■高次元の準正多胞体

 先日,宮崎興二先生の監修による

  石井源久・山口哲「高次元図形サイエンス」(京都大学学術出版会)

が出版されました.2次元の多角形,3次元の多面体から始まって,高次元の多胞体に至るまでのことが書かれてあります.内容はちょっと難しいのですが,図がとてもきれいです.

 高額(5600円)なので普段であれば本屋の立ち読みで済ませるのですが,中川宏さんの勧めもあって購読してみたところ,準正多面体,半正多面体とその高次元版についての記事が他に類書がなく印象に残りました.今回のコラムではこの本の宣伝を兼ねて,準正多胞体を中心として解説することにしたいと思います.

===================================

【1】準正多面体とその高次元版

 準正多面体(アルキメデス立体)は,正多面体(プラトン立体)と同じ回転対称性をもちながら2種類以上の面が規則的に配列されている立体である.アルキメデスの立体は13種類あり,11種類は正多面体と同じ回転対称性と鏡映対称性をもち,2種類は正多面体と同じ鏡映対称性をもたないねじれ型である.準正多面体は外接球と稜接球をもつが内接球はもたない.

 正多面体の各辺の中点を頂点とする準正多面体に立方八面体と12・20面体がある.前者は立方体と正八面体,後者は正12面体と正20面体の中間に位置する準正多面体である.3次元正多面体の切頂によって,2種類の正多角形からなる準正多面体ができるが,切頂の深さがその頂点と辺の中点との間にあるもの,辺の中点にあるもの,辺の中点を越えたものがあり,結局,ひとつの正多面体からそれに双対な正多面体に至るまで3段階の準正多面体があることになる.

 たとえば,

  立方体←→切頂立方体←→立方八面体←→切頂八面体←→正八面体

  正12面体←→切頂12面体←→12・20面体←→切頂20面体←→正20面体

と3段階を経過して変化する.

 しかし,自己双対な正四面体の場合は

  正四面体←→切頂四面体←→正八面体←→切頂四面体←→正四面体

となり,2種類の多面体が繰り返しながら現れるのみである.このように正四面体は厄介な存在なのである.

 当該の書籍では稜の中点に頂点を置くものを準正型(狭義の準正多面体)とし,それ以外の切頂型を切頂型(狭義の半正多面体)としている.この意味で13種類あるアルキメデス立体をさらに分類してみると

  (1)準正型:2種類(立方八面体,12・20面体)

  (2)切頂型:5種類(切頂四面体,切頂立方体,切頂八面体,切頂12面体,切頂20面体)

  (3)準正多面体の切頂型:2種類

  (4)添加型:菱形立方八面体など2種類

  (5)ねじれ型:ミラーの多面体など2種類

となる.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 準正多胞体とは,母体となる正多胞体と同じ回転対称性と鏡映対称性をもち,2種類の胞が各頂点と各辺の周りに一定の状態で集まる多胞体である.n次元正多胞体において,n−1次元側胞以外の構成要素の中心を頂点とする多胞体がn次元準正多胞体となる(n−1次元側胞以外の構成要素の中心を頂点とする多胞体はn次元正多胞体の双対図形である).準正多胞体は外接n次元球と稜接n次元球をもつ.

 4次元の準正多胞体では,ひとつの正多胞体体からそれに双対な正多胞体に至るまで

  (1)その頂点と辺の中点との間にあるもの

  (2)辺の中点にあるもの

  (3)辺の中点と側面の中心の間にあるもの

  (4)側面の中心にあるもの

  (5)側面の中心と胞の中心の間にあるもの

の5段階の(広義の)準正多胞体があることになる.

 4次元多胞体は正(5,8,16,24,120,600)胞体の6種類ある.

      境界多面体  頂点数  双対性         3次元対応

5胞体   正4面体     5  自己双対(非中心対称) 正4面体

8胞体   立方体     16  16胞体と双対     立方体

16胞体  正4面体     8   8胞体と双対     正8面体

24胞体  正8面体    24  自己双対(中心対称)

120胞体 正12面体  600  600胞体と双対    正12面体

600胞体 正4面体   120  120胞体と双対    正20面体

 正24胞体に相当する3次元正多面体はない.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからである.すなわち,正24胞体(24胞,正3角形のみからなる96面,96辺,24頂点)こそが,四次元特有の物体であると考えられるのであるが,正24胞体は,四次元空間で三次元空間の立方体にあたる正八胞体(8胞,24面,32辺,16頂点)と正八面体にあたる正十六胞体(16胞,32面,24辺,8頂点)を重ねてできることから,その意味で4次元版の菱形十二面体に相当するものである.

