ランダム行列は乱数を要素にもち,基本的な対称性を満足する行列である.a)1950年代になって,ウィグナーはランダム行列に着目し原子核物理への応用を行い,ダイソンはとりわけおおきな貢献をなしたこと
b)ランダム行列の理論は数学の対象としても深い意味をもっていて,整数論におけるリーマン・ゼータ関数の零点分布の統計的性質がランダム行列によって再現できることから素数分布への関連づけががなされていること
は,コラム
「最近接距離分布(ウィグナー分布)」
「ゼータ関数の零点分布と量子カオス」
「定数項予想入門」
「リーマン予想が解かれた!(かも・第4報)」
などで繰り返し取り上げた話題である.
つい最近,
[参]永尾太郎「ランダム行列の基礎」東京大学出版会
を読んで,
c)ランダム行列の固有値の最近接間隔分布や最大固有値分布がパルンヴェ方程式によって表現されること
d)したがって,可積分系との関連でも興味をもたれていること
を知った.今回のコラムでは同書より得た知識を加えて,これまでのはなしを補完していきたいと思う.
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【1】ランダム行列
ランダム行列はウランなどの巨大原子核の励起状態を調べるために考え出されたものである.その理論は原子核物理において各行列成分がランダムになったものとして,ある対称性だけを仮定することによりエネルギーを研究するようになったのが始まりである.そして,原子核準位の統計的記述として生まれたランダム行列の理論が量子カオスの研究などへと繋がるのであるが,その統計性に適当な仮定,たとえば,正規分布を仮定する場合が非常に詳しく研究されている.
エネルギー準位統計において正規分布を仮定したランダム行列の集団を扱う場合,ランダムな行列要素をもつ行列の固有値の間隔分布として,α次のウィグナー分布
P(E)〜E^αexp(−aE^2) α=1,2,4
が現れることが知られている.1960年代初め,量子力学や宇宙論の研究で有名な物理学者ダイソンはランダム行列の研究を行い,
α=1のとき→GOE(実対称行列)
α=2のとき→GUE(エルミート行列)
α=4のとき→GSE
と名づけた.それぞれ,直交アンサンブル(Gaussian Orthogonal Ensemble),ユニタリーアンサンブル(Gaussian Unitary Ensemble),シンプレクティックアンサンブル(Gaussian Symplectic Ensemble)の略である.
原子核物理学ではウィグナー分布と呼ばれているが,これらは一般にはχ分布と呼ばれるクラスに属し,n次元におけるχ分布の密度関数は
p(x)=1/(2^(n/2-1)Γ(n/2))σ^nexp{-r^2/2σ^2}r^(n-1)
で表される.χ分布はn次元正規分布おける原点からのユークリッド距離の確率分布として導きだされるものである.その意味で,レイリー分布・マクスウェル分布は,いわゆる2次元・3次元標的問題の解となる分布である.
すなわち,GOEでは最近接間隔分布として1次のウィグナー分布(レイリー分布),GUEの場合は2次のウィグナー分布(マクスウェル分布)が得られる.1次のウィグナー分布はレイリー分布,2次のウィグナー分布はマクスウェル分布と呼ばれる分布に一致するものである.レイリー分布は英国のレイリー卿が音響工学との関連でこの分布を発見したことに由来し,マクスウェル分布は気体分子の速度分布と関係した物理学上の重要な分布関数になっている.
量子系のエネルギー準位間に強い反発が生じると,エネルギー準位の最近接間隔分布はウィグナー分布に一致する.一方,可積分系では準位間の反発がなく,指数分布
P(E)〜exp(−aE)
にしたがう.ポアソン分布に従う変数の間隔分布は指数分布に従うから,量子物理では指数分布とポアソン分布がほとんど同義語のように使われている.また,近可積分系のときには,ウィグナー分布とポアソン分布の中間をとるのだが,実際,最隣接間隔分布は中間の分布になることが多いという.
なお,0と1の間に互いに独立に一様分布する乱数がN個あるとする.乱数間の最近接間隔分布はN→∞のとき指数分布にしたがうこと,n次元の一様乱数の場合,n次のワイブル分布にしたがうことを申し添えておく.
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固有値の統計を調べる上で固有値分布のゆらぎこそが重要で,それを評価するために2準位相関係数や最近接準位間隔分布などが用いられる.とくに,相関関数と呼ばれる量が重要な役割を果たすのだが,それによれば,ΔE離れた固有エネルギー対が存在する確率は,α=2の場合,
C(ΔE)=1−(sinπΔE/πΔE)^2
になる.
また,モンゴメリーは正規化されたゼータ関数の零点のペアに関する相関を調べ,ダイソンはそれがランダムなユニタリ行列の固有値の相関関係
1−(sinπΔE/πΔE)^2
と同じものであることに気づいた.
