■確率分布で用いられる特殊関数(その2)

(5)ゼータ関数

 ゼータ関数は無限級数

 ζ(x)=Σ1/n^x=1/1^x +1/2^x +1/3^x +1/4^x +・・・

として定義される関数です.すなわち,ゼータ関数は調和級数

  H∞= 1/1+1/2+1/3+1/4+・・・

を一般化したものと考えることができます.

 さらに,ゼータ関数とガンマ関数との間に

 ζ(x)=1/Γ(x)∫(0-∞)t^(x-1)/(e^x-1)dt

 ζ(x)=1/(1-2^(1-x))Γ(x)∫(0-∞)t^(x-1)/(e^x+1)dt

が成り立ちます.まず最初に,これらを導いてみましょう.

Γ(s)=∫(0,∞)t^(s-1)e^-tdtにt=nxを代入するならば

Γ(s)/n^s=∫(0,∞)x^(s-1)e^(-nx)dx

が得られる.この式のnについての総和をとるなら

ΣΓ(s)/n^s=Σ∫(0,∞)x^(s-1)e^(-nx)dx

=∫(0,∞)x^(s-1)e^(-x){1+e^(-x)+e^(-2x)+・・・}dx

=∫(0,∞)x^(s-1)e^(-x)/(1-e^(-x))dx  (∵ 1+x+x2 +x3 +・・・1/(1−x))

=∫(0,∞)x^(s-1)/(e^x-1)dx

これより

Γ(s)ζ(s)=∫(0-∞)x^(s-1)/(e^x-1)dx

が得られる.

 また,交代級数

  φ(s)=1−1/2^s+1/3^s−1/4^s+・・・=Σ(−1)^n-1/n^s

を考えます.負項を正項に変えて,あとでその2倍を引くと

φ(s)=(1+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・)−2(1/2^s+1/4^s+・・・)

=(1+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・)−2^1-s(1+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・)

=(1−2^1-s)ζ(s)

となります.

ΣΓ(s)(−1)^n-1/n^s=Σ∫(0,∞)x^(s-1)(−1)^n-1e^(-nx)dx

=∫(0,∞)x^(s-1)e^(-x){1-e^(-x)+e^(-2x)-・・・}dx

=∫(0,∞)x^(s-1)e^(-x)/(1+e^(-x))dx   (∵1−x+x2 −x3 +・・・=1/(1+x))

=∫(0,∞)x^(s-1)/(e^x+1)dx

 これより

  Γ(s)ζ(s)(1-2^(1-x))=∫(0-∞)x^(s-1)/(e^x+1)dx

が得られる.

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【1】オイラーとゼータ関数

 次に,ゼータ関数の歴史を振り返ってみましょう.17世紀頃から無限級数和を求める研究が始まりました.簡単な例をあげると,幾何級数

 1/1+1/2+1/4+1/8+・・・

は2に収束します.無限回の計算は不可能ですからそのn次部分和Sn

Sn =1/1+1/2+1/4+1/8+・・・+1/2^n-1

を求めてみることにします.これを計算するにはうまい手があります.

Sn +1/2^n-1

=1/1+1/2+1/4+1/8+・・・+1/2n-1 +1/2n-1

=1/1+1/2+1/4+1/8+・・・+1/2n-2

=・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

=1/1+1/2+1/4+1/8+1/8

=1/1+1/2+1/4+1/4

=1/1+1/2+1/2

=1+1

=2

よって,Sn =2−1/2^n-1

 nをどんどん大きくすると1/2^n-1 はいくらでも小さくなり0に近づきますから,幾何級数は2に収束すると考えられます.この級数は各項の減少する割合が非常に大きいため単純な数に収束するのです.

 一般化された幾何級数,g(s)=Σ1/s^nは|s|>1のとき収束し,和g(s)=1/(s−1)をもつことはすぐに理解されます.

 一方,調和級数

  H∞= 1/1+1/2+1/3+1/4+・・・

は,はじめの1000項で7.485,100万項で14.393,10億項で21.3,1兆項で28.2と非常にゆっくりとですが大きくなり,ついには無限大に発散します.調和級数が発散することは容易に示すことができます.