 4次元の準正多胞体では,ひとつの正多胞体からそれに双対な正多胞体に至るまで5段階の準正多胞体があることは前述したが,自己双対な正5胞体と正24胞体では本質的に3段階の変化があるのみである.正8胞体(4次元立方体)では5段階を経過して双対図形の正16胞体に変化するが,稜に中点に頂点を置くものはは正24胞体に一致する.正120胞体は5段階を経過して双対図形の正600胞体に変化する.

 4次元空間の場合,稜の中点に頂点を置くもの,側面の中心に頂点を置くものが狭義の「準正多胞体」である.ここでは狭義の意味で用いることにするが,側面の中心に頂点を置くものはその双対多胞体の稜の中点に頂点を置くものと一致するから,結局,4次元の狭義の準正多胞体は正(5,8,24,120,600)胞体のそれぞれの稜の中点に頂点を置く5種類あることになる.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 五次元以上のn次元の場合は,2n個の頂点と2^n個の胞をもつ双対立方体(三次元では正八面体),2^n個の頂点と2n個の胞をもつ立方体,n+1個の頂点とn+1個の胞をもつ正単体(三次元では正四面体)の3つですべての正多面体をつくしている.

        境界胞体    頂点   双対性  対応

(n+1)胞  n胞体     n+1  自己双対 正4面体・5胞体

2n胞体  (2n−2)胞体  2^n   2^n胞体 立方体・8胞体

2^n胞体    n胞体     2n 2n胞体 正8面体・16胞体

 5次元以上のn次元空間には正五角形や正十二面体に相当する5回対称性をもった正多胞体は存在しない.逆にいうと,三次元の場合はこれらの他に2つの正多面体<正十二面体と正二十面体>があり,四次元の場合は他に3つ<24胞体,120胞体,600胞体>あるといったほうがわかりやすいかもしれない.

 これまでの話から,一般に

  (1)n次元立方体は(2n−3)段階を経て双対立方体に変化すること

  (2)n次元正単体には(n−1)段階の準正多胞体があること

が理解されるであろう.

 5次元準正多胞体では,3次元側胞の中心に頂点を置くものは双対正多胞体の稜の中点に頂点を置くものと一致するから,(狭義の)準正多胞体は稜の中点に頂点を置くもの,側面の中心に頂点を置くものだけを数えると2+3=5種類,6次元準正多面体では,3次元側胞の中心に頂点を置くものは双対正多胞体の面の中心に頂点を置くものと一致し,4次元側胞の中心に頂点を置くものは双対正多胞体の稜の中点に頂点を置くものと一致するから,(狭義の)準正多胞体は2+4=6種類あることになる.

===================================

【2】半正多胞体

 半正多胞体を2種類以上の胞が各頂点の周りに一定の状態で集まるものと定義すると,準正多胞体はそのうち各辺の周りの状態も一定となった特殊例と考えることができる.

 準正多面体の定義は人によっていろいろなのであるが,アルキメデスの立体に,アルキメデスの正角柱(Archimedean prism:上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの),アルキメデスの反角柱(Archimedean antiprism:アルキメデスの正角柱を少しひねって,側面をすべて正三角形にしたもの)を加えることもある.正4角柱は立方体と,反3角柱は正八面体と一致する.

 これらは各々無限個存在することから,アルキメデスの立体からは通常除外されるが,これらを含めることにして,2種類以上のn−1次元多胞体,準正多胞体,半正多胞体が各頂点のまわりに一定の状態で集まった多胞体がn次元半正多胞体である.半正多胞体も外接n次元球と稜接n次元球をもつ.

 4次元空間内の半正多胞体は

  (1)準正型:5種類

  (2)切頂型:9種類

  (3)添加型:25種類

の合計39種類がある.さらにこれに特殊型としてゴセットのねじれ24胞体,コンウェイの大反角柱などが加わる.同様に,5次元半正多胞体では

  (1)準正型:5種類

  (2)切頂型:6種類

  (3)添加型:36種類

の合計47種類あり,無数個の特殊型が加わる.

===================================

【3】星形正多角形とその高次元版(星形正多胞体)

 正多角形の辺を延長すると星形の正多角形が得られますが,そのとき,辺が一連になって一つの多角形を作る場合と2つ以上の多角形に分かれる場合があります.前者を星形正多角形,後者を雪型多角形といいます.

 構成法を変えると,星形正多角形(n/d角形)は,正n角形の頂点をd個おきにとってできる図形です.ソロモンの星は5/2角形,ダビデの星は6/2角形となるのですが,nとdが互いに素でないとき,n/d個のd角形に分かれます.たとえば,正5角形からは星形(ソロモンの星)が,正6角形からは雪型(ダビデの星)が得られます.ダビデの星はイスラエルの国旗にも使われ,ユダヤ人の象徴とされているのに対し,ソロモンの星はピタゴラス派のシンボルマークで黄金比と関係しています.ダビデはソロモン王の父ですが「ソロモンの指輪」は名著として定評があるのでご存知の方も多いと思われます.

