今年の夏には待望のHPの移転を済ませたのだが,移転後,アクセスカウントが激減.オリジナルな結果を残せなかったことは自分でも認めるところであるが,コラムの質まで下がっているのだろうかと自問自答.また,小生の転職問題も1時棚上げとなり,その意味でも慚愧に堪えない1年となってしまった.
いま,風邪でふらつく頭と焦点の合わない眼で今年書いたコラムの題名をすべてピックアップして眺めてみると,性懲りもなく,とりとめもないことに筆をすべらせてしまったことに気づかされる.これではアクセス数が減っても無理はないかもしれないが,読者から飽きられたとはっきりわかるまでもうしばらくお許しいただきたい.
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【1】素数・ゼータ・リーマン予想
(1)ゼータ関数の零点分布と量子カオス
(2)素数定理の歴史
(3)素数の間隔分布(Sugimoto氏の発見について)
(4)奇数ゼータと杉岡の公式
(5)691・ベルヌーイ数・保型形式
(6)リーマン予想が解かれた!(かも)
(7)素因数分解の一意性(補遺)
(8)フェルマー素数について
(9)フェルマーの最終定理と有限体
コラム「リーマン予想が解かれた!(かも)」で紹介したように,フランス生まれのアメリカの数学者ルイ・ド・ブランジュは2004年5月にリーマン予想の証明を自分自身のHPに発表しました.私はド・ブランジュにリーマン予想を解いてほしいと思っていたのですが,専門家の意見は否定的とあって残念です.
また,コラム「奇数ゼータと杉岡の公式」はこれまでのなかでも最長のシリーズですが,2004年秋,杉岡幹生氏はゼータ関数と2次体との関係を見いだし,数学の研究会で発表されました.
それに対して,私自身にはこれといった進歩はなかったのですが,来年くらいには合同ゼータ関数の場合のリーマン予想(の類似)の証明くらいは解説できるようになりたいと思っています.合同ゼータ関数については,コラム「フェルマーの最終定理と有限体」をご参照願います.
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【2】幾何学と群
(1)リー群とリー代数
(2)群と月光
(3)群と魔方陣
(4)三角形の初等幾何学
(5)球の充填と格子
(6)フェルマーの最終定理と有限体
(7)コクセター群のはなし
(8)デルタ多面体の構成
(9)円の最大分割問題
(10)長方形の最小分割問題
(11)もうひとつのデーンの定理
(12)書ききれなかった形のはなし
(13)菱形多面体の構成
(14)多面体の平均会合面数
(15)オイラーの公式と四色定理
コラム「フェルマーの最終定理と有限体」でもそうでしたが,ここでのキーワードは「有限射影平面」です.魔方陣をデザインするのに有限射影平面が応用できることがわかったところで有難味は少ないかもしれませんが,いまでは歩きながら携帯電話するにしても「有限射影平面」など現代数学の恩恵を受けているといったら話は別でしょう.
球の最密パッキングの研究は,2次形式の数論,ルート系,誤り訂正符号(応用代数学),有限単純群などの理論と関係し,最大の信頼性と最小の電力で伝送できる効率的な通信システムの設計に応用されています.とくに,24次元リーチ格子:Λ24の発見により,データ転送における誤り訂正符号の発見に大革新がもたらされましたが,通信技術への応用は球の詰め込み問題の四次元以上への一般化の結果としてなされたものであり,純粋数学の期待せざる応用の一例といってもよいでしょう.
また,コラム「もうひとつのデーンの定理」「書ききれなかった形のはなし」では阪本ひろむ氏の訳文「Stefan Banachの生涯」を紹介しましたが,来年くらいには某社から出版されることになるかもしれないという知らせが届きました.実現したらまことにうれしい限りです.
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【3】木工多面体
(1)切稜立方体
(2)切頂立方体の計量
(3)正多面体の木工製作
木工多面体シリーズは,中川宏さん製作の切稜立方体が内接球をもつという幾何学的な特徴を明らかにしたことをきっかけとして始まったシリーズです.数学的にみれば初等的かもしれませんが,木を削って多面体を作るという点に難しさと面白さ,発想の妙味があります.
中川さんの木工多面体がシュタイナー学校で使われるようになったことはコラムの中でも紹介しましたが,その後,各種イベントでも引き合いに出されることが多くなり,近々海を渡ることになりそうです.
私も中川さんの木工多面体が外国にも知られることになるのは喜ばしい話と思います.正多面体,切頂八面体,菱形十二面体に引き続き,菱形三十面体をお送り下さり感謝しております.ひとつの箱に納まりきれなくなって,保管に工夫していますが・・・.
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【4】その他のはなし
(1)因数分解の算法
(2)テータ関数の応用
(3)定数項予想入門
(4)階乗や2項係数を含む級数の量子化
(5)対称多項式入門
(6)ディリクレ積分とセルバーグ積分
(7)連分数展開の応用
(8)楕円の平行曲線
(9)超幾何関数のはなし
(10)パワー則とジップの法則
素数位数の巡回群を除いて,それまで知られた有限単純群の位数はすべて偶数であって,さらに3の倍数と予想されていました.ところがこの予想は外れであって,B2から生成される鈴木群は位数が3の倍数でない唯一の例外であることがわかっています.有限単純群をすべて分類する問題は1980年代に完全に解決され,それには多くの日本人数学者が貢献しました(鈴木・原田).
コラム「超幾何関数のはなし」では,群論ばかりでなく,超幾何関数にも多くの日本人数学者が関わっていることを解説しました(福原・大橋・竹内).そこではシュワルツの有名な定理「モノドロミー群が有限群ならば超幾何関数は代数関数である」ことを紹介しました(1873年).
本文中には取り上げられませんでしたが,シュワルツの代数関数解と福原・大橋の初等関数解の結果の違いが求積法で解けるかどうかが問題となりました.それに対するPicard-Vessiot理論からの解答を与えたのが木村俊房先生です.ピカール・ヴェシオ理論は線形微分方程式が求積法によって可解になるための必要十分条件を与える重要な定理です.また,超越関数が変数によって代数的値となる場合のリストが竹内喜佐雄先生によって与えられています.
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