経験的に量子カオス系の固有エネルギーにも同様の相関が見られるが,偶然の一致とは考えにくく,ゼータ関数の零点虚部はある未知のエルミート演算子の固有値である可能性が強いと考えられた(モンゴメリー・オドリズコ予想).零点の間隔分布がGUEのスペクトル統計に一致することが精密な数値計算により予想されたのだが,このようにランダム・エルミート行列の隣り合う固有値の間隔分布を行列の次数を無限大にして考えた理論曲線と一致したことは,数論研究者にとって衝撃的な結果であった.
これらのことにより,ゼータ関数の零点分布がランダム行列理論で得られる関数で表されることは予想されていたのだが,近年,ルドニックとサルナックはこれを部分的に証明したという.
このようにゼータ関数の零点を作用素のスペクトルと関連づけて解釈しようとする数論の新しい動きを総称して「数論的量子カオス」と呼ばれる.素数を周期軌道,零点を固有値と読み変えることによって,ゼータ関数が仮想的な量子系を表現していると考えることができるというのである.
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【2】パンルヴェ方程式
パンルヴェ方程式とは,PI〜PVIと表される6個の2階非線形常微分方程式の総称です.パンルヴェ方程式のなかで一番簡単なPIは,
y”=6y^2+x
ですが,右辺に2次の項y^2があるので,非線形方程式ということになります.非線形方程式では特異点の現れる場所が変わるという現象が起きるのですが,このことを指して「動く特異点」といいます.
PII:y”=2y^3+xy+α,PIII,・・・
と進むにつれて式はだんだんと複雑になっていき,極め付けが
PIV:y”=1/2(1/y+1/(y−1)+1/(y−x))y’^2−(1/x+1/(x−1)+1/(y−x))y’+y(y−1)(y−x)/x^2(1−x)^2(α+βx/y^2+γ(x−1)/(y−1)^2+δx(x−1)/(y−x)^2)
です.
f(x1 +x2 )=f(x1 )+f(x2 )・・・・・a)
f(cx)=cf(x)・・・・・・・・・・・・・・b)
を満足するとき,関数fは線形であるといいます.a)の重ね合わせ(加法性),b)の比例関係(斉次性)が満足されるならば,c1 ,c2 を任意の定数とする1次結合c1 x1 +c2 x2 に対し,
f(c1 x1 +c2 x2 )=c1 f(x1 )+c2 f(x2 )
は自明の理です.
自然界の法則の大部分は微分方程式の形で表現されますが,線形と非線形の違いを簡単(きわめて不正確)にいえば,非線形方程式は未知数の二乗の項を含むこと,線形方程式は一乗の項しか含まないことです.たとえば,y’=yのように1次の項しかない微分方程式は解の重ね合わせが成り立つ,すなわち,解の和もその解となるので線形,y’=y^2+xのように2次以上の高次項(y^2など)やy”=xyのように交差項(xyなど)を含む微分方程式は解の重ね合わせの原理が成り立たないので非線形です.
微分方程式はその解が初等関数,不定積分,逆関数の式で書けるとき,求積法で解けるといいますが,求積法で解けない微分方程式の最も簡単な例は
y’=y^2+x
です(このことは1841年,リウヴィルによって証明された.とはいっても話はそれほど単純ではなく,たとえば2次項をもつ微分方程式:
y’=y−y^2
の解はロジスティック関数である.)
交差項xyをもつ微分方程式:
y”=xy
は複素平面上の無限遠点に不確定特異点をもつ常微分方程式なのですが,線形化され,エアリー関数(過剰虹の計算に現れる特殊関数)が解となります.
これらの古典解(線形微分方程式に帰着する解)としてPIIではエアリー関数,PIVではガウスの超幾何関数がすぐに読みとれます.式は示しませんでしたが,PIII,PIV,PVの古典解はそれぞれベッセル関数,エルミートの直交多項式,クンマーの合流型超幾何関数となります.
このような線形方程式や楕円関数の微分方程式に帰着するものを除外して,非線形微分方程式を分類すると,6個のいずれかに帰着されるというのがパンルヴェの結論です.このような分類が困難な作業であったことは,関数論や微分方程式論を(深くも浅くも)学んだ経験のない小生にとっても容易に想像されるところです.
フランスの数学者ポール・パンルヴェはパンルヴェ方程式と呼ばれる微分方程式に名を残す偉大な数学者であったのですが,それと同時に著名な政治家でもありました.数学から政治に転じ,そのために多くの時間を奪われるようになったことは惜しまれるところですが,衆議院議長の要職にあっても,週に2回はソルボンヌで流体力学の講義をしていたというから驚かされます.
大統領候補に立って落選しましたが,彼は初めは物理学者として後には航空相として航空界の発展にも偉大な貢献をしていて,ライト兄弟がパリの空を飛行したときの最初の乗客であったり,大西洋横断をはたしたリンドバーグと一緒に写った写真も残されているそうです.
