■菱形六面体の切頂(その4)

 前回のコラムでは,菱形六面体→外接球を有する切頂八面体→菱形六面体→・・・が無限入れ子となるための条件は頂角が72°のときではなく,約72.5°〜72.6°のときであることを数値計算を使ってつきとめました.ところがその直後に釜石南高校の宮本次郎先生が発見された定理を使えば解析的に厳密な計算により同じ結論を導き出せることができることがわかりました.

 宮本の定理とは「同じ菱形6枚でできる任意の菱形六面体について,2つの尖っている頂点に集まる辺をt:(1−t)に内分する点で切頂してできる八面体に,相似な菱形六面体を180°回転させて内接させるための必要十分条件は

  t=3/5

である.」というものです.

 「宮本の定理」の証明は近々「杜陵サークル」のレポートとして掲載されることになると思われますのでここでは取り上げませんが,証明は非常に簡単であって,よくぞこんなに好都合で便利な定理があるものだと感心させられました.ともあれ,この定理のおかげで数値計算ではなく解析的な計算が可能になるのです.

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【1】0.6=0.618?

 菱形六面体の菱形面の対角線の長さを2dと2,頂角をθとします.頂角72°の菱形六面体

  d^2=(5+2√5)/5

を黄金比切頂したとき,球に内接することが証明されています.

 このことは,球に内接する場合の切頂比tが

  t=2(d^2−1)/(d^2+1)=(√5−1)/2=1/τ

で計算されることから理解されることです.

 ところが,球に内接しかつ無限入れ子構造となるための条件は,宮本の定理により

  t=2(d^2−1)/(d^2+1)=3/5

したがって,

  d=√(13/7)

このとき,頂角θは

  θ=2arctan(1/d)=72.5425°

で与えられます.

 この無限入れ子となるための条件は小生の数値計算(72.5°〜72.6°)と一致しており,このことからも頂角72°の菱形六面体は無限入れ子とならないことが再確認されたことになります.

 製作者の立場にたてば

  3/5≒(√5−1)/2   (0.6≒0.618)

とかなり近いですし,

  72.5425°≒72°

となって1度未満のずれですから,製作上の誤差だと思ってしまうかもしれませんが・・・.

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【2】宮本先生へのインタビュー

 今回のコラムでは,宮本次郎先生の発見された定理を使って解析的に計算した結果を示しました.宮本の定理は任意の菱形六面体について成り立ちますが,頂角が変われば内接する条件も変わはず,しかるに一定値t=3/5となるというものですから何とも不思議な定理です.そこで,宮本先生ご本人に質問をぶつけてみることにしました.

[Q]ひとつ教えて頂きたきことがあります.宮本の定理は任意の菱形六面体について成り立ちますが,頂角が変われば内接する条件も変わるはずと考えるのが普通だと思います.しかるにt=3/5と一定値で与えられる・・・.証明は簡単なのとうらはらに,それに至った経緯がつかめません.発見に至る経緯についてお知らせ願えますか?

[A]佐藤郁郎さま,こんにちは.宮本です.発見の経緯ですか?・・・ちょっと困ってしまいます.発見というほどのことでもないので.

 最初は,榎本さんのパンフレットの中で「斜方六面体」という言葉を使っていたように,私自身もこの六面体が少し「ゆがんだ」感じをもっていたのです.だからこそ,菱形六面体の切頂八面体が球に内接するという記述を見て,本当かな?という疑問をもっていました.そして,いったんはその方向でレポートをまとめていたのです.

 ところが佐藤さんから球に内接すると聞かされ,じっと実物を見ていると,最初は「ゆがんだ」六面体と思っていたのが,ずいぶん良い対称性をもっているということに気がつきました.そして,球に内接することはなるほどそうなるだろうと思えるようになったわけです.

 佐藤さんの球に内接する証明において,72°に限定せずに一般の菱形について計算していたのを見て,なるほどデカルトが「条件は分割して使え」と言っていたなと,私も一般の菱形六面体について計算しようと思ったわけです.

 もう少しよじれて内接する場合もありうるのだろうかとも考えましたが,まず手始めに,接点を対称の中心(対称軸)にくる場合について考えてみたわけです.菱形の対角線上に内接する六面体の頂点を置くときに,最初は別のパラメータを考えたのですが,計算してみると,同じtでやるとうまくいきそうだと分かってきました.

 というわけで,佐藤さんへのメールでは「一つの十分条件」という言葉を使ったのは,もっと別の内接の仕方もあるのだろうけれども,そこのところの検討はまだしていないので,部分的な解決ということで「良い場所」で内接している場面をチェックしてみたということです.

 もしも内接するのであればこんな感じになるだろうという感じは,榎本さんの入れ子構造のオブジェを見てのことです.私は幾何オンチで,新学習指導要領では平面幾何を教えなければならなくなってあせっているほどです.ましてや空間というともう直観がきかない・・・.それで,できるだけ実物を作って,じっと見るというのが大事だなと感じています.

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