1/3+1/4>1/4+1/4=1/2

1/5+1/6+1/7+1/8>1/8+1/8+1/8+1/8=1/2

・・・・・

 したがって,

(H∞)>1+1/2+1/2+1/2+1/2+・・・→∞

 幾何級数と調和級数とは,だんだん小さくなる正の分数の足し算という点では似ていますが,後者ではちりが積もって山となるわけで,その無限の果てにあるものは全く非なるものです.

 興味をそそり胸をわくわくさせるのは,収束する無限級数がいったいどんな数値に収束するのかという点です.幾何級数や調和級数などの無限級数は初等的で簡単に証明可能でしたが,18世紀最大の数学者オイラーが1736年に発見した結果はエレガントなだけでなく意外なものでした.その無限級数とは調和級数を拡張させた

 1/1^2 +1/2^2 +1/3^2 +1/4^2 +・・・=π^2 /6

です.この式の驚くべき点は自然数のみを含む級数の極限に円周率πが突然現れることです.実際,この足し算をいくら見つめても答えに円周率の現れそうな気配はまったくありません.

 Σ1/n^2 =1/1^2 +1/2^2 +1/3^2 +1/4^2 +・・・

が収束することは1/n^2<1/(n−1)nを用いて,次のようにして示すことができます.

(証明)n次部分和をPn とすると,

Pn =1/12 +1/22 +1/32 +・・・+1/n2

<1+1/1・2+1/2・3+・・・+1/(n−1)・n

=1+(1/1−1/2)+(1/2−1/3)+・・・(1/(n−1)−1/n)

=2−1/n<2

より,単調増加数列{Pn }は有界でn→∞のとき収束することがわかります.

 1728年にベルヌーイはこの和が8/5に近いと述べ,その後,オイラーは何年もこの足し算にとりつかれ大変な努力の末にこの値を求めましたが,π^2 /6であることをつきとめたとき,平方数の逆数和のかなたに円周率が浮かび上がる不思議にとても感動したようです.

 オイラーの無限級数和Σ1/n^s はsの関数とみるとき,ゼータ関数ζ(s)として知られており,ゼータ関数は調和級数ζ(1)=∞を一般化したものと考えることができます.ゼータ関数を用いると

 1/1^2 +1/2^2+1/3^2 +1/4^2 +・・・=π^2 /6=ζ(2)

と表されます.以下,ζ(4)=π^4 /90,ζ(6)=π^6 /945が続きます.

 オイラーはπに関連したいろいろな級数展開式をどっさり発見していて,

+,−が交互に出現すると=(1-2^1ーs)ζ(s)

 1/1^2 −1/2^2 +1/3^2 −1/4^2 +・・・=π^2 /12

 1/1^4 −1/2^4 +1/3^4 −1/4^4 +・・・=7π^4 /720

分母を奇数の偶数ベキ乗だけにすると=(1-2^ーs)ζ(s)

 1/1^2 +1/3^2 +1/5^2 +1/7^2 +・・・=π^2 /8

 1/1^4 +1/3^4 +1/5^4 +1/7^4 +・・・=π^4 /96

分母を奇数の奇数ベキ乗だけにし,さらに交代級数にするとオイラー数

 1/1^3 −1/3^3 +1/5^3 −1/7^3 +・・・=π^3 /32

 1/1^5 −1/3^5 +1/5^5 −1/7^5 +・・・=5π^5 /1536

などもオイラーによるものであり,ここで紹介したものはごく一部にすぎません.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 1/1−1/2+1/3−1/4+1/5−1/6+・・・

 は調和級数の交代級数で,この値は対数関数のマクローリン展開

log(1+x)=x−1/2x2 +1/3x3 −1/4x4 +・・・

によりlog2に収束することがわかります.

Σ(−1)^n-1 ・1/n=log2

メルカトールの定数とかグレゴリーの定数と呼ばれます.

グレゴリー・ライプニッツ級数(1671年)

1/1−1/3+1/5−1/7+1/9−1/11+・・・

1/(1+x)=1−x+x2 −x3 +・・・

これを項別積分すると

log(1+x)=x−1/2x2 +1/3x3 −1/4x4 +・・・

が得られます.ここで,xをx^2 に置き換えると

1/(1+x2 )=1−x2 +x4 −x6 +・・・

これを項別積分して

arctanx=x−1/3x3 +1/5x5 −1/7x7 +・・・

両辺にx=1を代入すると,グレゴリー・ライプニッツ級数は

arctan1=π/4

π/4に収束することがわかります.

