■多面体の平均会合面数

 合同な面だけでできる多面体は,ひとつの頂点に会合する面数の平均値qmが大きいほど多面体の面数fは大きくなります.たとえば,菱形多面体の場合,

  扁長菱面体:qm=3

  扁平菱面体:qm=3

  菱形十二面体:qm=24/7=3.43<4

  菱形十二面体(第2種):qm=24/7=3.43<4

  菱形二十面体:qm=40/11=3.64<4

  菱形三十面体:qm=15/4=3.75<4

となります.→コラム「菱形多面体の構成(その2)」

 今回のコラムでは「デルタ多面体」「空間分割多面体」「平行多面体」について,それぞれ平均会合面数を調べてみたいと思います.

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【1】デルタ多面体の構成(その2)

 デルタ多面体(正三角面体)は正4面体,正8面体,正20面体も含めて全部で8種類あります.面数の少ない順に並べると4,6,8,10,12,14,16,20面体で,デルタ18面体は存在しません.

 デルトイドのうち,4面,8面,20面(正多面体)と6面,10面,16面体は割合簡単ですが,12面,14面体は一工夫必要になります.このような場合「ポリドロン」は有用で,模型を作ってみると思いがけない性質が見てとれることがあります.コラム「デルタ多面体の構成」に引き続き,もう一度そのことをみていきたいと思います.

 正4面体は正三角形の上の単角錐,正8面体は正方形の上の重角錐ですが,デルタ4面体,デルタ10面体はそれぞれ正三角形の上の重角錐,正五角形の上の重角錐としてできあがります.重角錐として構成できるのはここまでです.

 また,アルキメデスの正角柱(上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの)を少しひねって,側面をすべて正三角形にしたものをアルキメデスの反角柱と呼びます.正20面体は側面が10個の正三角形からなる五角反柱の上下の面に正五角錐をつけると構成することができます.

 正20面体のように,デルタ12面体からデルタ16面体までは角錐の間に正三角形からなる帯(ゾーン)をつけて,角錐の傘で上下からフタをすることで構成することができます.

 まず最初に,6個の正三角形からなる三角反柱の帯を作ってみたところ,これは正八面体となるのですが,そこの上下に正三角形のフタをすると正八面体そのものです.すなわち,互いに平行におかれた2枚の正三角形の位置をねじらせて,一方の頂点と他方の辺とが向き合うように置いて上下2枚の底面としてその間に側面として2×3=6枚の正三角形をはめ込んだ形になっています.そこで,三角反柱の帯に正三角錐でフタをすると,正八面体と正四面体の二面角は互いに補角ですから平行六面体となってしまいます.これは空間充填形となるのですが,デルタ多面体とはなりません.

 次に,8個の正三角形からなる四角反柱の帯を作ってみました.この場合,上下のフタとしては正二角錐(2個の正三角形を辺同士で繋いだものをこう呼ぶことにする)と正四角錐が可能になるのですが,「ポリドロン」では四角反柱の帯が剛性体ではなく変形可能で,これらのいずれも上下の面にうまくはめ込むことができました.

 四角反柱の帯に正二角錐2個をはめ込むとデルタ12面体となるのですが,これと同じ多面体を別の見方で構成すると,四面体を側面同士で3個繋いだ凹デルタ8面体2個を凹面同士ではめ込んだ形になっています.こうすると12個の面をもつ凸デルタ12面体ができあがるのですが,このことからデルタ12面体は「双子の12面体」とも呼ばれます.

 四角反柱の帯に正二角錐と正四角錐をはめ込むとデルタ14面体となります.同じ多面体でも別の角度からみるまったく違うものに見えてしまうのですが,デルタ14面体は三角柱の正方形の面に正方形を底とする角錐を貼り付けた形をしている,すなわち,側面が正方形の正三角柱(アルキメデスの正角柱)の側面に正四角錐3個をはめ込んだ立体とみることもできて,きれいな対称性を示しています.

