■朝鮮サイコロ・中国サイコロの数理(その2)

 今回のコラムでは,外接球を有する中心対称な多面体をサイコロとして用い場合に各面のでる確率を求めてみることにします.2種類の面をもつ多面体を対象としますが,正多面体の場合とは違って,サイコロを投げたとき(toss)と転がしたとき(roll)では目のでる確率が異なります.

 tossingは静的で,各面のでる確率はその立体角によって決まってくるので球面三角形を考える問題に帰着されます.それに対して,rollingは動的であって,たとえば辺で接地していてその真上に重心がある状態では左半分と右半分のそれぞれの重心の低い方に転がりやすいと考えられますから,物理学的な問題となります.

 立方八面体をtossした場合,

  四角形面:三角形面=0.6490:0.3510

rollした場合,

  四角形面:三角形面=0.7624:0.2373

と計算されていて両者の確率は大きく異なっていますが,勢いがつくと小さな面が不利になるというわけですから,経験的にも合致している点が面白く感じられます.

 rollingの方がより実感に近いと思われますが,rollしたときの確率については後回しにして,今回は任意の切頂立方体をtossした場合に各面のでる確率を切頂の深さdの関数として表すことにします.

 立方八面体に限らず,任意の切頂立方体は球に内接します.切頂立方体においてもとの立方体の1辺の長さを2,切頂される頂点から辺までの切削距離をdとおきます(0≦d≦2).すると

    d=0:立方体

  0<d<1:八角形面6枚と正三角形面8枚からなる14面体

    d=1:立方八面体

  1<d<2:正方形面6枚と六角形面8枚からなる14面体

    d=2:正八面体

で,

  d=2−√2

のとき,切頂立方体(正八角形面6枚と正三角形面8枚からなる14面体)

  d=3/2

のとき,切頂八面体(正方形面6枚と正六角形面8枚からなる14面体)ができあがります.

 また,朝鮮サイコロ

  d=3−√3

は球に外接(内接球が存在)し,かつ,S^3/V^2比が最小となる14面体です.立方八面体では・・・,切頂八面体では・・・,朝鮮サイコロでは・・・とまとめて確率計算できた方が都合がいいのです.

===================================

【1】球面三角法

 半径1の球面(単位球面)上に3点A,B,Cがあり,それぞれが大円の弧で結ばれているものとします.球面三角形ABCの3辺の長さ(球面距離)をa,b,cで表すとそれぞれ大円の中心角となります.すなわち,単位球では球面距離を中心角と同一視できるわけです.また,内角A,B,Cは大円同士が交わる面角の大きさです.

 球面三角法の公式は多数ありますが,計算に便利なように単位球における式として与えられています.ここで用いるのは

  cosc=cosa・cosb+sina・sinb・cosC

とその巡回置換,それに球面三角形ABCの面積Sを角過剰として表した

  S=A+B+C−π

の2つだけです.

===================================

【2】切頂立方体(0≦d≦1の場合)

 0<d<1では八角形面6枚と正三角形面8枚からなる14面体となりますが,ここでは正三角形面

  A(1−d,1,1)

  B(1,1−d,1)

  C(1,1,1−d)

を球面三角形として設定します.

  OA↑・OB↑=|OA↑||OB↑|cosc

 =(d^2−2d+3)cosc=3−2d

より,

  cosc=(3−2d)/(d^2−2d+3)

  cosc=cosa=cosb,C=A=B

ですから

  cosC=(cosc−cos^2c)/sin^2c

      =cosc/(1+cosc)

      =(3−2d)/(d^2−4d+6)

より,

  C=arccos(3−2d)/(d^2−4d+6)

 C=A=Bですから,A+B+C=3C.したがって,球面三角形ABCの面積S3は

  S3=3C−π=arccos(3−2d)/(d^2−4d+6)−π

で与えられることがわかります.

 また,

  6S8+8S3=4π(全表面積)

より,

  S8=2π−4C=2π−4arccos(3−2d)/(d^2−4d+6)

となります.

 面のでる確率は,全表面積を単位として測りますから

  八角形面:三角形面=6S8/4π:8S3/4π

です.狭義の切頂立方体(d=2−√2)では

  C=arccos((2√2−1)/4)

ですから

  八角形面:三角形面=0.906684:0.0933161

立方八面体(d=1)では,

  C=arccos(1/3)

となりますから

  四角形面:三角形面=0.649038:0.350962

と計算されるというわけです.

================================

【3】切頂立方体(1≦d≦2の場合)

 1<d<2では,正方形面6枚と六角形面8枚からなる14面体となります.この場合,正方形面の対角線の長さの半分をrとしてパラメトライズすると,

  r=2−d

そして,正方形面の上半分の三角形を

  A(0,r,1)

  B(r,0,1)

  C(−r,0,1)

とすると,

  OA↑・OB↑=|OA↑||OB↑|cosc

 =(r^2+1)cosc=1

より,

  cosc=1/(r^2+1)=cosb

  OB↑・OC↑=|OB↑||OC↑|cosa

 =(r^2+1)cosc=1−r^2

より,

  cosa=(1−r^2)/(r^2+1)=cosb

 これより

  cosC=1/(r^2+2)^(1/2)=cosB

  cosA=−r^2/(r^2+2)

  A=arccos(−r^2/(r^2+2))=π−arccos(r2/(r^2+2))

と計算され

  S4 =2(A+B+C−π)

    =2{2arccos(1/(r^2+2)^(1/2)^(1/2))−arccos(r^2/(r^2+2))}

    =2{π−2arccos(r^2/(r^2+2))}

  6S4+8S6=4π

で与えられることがわかります.