Σ(−1)^n-1 ・1/(2n+1)=π/4=arctan1

 1/1^2 −1/3^2 +1/5^2 −1/7^2 +・・・

=1/2∫(0-π/2)θ/sinθdθ=0.91596・・・

この数はカタランの定数として知られるもので,第1種完全楕円積分

K(k)=∫(0-π/2)dθ/√(1-k^2sin^2θ)(ルジャンドルの標準形)として

  2∫(0-1)K(k)dk

に等しくなります.なお,第1種完全楕円積分で,

z=sinθと変換すると

K(k)=∫(0-1)1/√{(1-x^2)(1-k^2x^2)}dx(ヤコビの標準形)

また,z=sin^2θ,λ=k2とおけば

K(k)=∫(0-z)dz/√(z(1-z)(1-λz))(リーマンの標準形)

が成立します.

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 それでは,オイラーはどうやってζ(s)を発見したのでしょうか.オイラーは三角関数sinxの展開式が

sinx=x−x3 /3!+x5 /5!−x7 /7!+・・・

のようになることを知っていました.また,sinxはx=kπ(k:整数)で0になります.すなわち,方程式sinx=0にはx=0,x=±π,x=±2π,・・・のように無限個の解が存在することになります.

 したがって,sinxを因数分解して無限積表示すると

sinx=xΠ(1−x/kπ)

=・・・(1+x/2π)(1+x/π)x(1−x/π)(1−x/2π)・・・

=x(1−x2/π2)(1−x2 /22π2)(1−x2/32π2)・・・

=xΠ(1−x2 /k2 π2 )

となります.

 このようにして,オイラーはsinxのベキ級数表示と無限積表示という異なる2通りの表示を得たのでした.

 この無限積を展開して,無限次多項式の係数と比較します.たとえば,x3 の係数を比較することにより

ζ(2)=1/12 +1/22 +1/32 +1/42 +・・・=π2 /6

が得られます.x5 ,x7 ,・・・の係数同士を等号で結ぶとζ(4)=π4 /90,ζ(6)=π6 /945,・・・も同様に得られます.

 cosx=1−x2 /2!+x4 /4!−x6 /6!+・・・

についても同じような方法を適用し,

cosx=Π(1−4x2 /(2k-1)2 π2 )

これより,

1/12 +1/32 +1/52 +1/72 +・・・=π2 /8

 オイラーが得た値:ζ(2)=Σ1/n2 =π2 /6はこの式から次のようにして求まります.

1+1/22 +1/32 +1/42 +・・・

=(1+1/22 +1/42 +・・・)(1+1/32 +1/52 +・・・)=1/(1−1/4)・π2 /8

=π2 /6

さらに,2(1/12 +1/32 +1/52 +1/72 +・・・)−(1/12 +1/22 +1/32 +1/42 +・・・)

=1/12 −1/22 +1/32 −1/42 +・・・=π2 /12

を得ることができます.

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【2】ベルヌーイ数とゼータ関数

 一般化調和級数

 Σ1/n^s =1/1^s +1/2^s +1/3^s +1/4^s +・・・

はs>1のとき収束し,0<s≦1のとき発散することは微分積分学を使って簡単に証明されます(y=1/xs の積分の値と比べると,s>1ではΣ1/ns <∫1/xs dx,s≦1では逆向きの不等式となる).

 オイラー級数はs=1で調和級数となり無限大に発散しますが,オイラーはsが2から26までの偶数値に対する和も求めていて,sが2以上の偶数のとき,結果はすべてπs の倍数になり,有理数×πs でありことを証明しています.たとえば,s=4に対するオイラー級数は

 1/14 +1/24 +1/34 +1/44 +・・・=π4 /90

また,s=6に対するオイラー級数は

 1/16 +1/26 +1/36 +1/46 +・・・=π6 /945

s=26の場合は224・76977927・π26/27!と表すことができます.

 オイラーは,ベルヌーイ数とゼータ関数との間に次の公式が成り立つことを証明しています(1735年).