 2次元平面上で正n角形(n≠3,4,6)の辺を伸ばしていくと,星形正多角形が生まれるというわけですが,3次元空間内で正多面体(≠正四面体,立方体,正八面体)の面を広げていくと4種類の星形正多面体が生まれます.これがケプラー・ポアンソの立体ですが,3次元星形正多胞体が4通りしかないことは,1811年,コーシーによって証明されています.

 同様に,4次元空間内で正120胞体と正600胞体の胞を広げていくと,10種類の星形正多胞体が生まれます.4次元星形正多胞体が10通りであることは,1915年,ファン・オスが不完全ながら証明し,1931年,コクセターにより完全な証明が与えられました.

 5次元以上のn次元空間では正20面体,正600胞体系の多胞体がないこともあって,まだ見つかっていません.というより5次元以上の星形正多胞体は不可能なのでしょう.

===================================

【4】雪形正多角形とその高次元版(複合正多胞体)

 2次元平面上の正多角形の辺を伸ばしていくと,2種類以上の正多角形が重なっていると考えられる雪型の正多角形が得られます.3次元空間内の正多面体の面を広げていくと2種類以上の正多面体が相貫しあっていると考えられる雪型の正多面体が得られます.たとえば,2つの正4面体を逆向きに抱き合わせた星形8面体「ケプラーの8角星」は,24面すべてが正三角形よりなるものの,星形正多面体には通常加えられず,正多面体からも除外されます.

 ケプラーの8角星は雪型正多面体(複合正多面体)に分類されるのですが,複合多面体とは,いくつかの多面体を中心がすべて一致するように重ね合わせたものであって,多面体が同じくらいの大きさならば,互いに交わったり,ある面が他の面を突き抜けたりします.雪型正多面体は全部で5種類あり,ケプラーの「星形8面体」は最も簡単なものとなっています.残りの4つは以下のものです.

  正4面体を5つあわせたもの(頂点は正12面体)

  正4面体を10個あわせたもの(頂点は正12面体)

  立方体を5つあわせたもの(頂点は正12面体)

  正8面体を5つあわせたもの(頂点は正20面体)

 複合正多面体(雪形正多面体)は5通りであることが知られていますが,4次元雪形正多胞体は46通りあります(コクセター,1933年).

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

(問)同じ大きさの正3角形2個のうち,1個を天地逆転させ,もう1個の正3角形に重ねると,星形の外側と内側にそれぞれ6角形ができる.それでは,同じ大きさの正4面体2個を重ねた場合,その外側と内側にはどのような立体ができるだろうか?

 この問題はダビデの星の3次元版で,同じ大きさの正4面体2個による屋根瓦状の相貫体にはケプラーの8角星という名前がつけられています.最も簡単な複合多面体なので,これが頭の中でイメージできれば答は簡単ですが,勘の働きにくい問題です.

(答)正8面体を芯として,このとき,ケプラーの8角星の頂点は立方体の頂点をなすというのが正解です.

 立方体と正8面体,正12面体と正20面体の相貫体について考えてみると,立方体と正8面体の相貫体は,外側を菱形12面体(直交する対角線の比が1:√2の菱形12面)が,内側には立方8面体(正方形6面+正3角形8面)が入っています.正12面体と正20面体の相貫体では,外側を包む立体が菱形30面体(直交する対角線の比が黄金比になっている菱形30面),内側には12・20面体(正5角形12面+正3角形20面)という多面体が内包されているのです.(正多面体とその双対多面体との共通部分は,正8面体,立方8面体(6・8面体),12・20面体です.)

 したがって,菱形十二面体は立方体と正八面体,菱形三十面体は正十二面体と正二十面体を合成した立体ということができます.菱形十二面体の稜は立方体の対角線方向(4方向)を向いていて,対角線の長さの比が1:√2の菱形からなる12面体ですが,菱形三十面体の稜は正二十面体の6本の主対角線方向にあり,対角線の比が黄金比の菱形多面体になるというわけです.

 3種類の相貫体−−正4面体と正4面体,立方体と正8面体,正12面体と正20面体−−について調べてみると,それぞれの立体の間に双対関係があり,3種類の相貫体の外側にできる立体と内側にできる立体−−立方体と正8面体,菱形12面体と立方8面体,菱形30面体と12・20面体も互いに双対関係をもっていることがわかります.そして,これらもやはり相貫体をつくることができ,そしてまたそこに現れてくる外側と内側の立体も双対関係になっています.頂点と面に関しての双対性にはうまくできているなと感嘆させられます.自然界の法則性,自然が作るきれいな関係の1例といえましょう.

