■Gの回転モデル

 A→Bという化学反応を考える.エネルギーを与えなければAは変化せずAのままである.B−Aのエネルギーを与えたとしても化学反応は起こらない.A→Aという巡回反応が起こっているのだろう.Bよりもエネルギー準位の高い遷移状態Cがあって(A→C→B),C−Aの分だけエネルギーを与えると,はじめてA→Bという化学反応が起こるのである.

 金属結晶の相転移の場合でいうと,鍛冶(高エネルギー下で変形させる)を施すと面心立方格子から体心立方格子に移行するが,その途中で,単純立方格子の遷移状態があり,このエネルギー障壁を越えるために鍛冶が必要になる.

 相転移の状態移行では元素の並進運動と同時に空間の連続的な運動が起こらなければならない.相転移模型で考えると

[1]木構造

[2]網構造

[3]環構造

[4]穴なし環構造

など,種々の模型が考えられるところであるが,[4]が自己巡回反応に相当する.その代表例がエンドレス・キューブなりヘキサフレクサゴンなり,「連続回転モデル」なのである.

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【1】Gの回転モデル

 ここでは無生物の例をあげたが,回転モデルで説明できる現象は,生物と無生物を問わず,自然界に広くみられる.そして,生物における例がドクターG(http://naokihiro.hiho.jp)の回転モデルである.

 現在,1万数千種のタンパク質の3次構造がすでに確定している.そうなると,それらにはいくつかの共通する構造があることが知られるようになった.しかし,それらの共通する構造はどのような役割を果たしているのだろうか? あるいは,進化の過程でどのような役割を果たしてきたのだろうか? この疑問はいまだに解決されておらず,深い科学的関心の的になっている.すなわち,タンパク質の構造からその目的や存在意義を抽出するという未解決問題に解答を与えることは,アミノ酸・核酸・タンパク質そして地球上の生命の起源を考える上で極めて重要なことである.

 例えば,共通する構造のひとつにαβバレル構造があるが,ドクターGはαβバレルが酸素との結合を支配する特徴的な構造だと推定した.神経伝達物質であれ,ホルモンであれ,薬物であれ,生体内の現象はレセプターとの結合・解離によって左右されるが,αβバレルと呼ばれるタンパク質の構造は,ドクターGの推測通り,酸素と結合することによっていろいろな作用(殺菌など)を示すことが明らかになった.いまや決してあてずっぽうとか予想・予言の類ではないのである.

 さらにまた,酵素上における基質の切断機構については,従来,クーロン力の釣り合いに束縛された結合,とりわけイオン結合力がその推進役となると説明されていたのであるが,ドクターGのシミュレーション実験では,イオン結合だけではどうしても腑に落ちない−−−結合後期に対してはそのモデルでもうまく説明がつくが,結合初期については矛盾するという結果が得られたというのである.

 真空中であればイオン結合でよいのであるが,酵素反応は水溶液中でおこる現象である.そのため,結合前期では疎水結合,いいかえれば水を排斥しようとする力が推進力となることを仮定しないとうまくいかないのであって,結合過程の前半・後半で推進力が変わるという結論に至ったのである.

 これらの現象を統一原理で説明しようという試みが「回転モデル」である.もちろん,疎水結合だけで,後半の説明はつかないのであるが,ドクターGの理論的研究を正しいと認めるならば,タンパク質に関わるこれまで説明のつかなかった現象が矛盾なく解明されるし,また,新たな現象までもが予見されるという.すなわち,無矛盾性と先見性をもっていることになる.

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【2】顛末記

 しかし,既成の学説を破る新説なり新理論なりが発表されたとき,それを受容するか拒絶するかは人によりさまざまである.というよりも拒絶する人の方が圧倒的に多いに違いない.多くの人にとっては教科書のみが真実であって,教科書に書かれている説明でうまくいくならばそれを鵜呑みにするだろう.このように,真理とはその人にとっての繰り返された記憶にしかすぎないのであって,絶対的なものではない.真理は人ごとに異なるのである.

 そのため,学会で既成の学説を破る新説なり新理論なりが発表されたときの風景はいきおい次のようなものとなる.『一瞬,学会場はどよめきの渦に包まれ騒然となる.しかし,講演者はマイナーな学者であり,しかも,非常に話し下手ときている.したがって,参加者の多くは半信半疑というよりは,むしろ懐疑的な眼で見ている.予想に反し,賛同者は少ないのである.』

 私もこれに似た経験をしたことがあるが,はたせるかな,ドクターGの場合もそうなった.説明が速い拙いということもあったのであろうが,場内がシーンと沈黙してしまったのである.短時間の学会発表では,もとより共感は期待できないのであるが,新説・新理論の類はいつの時代・何処の国にあっても,発表後直ちに多くの人に支持されるという状況にはならない運命なのである.

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 ドクターGのことを理解するためには発想の転換が必要とされるが,彼の思考の底辺にあるものは相似形からの発想であるように思われる.しかし,相似形と口でいうことはたやすいが,リンゴが木から落ちるのと月が地球のまわりを周回するのが同じ力の作用だと発想できる人はどれほどいるのだろうか? たとえば,あなたは月が地球に向かって落下しているイメージを現実のものとして描くことができるだろうか?

 ニュートン,アインシュタインは相似形の発想から真空中の物理学を完成させたわけであるが,ドクターGは水中の物理学を完成させたと思う人間が私一人くらいいてもよかろうと思っている.   (ドクターGの表敬訪問に感謝して)

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