面体は実際には菱形十二面体の切頂ではなく,立方体を切稜することによって得られる.その際,切稜パラメータをdとおくと

  t=2d/(d+2)

の関係があり,

  t=1/3  → d=2/5

  t=2−√2 → d=2(√2−1)

となった.これらはコラム「切稜立方体」で述べた結果と一致している.

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【2】菱形三十面体の切頂

 複合多面体の直交する2本の稜が菱形面の対角線となっていることから, 菱形三十面体は1辺の長さの比が1:τの正十二面体と正二十面体の相貫体の外殻となる.

  R12=sin(π/3)=√3/2

  r12=cot(π/5)cos(π/3)=((5+2√2)/5)^(1/2)/2

  l12=cos(π/5)=(√5+1)/4

  R20=τsin(π/5)=τ(10+2√5)^(1/2)/4

 菱形三十面体の五辺が集まる頂点だけを切頂して球に内接・外接するようにしたい.計算の詳細は省くが,外接球をもつための条件は,同様にして

  at^2+bt+c=0

  a=35−15√5

  b=−20+8√5

  c=−15+7√5

なる2次方程式に帰着され,その解は

  t=1/√5=0.447214

となる.(この2次方程式はもう一つの根としてt=1をもつことがわかっているので,解はt=c/aあるいはt=−b/a−1で与えられる.)

 それに対して,内接球をもつための条件は

  r12+(R12−r12)t=l12

より

  t=4/(10+2√5)^(1/2)+2)=0.919299

 以上のことから,正120胞体の胞心模型は球には外接・内接せず,正五角形面の方が不等辺六角形面よりも高いことがおわかり頂けるであろう.

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【3】120の数え方

 いくつかの胞体が2つで1つずつの側面を共有しあいながら4次元空間の中で連結していったものが多胞体である.正120胞体とは120個の胞(正十二面体)が各稜のまわりに3個ずつ集まったもので,4次元における3次元正十二面体対応物である.

 できあがった4次元正120胞体の3次元投影図を見ると,頂点と稜の連結形態は正しく現れているものの,そこには120個ではなく1+12+20+12=45個の正十二面体があるだけである.

 しかし,これは透視図ではなく直投影での話であるから,投影に際して重なり合って見えないのもあるだろう.たとえば,立方体を平面に投影する際,隠線処理すると6面のうち3面しか映らない.しかし,隠線処理しないならば2重の多角形が外形としての大きな多角形の中を埋めつくすことになる.表側3面+裏側3面で6面体であることもわかるだろう.

 表側半分しか見えないという事情は4次元でも同じで,隠線処理しないならば2重の多面体が外殻としての大きな多面形の中を埋めつくす.しかし,それならば45+45=90個となるはずである.残りの30個はどこへいったのだろう?

 そこで,できあがったものをよく見ると平面につぶれた切頂黄金菱形30枚が外回りに現れている.これは退化した正十二面体であり,裏に隠れる瞬間の正十二面体と考えることもできる.すなわち,退化した正十二面体を挟んでもう一度内側の正十二面体を数えると全部で45+30+45=120個の正十二面体が集まっていることになる.表側に45個,裏側に45個,その境界に30個というわけである.

 そこでは正十二面体が2つずつ側面を重ね合わせながら六角形に退化していて裏に隠れる瞬間に再び同じ3次元投影図形を生む・・・私の頭の中ではこれを一方ではわき出しながら,他方では沈み込んでいくイメージとして捉えているのであるが,このような稚拙な解説で納得して頂けるであろうか?

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