 実際に計算してみると,切頂八面体(d=3/2)では

  四角形面:六角形面=0.212643:0.787357

朝鮮サイコロ(d=3−√3=1.26795)では

  四角形面:六角形面=0.406665:0.593335

となります.

 切頂立方体(1≦d≦2)をtossしたときの各面のでる確率が等しくなるにはS4=S6ですから,

  S4=2π/7  (A+B+C=8π/7)

  四角形面:六角形面=3/7:4/7

このとき,切頂の深さdは数値計算によってd=1.243.

 一方,四角形面と六角形面のでる確率が等しくなるためには6S4=8S6ですから

  S4=π/3  (A+B+C=7π/6)

である必要があり,d=1.164と計算されます.

===================================

【4】切稜立方体(d=2/5)の場合

 切稜立方体において,もとの立方体の1辺の長さを2,正方形面の1辺の長さをdとします(0≦d≦2).すると,

  d=2・・・・・・・・・・・・・立方体

  d=2(√2−1)・・・・・・・内接球をもつ18面体(d=2*0.4142)

  d=2/5・・・・・・・・・・・外接球をもつ18面体

  d=0・・・・・・・・・・・・・菱形十二面体

  d=2(√2−1)・・・球に外接

  d=2/5・・・・・・・球に内接

  それ以外・・・・・・・・外接も内接もしない

ことがわかります.

 外接球をもつのはd=2/5のときだけなのですが,r=d/2とリパラメトライズして一般的に計算してから,最後にd=2/5を代入することにします.

 球面三角形を

  A(r,r,1)

  B(r,−r,1)

  C(−r,r,1)

とすると

  OA↑・OB↑=|OA↑||OB↑|cosc

 =(2r^2+1)cosc=1

より,

  cosc=1/(2r^2+1)=cosb

  OB↑・OC↑=|OB↑||OC↑|cosa

 =(2r^2+1)cosc=1−2r^2

より,

  cosa=(1−2r^2)/(2r^2+1)=cosb

  cosC=1/(2r^2+2)^(1/2)=cosB

  cosA=−r^2/(r^2+1)

  A=arccos(−r^2/(r^2+1))

   =π−arccos(r2/(r^2+1))

  S4=2(A+B+C−π)=2{2arccos(1/(2r^2+2)^(1/2)−arccos(r^2/(r^2+1))}

  6S4+12S6=4π

 d=2/5を代入すると

  四角形面:六角形面=0.0734742:0.926526

が得られます.

===================================

【5】準正多面体[3,4,4,4]の場合

 立方体を

  d=2(√2−1)

で切稜すると正方形6枚と六角形12枚の2種類の面をもつ18面体ができあがります.

 この18面体は内接球をもつ唯一の切稜18面体であるのみならず,S^3/V^2比が最小(すなわち,表面積の割に体積が大きい)という性質をもつ特別な切稜立方体となっています.

 外接球はもちませんが,この切稜立方体の六角形面が3枚集まる頂点を三角錐状に削り取ることによって,準正多面体[3,4,4,4]ができあがります.この準正多面体は斜立方八面体あるいは小菱形立方八面体と呼ばれているのですが,準正多面体ですから外接球をもつようになります.

 r=d/2とリパラメトライズして,正三角形面

  A(1,r,r)

  B(r,1,r)

  C(r,r,1)

を球面三角形に設定します.

 すると,

  OA↑・OB↑=|OA↑||OB↑|cosc

 =(2r^2+1)cosc=r^2+2r

  cosC=cocc/(1+cosc)=(r^2+2r)/(3r^2+2r+1)

 また,C=A=Bですから,球面三角形ABCの面積S3は

  S3=3C−π

  8S3+18S4=4π

これより

  三角形面:四角形面=0.157896:0.842104

と確率計算されます.

[補]正多面体は球に内接・外接しますが,準正多面体は球に内接するだけで外接しません.どちらも外接球を描くことができる,つまり,立体のすべての頂点が1つの球に接するようにできるわけですが,正多面体のすべての面に接するような内接球がただ1つ存在するのに対し,準正多面体ではかならず2〜3の内接球が必要になってしまいます.ここでは準正多面体[3,4,4,4]の場合について計算しましたが,他の準正多面体についても同様に計算できるというわけです.

===================================

【6】デューラーの多面体の場合

 デューラーの多面体は,菱形六面体を球に内接するように切頂したものです.菱形六面体の菱形面の対角線の長さを2dと2,頂角をθとして,結果だけを示しますが,

  cosC={(td−d−x/2)^2−t^2+(z/2)^2}/{2(td−d−x/2)^2+2(z/2)^2}

  S3=3C−π

  2S3+6S5=4π

 θ=72°を代入すると

  三角形面:五角形面=0.0753684:0.924632

が得られます.

===================================

【7】まとめ(tossingしたときの確率)

 切頂立方体   八角形面:三角形面=0.906684:0.0933161

 立方八面体   四角形面:三角形面=0.649038:0.350962

 切頂八面体   四角形面:六角形面=0.212643:0.787357

 朝鮮サイコロ  四角形面:六角形面=0.406665:0.593335

 切稜立方体   四角形面:六角形面=0.0734742:0.926526

 斜立方八面体  三角形面:四角形面=0.157896:0.842104

 デューラー   三角形面:五角形面=0.0753684:0.924632

===================================