  ζ(2k)=(−1)^k-12^(2k-1)B2k/(2k)!・π^2k

すなわち,sが偶数のときのオイラー級数は一般式で表すことができ,有理数部分にはベルヌーイ数Bn が重要な役割を果たしています.

 sが奇数の場合であっても,sが大きくなるにつれてオイラー級数は1に近づくことに違いはありませんが,偶数ベキにならって,定数(無理数?)×πs の形で書くと,ζ(3)=π3 /25.79436・・・,ζ(5)=π5 /295.1215・・・,ζ(7)=π7 /2995.286・・・となり,偶数のときのような簡明な表示は知られていません.何か隠された未発見の規則性があるに違いないと思うのですが,・・・

 sの奇数値に対する級数

ζ(2n+1)=(−1)^n+1(2π)^2n+1/2(2n+1)!∫(0-1)B2n+1(x)cot(πx)dx

の取り扱いは難しく,ζ(2n)のような明示的な公式を得ることは,オイラーやほかの著名な数学者の努力にもかかわらずいまだ未解決です.

【補】Bn(x)はベルヌーイ多項式で,0での値Bn=Bn(0)はベルヌーイ数と呼ばれている.

【補】無名の数学者アペリの証明

 ζ(2n)はπ^2nの有理関数になる,従って,超越数であることはオイラー以来知られていますが,奇数ベキ級数の和ζ(2n+1)についての類似の関係式は何にひとつわかっていませんでした.

 ところが,1978年に,フランスの無名の数学者アペリによってζ(3)の無理数性が示されました.それを補ったのがポールテンです.

 ζ(3)=1.202056・・・に収束するものの,ごく最近までこの値が無理数であることすらわかっていなかったのです.

 アペリはζ(3)が無理数であることを示すために,連分数展開

6/ζ(3)=5−16/117−26/535−n6/(34n3+51n2+27n+5-・・・

を使いました.興味深いのは,アペリの証明が最先端の研究結果を使ったものではなく,オイラーが解決していたとしても不思議はないとされるような200年前にはすでにわかっていた定理や手法のみでの証明だったことです.

 ζ(3)が無理数であるという証明が発表されたとき,学会場はどよめきの渦に包まれ騒然となったそうですが,アペリは非常に話し下手であり,参加者の多くは半信半疑というより懐疑的であったと伝えられています.

 アペリはマイナーな数学者とされていますが,今から考えると当時主流だった秀才数学者集団,ブルバキに押しつぶされた個性豊かな人物だったようです.

 ζ(3)はいまだ無理数であることしかわかっておらず,オイラーによる

  ζ(3)=2π2/7log2+16/7∫(0-π/2)xlog(sinx)dx

という結果(log2の有理式*π2)があるばかりです(1772年).いまだζ(3)が超越数であるかどうかは知られていませんし,ζ(5),ζ(7),・・・が有理数なのか無理数なのかもわかっていません.アペリの方法はζ(5),ζ(7),・・・の場合の拡張されるに至っていないのです.

【補】ζ(3)が無理数であることの簡明な別証は「無理数と超越数」塩川宇顕(共立出版)参照

 なお,次のようなディリクレ級数(ゼータ関数の親戚)も同様に知られている.

Σ1/(2n,n)={2πroot(3)+9}/27

Σ1/n(2n,n)=πroot(3)/9

3Σ1/n2(2n,n)=ζ(2)

5/2Σ(-1)^(n-1)/n3(2n,n)=ζ(3)

36/17Σ1/n4(2n,n)=ζ(4)と予想されているが未証明

(2n,n)=2n!/n!n!=2(2n-1)/n(2(n-1),n-1) 漸化式

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【3】ゼータ関数と素数

 調和級数Σ(1/n)が無限大に発散すること

Hn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n〜logn→∞

は容易に示すことができましたが,奇数項だけを集めて作った級数

 1/1 +1/3 +1/5 +1/7 +・・・

>1/2+1/4+1/6+1/8+・・・

=1/2(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・)→∞

同様に,偶数項だけ集めて作った級数も収束せず無限大に発散します.

 それでは,素数の逆数の和

  Σ(1/p)=1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・

は有限でしょうか?

(証明)ゼータ関数ζ(s)は次のように書き換えることができます.

