■書ききれなかった数の話(その33)
(その31)を補足しておきます.ヤコビの楕円関数sn,cn,dnを三角関数に対応する2重周期関数とするならば,ヤコビのテータ関数は指数関数に対応する擬2重周期関数です.不思議なことにテータ関数は数学のみならず物理とも深く関わっています.
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【1】ヤコビの楕円関数
この節ではヤコビの楕円関数について説明することにします.ヤコビは,第1種不完全楕円積分
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
ω=F(z)=∫(0-Z)f(x)dx
に対して,正弦関数をまねてF^(-1)(ω)をsnω=F^(-1)(ω)と定義し,
sn^(-1)z=∫(0-Z)f(x)dx
を得ました.
また,三角関数にならって
cnω=√(1-sn^2ω),dnω=√(1-k^2sn^2ω)
と定義しました.関数sn,cn,dnがヤコビの楕円関数ですが,少し複雑な三角法と思えばよく,三角関数同様,ヤコビの楕円関数からはいろいろな加法公式を導き出すことができます.
なお,第1種不完全楕円積分において,k→0とすると,
K(0)=∫(0-Z)f(x)dx=sin^(-1)z
k→1とすると,
K(1)=∫(0-Z)f(x)dx=tanh^(-1)z
ですから,snωはsinωとtanhωの中間に位置していることがわかります.
実際にベキ級数展開を求めると,
snω=ω-(1+k^2)/6ω^3-(3+2k^2+3k^4)/40ω^5+・・・
が得られます.
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【2】テータ関数の定義と無限和表示
ヤコビのテータ関数
θ3(z)=1+2Σq^(n^2)cos(2nπz)
は指数関数(周期関数)に対応しているのですが,ヤコビはテータ関数を使うことによって,ヤコビの楕円関数(二重周期関数)を表すことにも成功しています.
まず,テータ関数の導入と定義にあたって,複素平面上の関数で,
(1)f(z+1)=f(z)
(2)f(z+τ)=ω(z)f(z)
を満足するものと考えることにします.(1)はfが周期Zをもつこと,(2)はτZは周期とはならないが,それに近いものであることを意味します.リウヴィルの定理により,2重周期を有する正則な関数は定数しかないので,2重周期性を少し緩めて定数でない関数を求めようという発想です.
(1)(2)より
ω(z)f(z)=f(z+τ)=f(z+1+τ)=ω(z+1)f(z+1)=ω(z+1)f(z)
したがって,ω(z+1)=ω(z)でなければなりませんから,
ω(z)=cexp(−2πiz)
なる関数を採用することにします.
一方,周期性の定義(1)より,q=exp(2πinz)のベキ級数としてフーリエ展開をもつので,(1)をフーリエ変換すると
f(z)=Σanexp(2πinz)
また,
Σanexp(2πin(z+τ))=f(z+τ)=ω(z)f(z)=cexp(−2πiz)Σanexp(2πinz)=cΣanexp(2πi(n−1)z)=cΣan+1exp(2πinz)
ここで,exp(2πinz)の係数を比較すると,can+1=anexp(2πinτ),a0=1とおくと一般に
an=c^(-n)exp(πin(n−1)τ)
となります.
さらに,q=exp(πiτ),c=q^(-1)とおくことによって,an=q^(n^2),したがって,
f(z)=Σq^(n^2)exp(2πinz)
あるいは,y=exp(πiz)とおくと
f(z)=Σq^(n^2)y^(2n)
となります.
これがθ3(z)の定義ですが,三角関数を用いると
θ3(z)=Σq^(n^2)y^(2n)
=1+2Σq^(n^2)cos(2nπz)
とも表されます.
テータ関数は2変数z,τ(あるいはy,q)の関数なのですが,文献によっては
q=exp(2πiτ)
y=exp(2πiz)
としていることもあるので注意してください.
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【3】テータ関数の零点と無限積表示
θ3(z+1)=θ3(z)
θ3(z+τ)=Aθ3(z),A=q^(-1)y^(-2)
を拡張すると
θ3(z+m+nτ)=q^(-n^2)y^(-2n)θ3(z)
ですが,テータ関数の零点が
θ3(m+nτ+1/2+τ/2)=0 (m,nは整数)
(証明は帰納法による)であることより,テータ関数の無限積表示
θ3(z)=Π(1−q^2m)(1+q^(2m-1)y^2)(1+q^(2m-1)y^(-2))
が得られます.
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【4】楕円テータ関数
このように楕円関数論ではθkがzについて擬2重周期(1,τ)をもつ関数として互いに関係する点に注目するのに対して,物理ではθkのτについてのモジュラー関数として着目します.
そこで,簡単のため,z=0(y=1)とおいたものをθk(τ)とかくと,楕円テータ関数
θ3(z)=1+2Σq^(n^2)
θ3(τ)=Π(1−q^2m)(1+q^(2m-1))^2
となります.
ここからはデデキントのイータ関数との関係で
q=exp(2πiτ)
としますが,周期性
θ3(τ+1)=θ4(τ)
双対性については,ポアソンの和公式を用いて求めます.
θ3(−1/τ)=θ3(τ)(−iτ)^(1/2)
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