■2通りに計算するということ(その1)

 2通りに計算するということを喩えていうならば,家計簿つけのシーンにおいて,まず行ごとの合計を求めそれを総計する,次に列ごとの合計を求めそれを総計する,そして計算が正しければその2つの計算結果は一致するはずというわけです.

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【1】ガウス積分

 正規分布は一般的な誤差の分布関数で,その確率密度関数,累積分布関数それぞれ

f(x)=1/√2πexp(-x^2/2)=φ(x)

F(x)=∫(-∞,x)f(t)dt=Φ(x)

と表されます.ここでは,正規分布の累積分布関数Φ(x)に関連して,

I=∫(0,∞)exp(-x2)dx

の値を計算してみます.

 ケルビン卿の銘言に「数学者とは

  ∫(-∞,∞)exp(-x2)dx=√π

を1+1=2のように自明だと思っている人である」とある.われわれは数学者ではないが,極座標を用いることによって,簡単に数学者になることができます.

I^2=∫(0,∞)exp(-x^2)dx∫(0,∞)exp(-y^2)dy(2重積分)

=∫(0,π/2)∫(0,∞)exp(-r^2)rdrdθ(極座標変換)

より,結局,

I=√π/2となります.

 以前より,どうして正規分布に円周率πが現れるか疑問視しておられた方も多いと思いますが,極座標に変換することによって,πが自然に入り込んできます.また,ここでは2重積分を用いてガウス積分を解きましたが,複素積分を用いると,もっと直接的に角度と関係していることが理解されます.ともあれ,πは幾何のみならず,統計にも使われることになります.

 また,上式において,x^2=tとおくと,ガウス積分とガンマ関数との面白い関係

√π=2I=2∫(0,∞)exp(-x^2)dx=∫(0,∞)exp(-t)/√tdt=Γ(1/2)

も得られます.

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【2】ガンマ関数

Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)e^-tdt x>0

 この無限積分をxの関数とみてガンマ関数Γ(x)といいます.

Γ(1)=∫(0,∞)e^-tdt=1

Γ(1/2)=∫(0,∞)t^(-1/2)e^-tdt

ここで,t=u^2とおくと∫(0,∞)e^-u^2/2du=√π/2(ガウス積分)より

Γ(1/2)=√π

が得られます.

 オイラーの第2種積分とも呼ばれるガンマ関数Γ(x)には,Γ(x+1)=xΓ(x)の関係があり,次のような漸化式が成り立ちます.

Γ(x+1)=xΓ(x)=x(x-1)Γ(x-1)=・・・・

したがって,xが正の整数nのときには

Γ(n+1)=n!が成り立ち,ガンマ関数は階乗の一般形となっていることがわかります.階乗の解析的補間をしている関数がガンマ関数なのです.

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【2】ガンマ関数と超球との関係

 ガウス積分をn次元に拡張し,

I=∫(-∞,∞)exp(-x1^2+x2^2+・・・+xn^2)dx1dx2・・・dxn

を考えると∫(-∞,∞)exp(-x^2)dx=√πのn重積分より,直ちに

I=π^(n/2)を得ることができます.

 n次元ガウス積分を別の方法,直交座標でなく,極座標で求めてみましょう.球に相当するn次元の図形を超球と呼びます.n次元単位超球{x1^2+x2^2+・・・+xn^2≦1}の体積をVnとすると,V1=2(直径),V2=π(面積),V3=4π/3(体積)はご存知でしょう.また,単位超球の表面積Sn-1はnVn,半径rのn次元球の体積はvnr^n,表面積はnVnr^n-1となります.

 ガウス積分の被積分関数を原点を中心とする半径rの球面上で積分し,次にr=0からr=∞まで積分すると,半径rの球面上で被積分関数は一定値exp(-r^2)をとり,表面積はnVnrn-1ですから,

I=∫(0,∞)exp(-r^2)nVnr^n-1dr

=nVn∫(0,∞)r^(n-1)exp(-r^2)dr

 z=r^2と変数変換するとdz=2rdrより

I=nVn/2∫(0,∞)z^(n/2-1)exp(-z)dz

=Vnn/2Γ(n/2) n/2Γ(n/2)=Γ(n/2+1)

=VnΓ(n/2+1)

したがって,Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)   rn=

を得ることができます.

 この結果は,形式的にVn=π^(n/2)/(n/2)!と書くことができます. Γ(m+1)=m!

これより,半径rのn次元超球の超体積はVnr^n=(πr2)^(n/2)/Γ(n/2+1)となります.

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