 ζ(s)=1/1s +1/2s +1/3s +1/4s +・・・

=(1+1/2s +1/4s +1/8s +・・・)(1+1/3s +1/9s +・・・)(1+1/5s +・・・)・・・

     =1/(1−2-s)・1/(1−3-s)・1/(1−5-s)・1/      (1−7-s)・・・

     =Π(1−p-s)-1   (但し,pはすべての素数を動く.)

 1+x+x2 +x3 +・・・=1/(1−x)

にx=1/ps を代入したものを,Π(1−p-s)-1に代入して積を展開すると,自然数の素因数分解の一意性から,ζ(s)=Σ1/ns となることがおわかりいただけるでしょうか.

 この式の右辺は,すべての素数にわたる無限積であり,このような関係から,自然数全体についての和ζ(s)=Σ1/ns の話が素数全体についての積Π(1−p-s)-1の話になります.Π(1−p-s)-1はオイラー積と呼ばれ,ゼータ関数と素数の間をつなぐ式になっています.

 調和級数1/1+1/2+1/3+・・・は,オイラー積表示するとΠ(1−1/p)-1と書けますから,

  Π(1−1/p)-1〜∞.

また,logΠ(1−1/p)=Σlog(1−1/p).1/pが非常に小さいとき,マクローリン展開より,Σlog(1−1/p)〜−Σ(1/p)ですから,Σ(1/p)=∞になります.したがって,すべての素数の逆数の和は発散することが示されます.

 1737年,オイラーはこのようにして素数の逆数の和が無限大になることを見つけました.逆に,このことから,素数が無限個あることは簡単にわかります.また,調和級数Σ(1/n)は発散し,また,オイラー級数Σ(1/n2 )=π2 /6で収束しますから,素数は平方数ほどまばらには分布していないこともわかります.

 さらに,このことを詳しく調べると,

Σ(1/p)〜log(logx) (pはp≦xの素数を動く,証明略)

すなわち,

1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・+1/n〜loglogn→∞

などがわかってきます.

 また,π(x)をx以下の素数の個数とすると

π(x)〜x/logx   (x→∞)

は1896年,フランスの数学者アダマールとプーサンによって証明され,素数定理として知られています.さらに,4で割って1余る素数,4で割って3余る素数の逆数和がともに無限大になり,どちらも無限個あってほぼ同じくらい存在することが示されます.

  π4,1(x)〜π4,3(x)〜1/2・x/logx

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【4】双子素数

 一方,双子素数(3,5),(5,7),(11,13),(17,19),・・・が無限に多く存在するかどうかは今のところわかっていません.双子素数の場合に難しいのは素数全体のときと異なって,双子素数の逆数の和

1/3+1/5+1/5+1/7+1/11+1/13+1/17+1/19+・・・

が無限大とはならずに,その和が1.90195・・・(ブルンの定数:1919年)となることが証明されている点です.

 双子素数の分布に関しては

  πtwin(x)〜Cx/(logx)2

  C=2Π(1−1/(p−1)2)=1.3203・・・

とハーディとリトルウッドによって予想されています.ここで,pは3以上の素数,Cはオイラー積のアナログであり,双子素数の場合のゼータ関数とみなすことができます.この法則は経験的には正しそうであり,双子素数はたぶん無限組あると信じられています.

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【5】10を原始根とする素数

1/7=0.142857142857・・・

1/17=0.0588235294117647・・・

のように,

1/pを小数展開したときの循環節がp−1となる特別な素数,たとえば

7,17,19,23,29,47,59,61,97,・・・

の密度について,アルチンは

  π10(x)=Cx/(logx)と予想している.

pは素数

C=Π(1−1/p(p−1))=0.37395・・・(アルティンの定数)

 これが正しいとすれば,このような素数は無限にあり,素数全体のうち約3/8を占めることになる.残念ながら,証明されていないのだが,リーマン予想が正しいと仮定するとアルチン予想の成り立つことが証明できる.

 一般に,ゼータ関数とは素数をまとめあげたものでさまざまのゼータごとに素数のいろいろな面をみることができる.

