■確率分布で用いられる特殊関数(その3)
(6)ベッセル関数
ベッセル関数は,惑星の運動に関するケプラー問題を解析的に表現しようと試みた天文学者・数学者ベッセルの研究にちなんでいます.
惑星の軌道は太陽を中心とする楕円軌道
r=1/(1+ecosθ)
を動きますが,距離rと角度θが時間tの関数としてどのようになるか問うのが,いわゆるケプラー問題であって,ケプラー方程式はE−esinE=M
Eは離心近点離角,Mは平均近点離角,eは楕円の離心率で表されます.
ベッセル関数は三角関数に似た増減関数で,とくに,半整数次のベッセル関数は三角関数で表現できるわかりやすい関数です.
J1/2=root(2/πx)sinx
J-1/2=root(2/πx)cosx
しかし,三角関数の零点が一定の幅で規則正しく並ぶのに対して,任意の次数のベッセル関数の零点は単純にある値の整数倍とはいきません.ベッセル関数は,惑星の公転にはじまって,電磁波や光の回折,振動を表すのに適していて,物理学・工学分野で広く用いられています.
一方,統計分野では,物理学・工学分野と異なり,変形ベッセル関数が用いられます.第1種n次の変形ベッセル関数はIn(x),第2種n次の変形ベッセル関数はKn(x)で表されますが,変形ベッセル関数はx>0において非負の関数で,それぞれ単調増加,単調減少します.とくに,半整数次の変形ベッセル関数は双曲線関数で表現できます.
I1/2=root(2/πx)sinhx
I-1/2=root(2/πx)coshx
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(7)超幾何関数
ガウスは1812年に超幾何級数
F(α,β,γ:x)=1+αβ/γx+1/2!α(α+1)β(β+1)/γ(γ+1)x2+1/3!α(α+1)(α+2)β(β+1)(β+2)/γ(γ+1)(γ+2)x3+・・・
について非常に詳細な研究を行っていたことで知られています.この形の超幾何関数はガウスの超幾何関数と呼ばれ,
2F1(α,β;γ;x)
で表されます.
この級数が重要なのは,多くの既知の関数がこの級数で表されるという事実で,たとえば,
log(1+x)=xF(1,1,2:−x)
(1+x)n=F(-n,β,β:x)
があげられます.
また,
F(α,γ:x)=1+α/γx+1/2!α(α+1)/γ(γ+1)x2+1/3!α(α+1)(α+2)/γ(γ+1)(γ+2)x3+・・・
場合を合流形超幾何関数(またはクンマーの超幾何関数)と呼び,
1F1(α;γ;x)
で表されます.
一般に,F(x)=Σanxnとおくと,a0=1で連続する2項の係数比an+1/anが定数となる関数を超幾何関数と呼びます.
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超幾何関数はもっと一般化することが可能でp個の上部パラメータとq個の下部パラメータを有する超幾何関数は
pFq(a1,a2,・・・,ap;b1,b2,・・・,bq;x)と表されます.
an+1xn+1/anxn=(n+a1)(n+a2)・・・(n+ap)/(n+b1)(n+b2)・・・(n+bq)x/(n+1)
したがって,超幾何関数は項比が有理関数
an+1xn+1/anxn=p(n)/q(n)x/(n+1)
であるような級数にほかなりません.たとえば,級数Σ1/n4(2n,n)は漸化式
(2n,n)=2n!/n!n!=2(2n-1)/n(2(n-1),n-1)より
n4(2n,n)
=2(2n-1)n^3(2(n-1),n-1)
=2(2n-1)n^3/(n-1)4*(n-1)4(2(n-1),n-1)
なる漸化式が得られます.ここで
Σ1/n4(2n,n)が第0項から始まるようにパラメータをずらします.
Σ1/(n+1)4(2(n+1),n+1)
この級数の項比は
an+1xn+1/anxn=(n+1)^5/2(2n+3)(n+2)^2*x/(n+1)
ですから,
Σ1/(n+1)4(2(n+1),n+1)=a05F4(1,1,1,1,1|1/4)
(3/2,2,2,2| )
また,a0=1/2より
Σ1/(n+1)4(2(n+1),n+1)=1/25F4(1,1,1,1,1|1/4)
(3/2,2,2,2| )
これより級数Σ1/n4(2n,n)は超幾何級数であると同定されます.
また,ゼータ関数はζ(s)=Σ1/(n+1)sより
an+1xn+1/anxn=(n+1)^(s+1)/(n+2)^s*x/(n+1),a0=1
したがって,
ζ(s)=s+1Fs(1,1,・・・,1,1|1)
(2,2,・・・,2 | )
と表されます.指数関数,対数関数,三角関数,2項関数,ベッセル関数,直交多項式列,不完全ガンマ関数,指数積分,ガウスの誤差関数なども超幾何級数であって,超幾何関数は一般に収束半径1をもちます.
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