■ヒルツェブルフの符号数定理とベルヌーイ数(その2)

 2012年5月,ヒルツェブルフの訃報を知りました.ヒルツェブルフはドイツの数学者で,マックス・プランク研究所の初代所長を務めました.ご冥福を祈ります.

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【1】ヒルツェブルフの符号数定理

 ヒルツェブルフの符号数定理(指数定理)について紹介することにしましょう.

 Mを4の倍数次元の閉じた向きづけ可能な多様体(manifold)M^4kで,概平行性をもつと仮定する.Mの次元をnとするとき,

  n=8なら,Mの指数は7で割り切れる

  n=12なら,Mの指数は62で割り切れる

  n=16なら,Mの指数は127で割り切れる

  n=20なら,Mの指数は146で割り切れる

 一般に,n=4k(4の倍数)なら,Mの指数は

  2^(2k)(2^(2k-1)−1)/(2k!)・Bk   Bkはベルヌーイ数

を既約分数になおしたときの分子で割り切れるというのが,ヒルツェブルフの指数定理です.

 ここで,Bmはm番目のベルヌーイ数を指します.ベルヌーイ数の最初のいくつかを書くと,B1=1/6,B2=1/30,B3=1/42,B4=1/30,B5=5/66,B6=691/2730,B7=7/6,B8=3617/510,・・・.

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【2】ヒルツェブルフのL種数とポントリャーギン類

 多様体M^4kの符号数がそのL種数に等しいというのが,ヒルツェブルフの符号数定理ですが,多様体の符号数はポントリャーギン数の1次結合として表されることが示されていて,任意の多様体のL種数は整数ですから,ポントリャーギン数p1[M^4]は3で割り切れるし,7p2[M^8]−p1^2[M^8]は45で割り切れます.これを用いると,ヒルツェブルフのL多項式:Ln(p1,・・・,pn)におけるpnの係数が

  2^(2k)(2^(2k-1)−1)/(2k!)・Bk

になることが証明されます.

 こういうわけで,ヒルツェブルフの符号数定理と彼による一般化されたリーマン・ロッホの定理(リーマン・ロッホ・ヒルツェブルフの定理)の出現以来,トポロジストにとってベルヌーイ数とその数論的性質を知ることは大変有益なものになっているのです.

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 ベルヌーイ数は,次のようなベキ級数展開に現れる係数として定義されます.

  x/(1−exp(-x))=1+1/2x+Σ(-1)^(k-1)Bk/(2k)!x^2k

 同じことですが,ベルヌーイ数は

  x/tanhx=xcoshx/sinhx

=1+B1/2!(2x)^2−B2/4!(2x)^4+B6/2!(2x)^6−・・・

 あるいは,x/tanhx=2x/(exp(2x)−1)+xより,

  x/(exp(x)−1)=1−1/2x+B1/2!x^2−B2/4!x^4+B3/6!x^6−・・・

の係数として得られます.

  x/tanhx=2x/(exp(2x)−1)+x

は「ヒルツェブルフの等式」と呼ばれていて,左辺はL種数の母関数,右辺第1項がリーマン・ロッホ型定理で重要な役悪を果たすトッド種数の母関数を表していて,これらがひとつの等式で繋がっているというわけです.

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