【補】互いに素となる整数

1/ζ(s)はs個の整数を勝手に選んだとき,同時に割り切ることのできる1でない数が存在しない確率であり,これより,2つの無作為に選んだ整数が互いに素である確率は1/ζ(2)=6/π2 (61%)となります

(証明)

 1つの数が素数pi によって割り切れる確率は1/pi ,両方の数が同じ素数で割り切れる確率は1/pi2になります.2つの数がどちらもpi で割り切れない確率は1−1/pi2ですから,互いに素である確率はΠ(1−1/pi2).

ここで,Π1/(1−1/pi2)=Π(1+1/pi2+1/pi4+・・・)=Σ1/n2 =ζ(2)

 したがって,2つの整数が互いに素である確率は1/ζ(2)=6/π2 (0.608),同様にして3つの整数が互いに素である確率は1/ζ(3)=0.832,4つの整数が互いに素である確率は1/ζ(4)=90/π4 (0.9239)を得ることができます.

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【6】ゼータ関数とリーマン予想

 オイラーによって考え出されたこの関数はまったく思いがけないほど多くの数学の分野と関連することになりました.オイラーの100年後,リーマンはオイラーが研究したゼータ関数を複素数へと広げました.

 ゼータ関数の不思議なところはsをどんな複素数にしても意味をもつという点です.これを解析接続可能といい,実解析関数の変数を複素数に拡張することにより,未知の世界が開けてきます.ところが,これにより,

ζ(0)=1+1+1+1+・・・=−1/2

ζ(−1)=1+2+3+4+・・・=−1/12

ζ(−2)=12+22+32+42+・・・=0

ζ(−3)=13+23+33+43+・・・=1/120

ζ(−4)=14+24+34+44+・・・=0

 正数の無限級数の総和が負や零になって,一見して目がくらんでしまいます.

これらは普通の意味では無限大になっているはずですが,一体何を意味しているのでしょうか?

 無限大になるところをうまく引き去って有限の値をだすことを,物理学の用語で「繰り込み」といいますが,これらの式は現代数論では当然のことのように使われています.パラドックスを引き起こした謎は,複素関数論の解析接続にあって,sを複素変数とするとき,ζ(s)をすべての複素数に対して意味をもたせることができ,もっと,詳しく述べるならば,複素平面上での特異点を避けながら,各経路で級数展開していくと上記の結果が得られます.

 さらに,

ζ(0)=−1/2,ζ(−2n)=0,ζ(1−2n)=−B2n/2n

すなわち,sを0とすると値が−1/2,,sを−1とすると値が−1/12,−2,−4,・・・,−2nとすると値が0になるというわけですが,これらによって,負の整数に対するゼータ関数の値は有理数で与えられること,負の偶数での値が0であることが理解されます.

 正の偶数での値を調べることは負の奇数での値を調べることと本質的に同じであって,負の奇数での値を書き出してみると,

ζ(−1)=−1/12

ζ(−3)=1/120

ζ(−5)=−1/252

ζ(−7)=1/240

ζ(−9)=−1/132

ζ(−11)=691/32760

ζ(−13)=−1/12

と続きます.

 これらの計算の仕方を紹介すると

φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)

より

φ(0)=-ζ(0),φ(-1)=-3ζ(-1),φ(-2)=-7ζ(-2),φ(-3)=-15ζ(-3)

また,

f(x)=1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1-x)

g(x)=xdf(x)/dx=x+2x^2+3x^3+4x^4+・・・=x/(1-x)^2

h(x)=xdg(x)/dx=x+2^2x^2+3^2x^3+4^2x^4+・・・=x(1+x)/(1-x)^2

より

f(-1)=φ(0)=1/2,g(-1)=-φ(-1)=-1/4,h(-1)=-φ(-2)=0

これから

ζ(0)=-1/2,ζ(-1)=-1/12,ζ(-2)=0,・・・

となる.

 また,ζ(s)の零点がs=−2,−4,・・・,−2nとs=1/2+tiの線上にあるというのが有名なリーマン予想ですが,この予想は一部に素数定理なども含む数学上の難問です.数学の巨人と称されるヒルベルトは,1919年に数学の難問について講義し,「リーマン予想は私が生きているうちに解決され,フェルマー予想は長らく未解決のままであろう」と述べたといわれています.360年ものあいだ未解決の数学的難問であったフェルマー予想は最近(1994年)ワイルスによって証明されました.しかし,ヒルベルトの推測に反し,リーマン予想は依然としてデッドロック状態にあります.

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