■ペンロース・タイルの拡張
互いに合同な正三角形,正方形,正六角形は,平面をタイル貼りのように隙間なく埋め尽くすことができる.このうち正方形は碁盤,正六角形は蜂の巣などでおなじみであろう.しかし,七角以上になるとどんな正n角形でも平面充填はうまくいかなくなる.共通の頂点に集まる内角の和が360°にならないからだ.
それでは正五角形の場合はどうなるのか,平面上で正五角形を連結させてみよう.正五角形を10枚丸く並べるとちょうどひとつの輪になり,正10角形の隙間が残る(デューラー・パターン).また,正五角形を5枚を星形5角形の隙間が残るように並べることもできる(ケプラー・パターン).正10角形の隙間に可能な限り正五角形を詰め込むと,菱形や星形5角形の隙間が残る非周期的な平面充填ができあがる(ペンローズ・パターン).ともあれ平面上で正五角形を配列させるとどうしても隙間を生ずるのである.
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【1】擬似対称性の問題
「隙間も重なりもなく、同じも様を繰り返すこともない1組のタイルで平面を埋め尽くすことができるか?」
1974年にイギリスの数理物理学者ペンローズは,2つのタイルで非周期的な5回対称のタイル貼りができることを発見した.このタイル貼りには単純な繰り返し模様の出現を避けるための「一致規則」がついているため,平行移動や回転対称性ばないのである.
2種類の黄金平行多面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができるが,この黄金平行多面体による充填図形の平面への投影はペンローズ・パターンと呼ばれる準周期性平面充填となる.すなわち,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっている.
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【2】六角形1種類による非周期的平面充填
ペンローズの発見した2種類の菱形を組み合わせて平面を非周期的に敷きつめるものが最も構成要素の少ないものであったが,1個の要素からなる非周期的集合(付き合わせ条件があっても,なくてもよい)が見つかっている.
つまり「2個の要素からなる非周期的集合」がペンローズ・タイルであり,Joshua E. S. SocolarとJoan M. Taylorが示した非周期六角形タイルが,「1個の要素からなる非周期的集合」がこの問題の解というわけである.
[参]J. E. S. Socolar and J. M. Taylor, An aperiodic hexagonal tile, Journal of Combinatorial Theory
18 (2011), 2207-2231.
[参]J. E. S. Socolar and J. M. Taylor, Forcing nonperiodicity with a single tile, to appear in Mathematical Intelligencer 33 (2011).
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