(その6)(その7)では,1種類の多面体積み木で面心立方格子,体心立方格子の両方を作れるものについて考えてみました.まず思いついたのは切稜立方体の六角形面が3枚集まる頂点を三角錐状に削り取ることによってできる準正多面体[3,4,4,4]です.この準正多面体は斜立方八面体あるいは小菱形立方八面体と呼ばれているのですが,この立体で体心立方格子を作る場合,三角形面と三角形面の接合は逆向きになります.小菱形立方八面体を用いると面心立方格子,体心立方格子両用の積み木ができるのですが,接合面が逆向きのため,お世辞にも美しいとはいえません.
そこで,中川宏さんが提案してくれたのは大菱形立方八面体[4,6,8]による積み木です.写真左に小菱形立方八面体,右に大菱形立方八面体を掲げます.
大菱形立方八面体は正方形面接合で面心立方格子,正六角形面接合で体心立方格子,正八角形面接合で単純立方格子となります.大菱形立方八面体による面心立方格子模型と体心立方格子模型を掲げます.
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【1】小菱形立方八面体・大菱形立方八面体の計量
これらの立体は切稜立方体の切頂あるいは切頂立方体の切稜によって作ることができます.立方体を切稜してから切頂する場合,切頂の深さが切稜立方体の正方形面の頂点を通るとき正方形面と正三角形面からなる24面体,頂点を越えると四角形面,六角形面,八角形面からなる26面体ができあがります.
計算の詳細は省きますが,もとの立方体の1辺の長さを2とし,コラム「切稜立方体の計量」「切頂立方体の計量」で述べた切稜パラメータd1,切頂パラメータd2をそれぞれ
d1 d2
小菱形立方八面体 2(√2−1) 2(2−√2)
大菱形立方八面体 (6+2√2)/7 (12−3√2)/7
と設定するとうまく調節され各面がすべて正多角形になります.
また,切稜立方体の原点から六角形面の中心までの距離は
H6=(d1/4+1/2)√2
で与えられます.それに対して,切頂立方体では,0≦d2≦1の場合
原点から正三角形面までの距離:H3=√3(1−d2/3)
1≦d≦2の場合
原点から六角形面までの距離:H6=√3(1−d2/3)
であり同じ式で与えられます.
これらの多面体を使って格子を組み上げる場合,接合面は
面心立方格子 体心立方格子 単純立方格子
小菱形立方八面体 正方形面 正三角形面 正方形面
大菱形立方八面体 正方形面 正六角形面 正八角形面
となりますから,原点からそれぞれの面までの距離は上の式を用いて
面心立方格子 体心立方格子 単純立方格子
小菱形立方八面体 1 1.05301 1
大菱形立方八面体 1.15301 1.09223 1
と計算されます.これより大菱形立方八面体では正六角形面接合(体心立方格子)が正方形面接合(面心立方格子)よりわずかに近いということがわかります.
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【2】大菱形立方八面体による準空間充填
中川宏さんの大菱形立方八面体による面心立方格子と体心立方格子の模型はアクリル版で作られた空間の中に納まっています.もとの立方体の1辺の長さを2とすると,アクリル版の間の距離は面心立方格子でd1+4,体心立方格子で8−2d2+d1ですから
面心立方格子 体心立方格子 単純立方格子
(34+2√2)/7 (26+4√2)/7 4
と計算されます.
次に,大菱形立方八面体を用いて作った面心立方格子,体心立方格子,単純立方格子の隙間がどんな形になるのか考えてみましょう.面心立方格子は大菱形立方八面体と切頂四面体,切頂立方体とを組み合わせると空間充填形になります.また,体心立方格子は正八角柱,単純立方格子は切頂八面体,立方体とによる空間充填です.
面心立方格子,体心立方格子両用積み木にはさまざまな可能性が考えられるのですが,このように大菱形立方八面体はいろいろな組合せで空間充填形になりますから,なかでも大菱形立方八面体による準空間充填は最も美しい形になるものと思われました.
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