パンルヴェ方程式は1910年代に未完成のまま現代数学の表舞台から消えてしまったのですが,近年,再び物理学(可積分系)の問題に現れて復活し,脚光を浴びています.パンルヴェ方程式自身は100歳になる現在でも新鮮さを失わず異彩を保ち続けているのです.
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【3】ウィグナーの半円則
ウィグナーは,行列要素が独立に分布し平均が0で同じ分散をもつ場合に,固有値密度に対して半円則を証明しました(1958年).
n次の対称行列Hの固有値はすべて実数であり,それらを並べて,
λ1≦λ2≦・・・≦λn
とするとき,n→∞のときの挙動,すなわち,固有値の漸近分布を調べたいのですが,ウィグナーは,n→∞のとき
a√n≦λ≦b√nなる固有値の数/n → ∫(a,b)φ(t)dt
ここで,φ(t)=1/2πm^2√(4m^2-t^2)
が成り立つことを証明したのですが,この定理は要素の分布(ランダム,一様分布,ガウス分布,・・・)の詳細によらず,一般的に成り立つ性質であり,複雑で何の秩序もないように見える行列であっても,行列の大きさが非常に大きいときに成り立つ普遍的な法則があるというのです.
分布関数φのグラフは半円y=√(1-x^2)で与えられるますから,この定理を「半円則」ともいうのですが,ウィグナーの半円則は近年大いに発展したランダム行列の原型となっています.また,固有ベクトルは対称性を満たす空間内で一様分布することが知られています.
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ところで,数論における楕円曲線のヴェイユ・ゼータに関する佐藤(幹夫)予想とは,
偏角が[a,b]となる素数密度 〜 2/π∫(a,b)sin^2θdθ
というものである.
角分布がsin^2θに比例するという佐藤予想の最初の記述は,資料によると,昭和38年(1963年)のことなのであるが,sin^2予想でt=cosθとおけば,
偏角が[a,b]となる素数密度 〜 2/π∫(α,β)√(1-t^2)dt
となり,これも1種の半円則となっていることがわかる.
佐藤予想と対称行列の固有値分布に関するウィグナーの定理は,前者は数論,後者は物理学に関係していて出所はまったく異なるにも関わらず,どちらも同じ「半円則」で表されることは興味深いものがある.ゼータ関数と量子カオスのように根っこのところが,同じ構成原理で繋がっていることが予想されるであろう.
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【4】固有値の最近接間隔分布と最大固有値分布
ランダム行列の応用として,固有値の並びの順序を考慮に入れた統計量が必要になります.固有値の最近接間隔分布と最大固有値分布はその例ですが,これらはパンルヴェ方程式の解によって表されることが明らかになっています.
[1]最近接間隔分布
最近接間隔分布は,固有値密度がウィグナーの半円則で与えられているとき,非線形微分方程式:パンルヴェV
PV:y”=(1/2y+1/(y−1))y’^2−1/x・y’+(y−1)^2/x^2(αy+β/y)+γ/x・y+δy(y+1)/(y−1)
を解くことによって評価できることが示されています.
PVの古典解はクンマーの合流型超幾何関数となります.そしてそのx→0での漸近形,x→∞での漸近形より,最近接間隔分布のウィグナー近似
s^βexp(−as^2) β=1,2,4
が得られます.
最近接間隔分布は,尺度母数aや形状母数βの値によって,
1次のウィグナー分布:p(s)=π/2sexp(-π/4s^2)
2次のウィグナー分布:p(s)=32/π^2s^2exp(-4/πs^2)
4次のウィグナー分布:p(s)=262144/729π^3s^4exp(-64/9πs^2)
などとなりますが,指数関数の引き数はいずれも2乗の形s^2であることに注意してください.
ウィグナー近似(ウィグナー分布)は実用上役立つ良い近似を与えてくれるのですが,パンルヴェVによって記述される厳密解とはわずかに異なっていることが知られています.
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[2]最大固有値分布
それに対して,最大固有値分布は非常に簡単な(しかし非線形の)パンルヴェII
PII:y”=2y^3+xy+α
の解を使って書くことができます.
PIIの古典解はエアリー関数
Ai(x)=1/π∫(0,∞)cos(1/3t^3+xt)dt
となるのですが,この積分は虹の理論において導入されたため虹積分と呼ばれることもあります.PIIの解の中で,境界条件がエアリー関数となるものを使えばよいというわけです.