 四角反柱の帯に正四角錐2個をはめ込むとデルタ16面体となります.デルタ16面体は正方形を底とする反角柱の2つの正方形の面から角錐をたてた形をしていて,この意味ではやせた正20面体ということができます.

 次に10個の正三角形からなる五角反柱の帯ということになるのですが,この場合,正五角錐のフタだけが可能になって,正二十面体ができ上がります.こうして直観的にはデルタ18面体は構成不可能であることがわかります.

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【2】デルタ多面体の平均会合面数

 正三角形がm個集まる頂点をamで表すことにすると,最大1頂点に5枚ですから,a3またはa4またはa5ということになります.また,

  qm=Σqi/v=2e/v

となります.

 実際には

   f    e    v    qm

   4    6    4    3    (a3=4)

   6    9    5    3.6  (a3=2,a4=3)

   8   12    6    4    (a4=6)

  10   15    7    4.29 (a5=2,a4=5)

  12   18    8    4.5  (a5=4,a4=4)

  14   21    9    4.67 (a5=6,a4=3)

  16   24   10    4.8  (a5=8,a4=2)

  20   30   12    5    (a5=12)

と計算されましたが,デルタ多面体では,ひとつの頂点に会合する面数の平均値qmが大きいほど面数fが大きくなるというわけです.

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【3】空間分割多面体の平均会合面数

 球がある限られた空間内に乱雑に配置された状態で等方的に圧縮すると,空間は多面体によって分割充填されることになります.この状態を球のrandom packingといいます.random packingには,randomとはいっても,いくつかの重要な規則性がみられます.たとえば,球をrandom packingしたときの多面体の面数は14面,面の形は五角形がもっとも多いことなどが知られています.

 したがって,random packingという用語は誤解を招きやすく,あまり適当なものではありません.しかしながら,面の数などは一義的には決まらず,統計的にしか扱えないというのがrandomの所以であり,空間分割の幾何学的研究を困難としている最大の原因となっています.

 ザクロ,ハチの巣,石鹸の泡などのように,空間がある立体(多面体)によって分割される空間分割は,生物と無生物を問わず,自然界に広く見られる現象です.生物材料や石鹸の泡などでは,14面体の空間分割構造が実際に観察されますが,ここでは14面体が得られる理由について考えてみることにしましょう.

 3次元の球の詰め込み問題について,1個の球に何個の同じ大きさの球が接しうるか? 証明は簡単でないから省略しますが,最小6から最大12までになります.1つの球には同時に12個の球しか接することができないのです.

 分割多面体の面数fがどの範囲におさまるかを証明することは困難と思われますが,6〜12までの接触数のすべての場合を通じて,接触球が規則的な配置をとる仮定すれば,面の数fは最大18,最小10であることが誘導されます.したがって,等しい大きさの球のrandom packingから出発する分割多面体の面数f=14±4という値は,14面体が最も多いとする実験的研究から得られた値を裏付ける1つの根拠を与えてくれます.

 空間分割では,3つの界面が交わって1つの稜線,4つの稜線が集まって1つの頂点が構成されます.その際,多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,

  v+f=e+2   (オイラーの多面体定理)

が成り立ちます.そして分割多面体では1個の頂点に3本の辺が集まり,また1本の辺は2個の頂点を結びますから,

  2e=3v

これを用いて整理すれば

  v=2(f−2)

  e=3(f−2)

となります.つまり,面の数fが与えられれば辺数eと頂点数vは一義的に決まる性質をもっており,また頂点数vは必ず偶数になることもわかります.

 以下,14面体の幾何学的性質について少し調べてみましょう.ここで,f=14とおくと,v=24,e=36となります.つぎに,面が何角形になるかを求めてみると,これはもちろん1通りではありませんが,1本の辺は2個の面によって共有されることを考慮し,各頂点に平均してp角形がq面が会するとすると,pmf=2e,qmv=2eより,その平均辺数pmと平均会合面数qmは

  pm=2e/f=5.14・・・

  qm=2e/v=3

を得ることができます.このことから,14面体の面のかたちについては,必然的に辺数5を中心とする分布をなすことはが示唆されます.このことは,経験的に5角形の頻度が最も高いという観察結果に一致します.