 4次元空間内の複合正多胞体でも,2個の正16胞体を抱き合わせて4次元立方体に内接させたもの(ケプラーの8角星の4次元版),3個の正16胞体を抱き合わせて正24胞体に内接させたもの,3個の4次元立方体を抱き合わせて正24胞体に内接させたものなどがあります.

===================================

【5】平行多面体と空間充填

 互いに平行な辺がn組ある平行多面体の面の数は

  f=n(n−1)=2,6,12,20,30,42,56,・・・

枚となります.また,辺数,頂点はそれぞれ

  e=2n(n−1)

  v=n(n−1)+2

で表されます.

 平行多面体のうち,正多面体と同じ対称性をもつものに立方体,3種類のアルキメデス立体(切頂八面体,切頂立方八面体,切頂12・20面体),2種類のアルキメデス双対(菱形十二面体,菱形三十面体),正2n角柱があります.

 ところで,平行多面体による3次元空間の充填を考えると,1種類による周期的充填図形すなわち平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体として,立方体,正六角柱,菱形十二面体,長菱形十二面体,切頂八面体があります.以上の5種類を併せてフェドロフ(ロシアの結晶学者)の平行多面体といいます.6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものと一致しています.

 平行多面体による空間充填は結晶構造と深く関係していて,3次元格子には1848年にブラーベが発見した14種類あり,そして,これから決まる本質的なディリクレ領域(ボロノイ領域)は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体−−立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体(正6角形4枚と菱形8枚の2種類で作る12面体),切頂8面体−−しかないというわけです.

 これら5種類の図形は5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないのですが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる所以です.なお,2次元格子は5種類あり,それから決まるディリクレ領域も5種類あります.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 周期的とは平行対称性をもつもの,準周期的とは平行対称性がないもののうち,鏡映対称性あるいは回転対称性をもつもの,非周期的とは鏡映対称性も回転対称性ももたないものを指す用語なのですが,3次元空間の非周期的充填には5種類の黄金平行多面体による非周期的充填が知られています.

 ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,対角線の比が白銀比になっている菱形を12個組み合わせてできる菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.

 黄金菱形平行6面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute ,太めで平たいほうがobtuse と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体第2種,5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.これらはコクセターにより,A6(acute),O6(obtuse),B12(Bilinsky),F20(Fedrov),K30(Kepler)と名づけられていて,それぞれ3次元から6次元までの立方体の投影の外殻になっています.

 2種類の黄金平行多面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができるのですが,この黄金平行多面体による充填図形の平面への投影はペンローズ・パターンと呼ばれる準周期性平面充填となります.すなわち,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.

 一般にn次元平行多胞体は1種類あるいは何種類かでn次元空間を周期的に充填するのですが,それを3次元空間内や2次元平面上に投影すると非周期的な充填図形が得られることになります.その際,正10角形を構成する2種類の菱形で構成される準周期性平面充填をペンローズ・パターンというのですが,それに対して,正8角形を構成する2種類の菱形(正方形を含む)で構成される準周期性平面充填はアンマン・パターンと呼ばれるタイル貼りになっています.

===================================

【6】結晶群

 ここでは平行移動だけでなく,点中心の回転や直線に関する鏡映も考えてみることにします.平面上での等長変換は,平行移動,回転,鏡映,すべり鏡映,恒等変換の5種類あり,また,2次元結晶の回転角は,60°・90°・120°・180°・240°・270°・300°しかないことを考察することにより,2次元格子で異なる対称性をもつものは17種類存在することがわかります.この17種類の対称性は,2次元結晶群としてとらえることができます(フェドロフ).

 また,空間での等長変換は,平行移動,回転,並進回転,鏡映,すべり鏡映,回転鏡映,恒等変換の7種類ですから,3次元結晶群は219種類存在し,その多くが結晶構造として自然界にも存在していることが確かめられています.結晶をテーマとする物理の本には,たいてい3次元結晶群の数は230種類存在すると書かれてあるのですが,それは変換が向きを保たないものは異なるものと数えているからです(フェドロフ).

 これらの事実の証明は非常に困難であり,これ以上追求しないことにするが,とくに3次元の格子状配置は,19世紀の初めから,結晶内の原子の配列を記述するのに使われてきたものであり,対称性の群の分類についての仕事の大半は19世紀の結晶学者によってなされたこと,2次元格子5種類,3次元格子14種類に対し,4次元のブラーベ格子は64種類(74種類:10組は対掌体の関係にある)あり,4次元のフェドロフ結晶群は4783種類(4895種類)存在することを付記しておきます.

===================================