なお,x→∞におけるエアリー関数
Ai(x)=1/π∫(0,∞)cos(1/3t^3+xt)dt
Ai(−x)の極限形は
Ai(−x)〜cos(2x^(3/2)/3−π/4)/π^(1/2)x^(1/4)
ベッセル関数Ja(x)の極限形は
Ja(x)〜(2/πx)^(1/2)cos(x−πa/2−π/4)
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イギリスの天文学者・物理学者のエアリーは,過剰虹や雨粒の大きさと虹の関係などについて研究した.この説明には困難をきわめたのだが,このことは光を波動と考えて,水滴の大きさも考慮に入れた光の回折理論によらなければならなかった.
虹では光が空中から水中へ屈折して入り,中で反射して,屈折して空中に出ていく.光の経路にはスネルの法則が関係しているのだが,円(球)の性質も反映している.雨粒を理想化して,球であると考える.その際,水球に入った平行光線の束が,どのように出ていくかを調べると,入射光線と雨滴の中心との距離は様々な値をとるのであるが,出ていくときはある角度に光線が密集して,明るくなることがわかる.
この光の優先道路は入射角から測って42°(虹角)の方向に集約される.数学的には包絡線というのだが,光学分野では焦線(caustic)あるいは火線という名で知られている.焦点では光が1点に集まるが,焦線とは点ではなくて線をなす場合をいうのである.
エアリ−は,焦線の考え方に従って,過剰虹を説明しようとした.水滴の中の光の経路は1本線で書き表されることが多いのであるが,それは焦線であるから,極大値をとる方向ということであって,焦線について,正確に説明するためには微積分が必要になってくる.
エアリーは,ホイヘンスの原理「ある瞬間の波面のすべての点から2次的な球面波がでていて,この2次波を重ね合わせると次の瞬間の波面となり,これが次々と伝播する」をいう原理に基づいて,焦線の近傍で光の強度を計算した.その結果だけを述べると,虹の光の振幅は,エアリー関数
Ai(x)=∫(0,∞)cos{π/2(t^3−xt)}dt
で記述される.光の強度はこの積分関数を2乗したものになる.
ここで,xは焦線からの距離と焦線の曲率に依存する定数である.本質的には焦線からの距離を表し,x=0のときがちょうど焦線のところで,デカルトの幾何光学に対応する.エアリー関数はx>0では指数関数的に減少し,x<0では正弦関数のように振動する関数である.
エアリー積分を使えば,光が最も強くなるのはデカルトの理論よりも少し内側にくることがわかる.また,三角関数のように繰り返し極大値をとるので,それが過剰虹を与えるというわけである.
一方,アレクサンダー暗帯でも,光の強度が完全に0というわけではなく,わずかながら光が漏れてくることもわかる.また,水滴が小さくなると焦線の曲率は大きくなって,虹のできる角度もより大きくなる理由も説明される.
1836年,エアリーはこのようにしてアレクサンダー暗帯の存在と過剰虹発生とを説明した.過剰虹がなぜ見えるかという問題に答えるには,幾何光学だけでは定まらず,本質的には微積分を必要としたのである.
ところで,エアリーが物理光学の面から虹の説明を論ずるために導入したエアリー関数
Ai(x)=∫(0,∞)cos{π/2(t^3−xt)}dt
は収束が悪いために,数値計算は困難である.エアリー自身はいろいろなxに対する値を区分求積法で数値積分したのだが,大変な手間であった.
その後,ストークスは,エアリー関数が解となる微分方程式
y”=xy
を利用して,実数のパラメータxを複素平面全体に拡げ,エアリー関数の零点その他の詳しい性質を調べた.その結果,エアリー関数は,
∫(0,∞)cos(t^3−xt)dt=π/3√(π/x)[J1/3(2x^3/2/3^3/2)−J-1/3(2x^3/2/3^3/2)]
のように,±1/3次のベッセル関数で表現できることがわかった.このことによって,数値計算の手間が大幅に削減されたことが容易に想像できよう.
ストークスの研究は,xが大きいときのエアリー積分の漸近挙動を調べるといった今日の漸近解析のはしりであって,現代の解析学に直結し,常微分方程式論の中に「複素平面上の無限遠点に不確定特異点をもつ常微分方程式」という分野を生み出した.
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[参]永尾太郎「ランダム行列の基礎」東京大学出版会
では触れられておりませんでしたが,(その1)において半円分布:
f(x)=(1-x^2)^(1/2) (-1≦x≦1)
の場合,
F(x)=1/2[x(1-x^2)+arcsinx]+π/4
より,最大値x(n)の累積分布関数G(x)は
G(x)={1/2[x(1-x^2)+arcsinx]+π/4}^n
となることを示しておきました.
この具体的な分布型は煩雑ですが,nが大きいとき,この極値極限分布がワイブル分布(指数分布を含む)か2重指数分布(ガンベル分布)の2つのうちどちらかになることが知られています.ワイブル分布は指数分布にしたがう確率変数のベキ乗変換であり,一方,2重指数分布は指数分布にしたがう確率変数の対数変換として導かれる分布です.
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