 オイラーの定理が物理的作用と結びつくと,興味のある幾何学的効果が出現してきます.たとえば,2次元的にランダムに配列した石鹸の泡はいろいろなサイズの泡細胞からなっていますが,表面張力の要請から境界長を極小化しようとしますから,接合角度は120度となります(プラトー問題・最小シュタイナー木問題).すなわち,石鹸の泡は各頂点の次数がすべて3である平面図形と考えることができます.

 ここで,次数とは頂点に結合する辺の個数のことで,degで表すことにすると,

  2e=Σdeg(握手定理)

が成り立ちます.オイラーの定理と握手定理を応用すると,

  v−e+f=1   (オイラーの定理)

  2e=3v     (握手定理)

したがって,pmf=2eでもって,平均的な泡細胞の形は6角形を中心とした分布をなし,6辺以上の泡細胞を6辺以下の泡細胞と相殺させる必要性から6から遠ざかることはほとんどないに違いないということになります.

 また,オイラーの多面体定理で示される制限から,単一の凸n角形で平面を敷き詰めるものはn≧7では存在しないこと,2次元以上ですべての頂点の次数が6以上となることは不可能であり,必ず次数が5以下の頂点をもつこと,また,3次元では14以上の凹面細胞をもつことは許されないことなどが導き出されます.

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【4】平行多面体の平均会合面数

 平行多面体とは,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,3次元格子から決まる本質的なボロノイ領域は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体−−立方体(平行6面体を含む),6角柱,菱形12面体,長菱形12面体(6角形4枚と菱形8枚の2種類で作る12面体),切頂8面体−−しかありません.

 6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものと一致しています.これら5種類の図形は5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないのですが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられます.

 切頂八面体は16種ある準正多面体(アルキメデス体)のひとつです.また,菱形十二面体は準正多面体のひとつである立方八面体の双対図形です.菱形十二面体も切頂八面体もどちらも単独で空間充填可能な立体図形なのですが,菱形十二面体が面心立方格子のボロノイ図であるのに対して,切頂八面体は体心立方格子のボロノイ図となっています.

 これまで菱形多面体ではp=4,デルタ多面体ではp=3,空間分割多面体ではq=3の場合を扱いましたが,ここではよく知られた空間充填立体である菱形十二面体や切頂八面体について,平均会合面数を求めてみることにしましょう.

            f   e   v  qm    pm

  立方体       6  12   8  3     4

  6角柱       8  18  12  3     4.5

  菱形12面体   12  24  14  3.43  4

  長菱形12面体  12  28  18  3.11  4.67

  切頂8面体    14  36  24  3     5.14

  立方体      a3=8

  6角柱      a2o1=12

  菱形12面体   a4=6,o3=8

  長菱形12面体  a4=2,o3=8,a1o2=8

  切頂8面体    a1o2=24

 このように,多面体ごとに

  pm=2e/f,qm=2e/v

は異なりますが,平均会合面数は菱形十二面体で最大でqm=3.43,切頂八面体は立方体や六角柱と等しく,qm=3という結果が得られました.

 最後に,空間を体積が等しい凸多面体で,平均表面積ができるだけ小さくなるように分割せよという問題を考えてみることにしましょう.この問題はかなり長い間,菱形12面体による空間分割が解だと考えられていたのですが,予想に反して,体積1のときの表面積を求めると,菱形12面体型分割では

  3√108√2=5.345・・・

切頂8面体型分割では

  3/43√4(1+√12)=5.314・・・

と後者の方が約0.5%少なくなります.

 このようにして,1887年,英国の物理学者,ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)は切頂八面体の集合によって空間を満たすことができ,そのときの界面積は菱形十二面体で満たしたときより小さいことを発見しました.すなわち,切頂八面体は表面張力を最小とする空間分割構造であると考えることができるのです.

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