■菱形多面体の構成

 前回のコラムでは中川宏さんの木工菱形三十面体を取り上げたのですが,一松信先生より,「ポリドロン」の試作品(市販していない由)として,対角線の比が黄金比や1:√2の菱形があることを教えていただきました.

 「ポリドロン」は東京書籍がその取り扱い店となっていて,大山茂樹さんに連絡をとってみたところ,ご厚意により貸していただけることになりました.

  連絡先:tel:03-5390-7513,fax:03-5390-7409(大山茂樹)

 以下に菱形多面体のポリドロン模型を掲げますが,「ポリドロン」によるデルタ多面体の構成では

  佐藤耕太郎(小学4年生),佐藤一麦 (小学2年生)

の協力を得ました.また,ポリドロン模型については

  コラム「デルタ多面体の構成」,「書ききれなかった形のはなし」

にも掲げてありますのでご覧下さい.

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【1】菱形多面体

 合同な菱形だけでできている多面体について考えます.どのような菱形でも平行6面体を作ることができるのですが,この菱面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute(扁長菱面体),太めで平たいほうがobtuse(扁平菱面体)と呼ばれています.

 ケプラーは複合多面体から菱形十二面体,菱形三十面体を発見し,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしました.

 菱形十二面体,菱形三十面体は球に内接する(外接球をもつ)のですが,球には内接しないものの合同な菱形だけでできている多面体には,2種類の菱形六面体を除いて実はあと2つ,1885年にフェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体(第2種)があります.

 菱形三十面体からあるゾーン(菱形の連なった帯)を抜き取って押しつぶすと菱形二十面体,菱形二十面体からあるゾーンを抜くと菱形十二面体(第2種)になるので,これらは各面の対角線の長さの比が黄金比の菱形からなる一連のゾーン多面体と考えることができます.

 各面の菱形の対角線の長さの比が黄金比1:1.618[=(√5+1)/2]の黄金六面体の場合,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体(第2種),5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.

 2種類の黄金菱面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができるのですが,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.

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【2】ゾーン多面体の構成

 菱形三十面体からあるゾーンを抜くと,菱形二十面体や菱形十二面体(第2種)になるので,これらは各面の対角線の長さの比が黄金比の菱形からなる一連のゾーン多面体と考えることができます.菱形のすべての稜は2方向,菱形六面体のすべての稜は3方向,菱形十二面体では4方向,菱形三十面体では6方向を向いているのですが,菱形二十面体では5方向,菱形十二面体(第2種)では4方向を向くことになります.

 一般にすべての稜がn方向を向くとき,面数はf=n(n−1)となります.そのうち,ゾーン面は2枚ずつ増やせるので2(n−1)面,天井面と床面はそれぞれ(n−1)(n−2)/2面で

  2(n−1)+2(n−1)(n−2)/2=n(n−1)

という構成になっています.

  n   ゾーン   天井床    f    e    v

  3     4     2    6   12    8

  4     6     6   12   24   14

  5     8    12   20   40   22

  6    10    20   30   60   32

(1)菱形十二面体と菱形十二面体(第2種)

(2)菱形三十面体

(3)菱形二十面体

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【3】菱形多面体の必要条件

 ところで,コラム「デルタ多面体の構成」で述べたように正三角形だけからなる凸多面体(デルトイドと呼ばれる)は,面数fが偶数で4〜20の範囲にありますが,f=18は不可能です.デルトイドの場合に較べて複雑になるのですが,ここでは菱形多面体(ロンボイド)のおおよその必要条件を求めてみることにします.

 3次元凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,

  v−e+f=2  (オイラーの多面体定理)

が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈され,最も美しい数学の10大定理の1つに挙げられるものです.

 また,正則な多面体とはその面が正多角形で,どの面にも同じ数の面が集まっている凸多面体のことで,正多面体では

  pf=2e,qv=2e

でしたが,正則とは限らない一般の多面体では

  Σpi=p1+・・・+pf=2e,

  Σqi=q1+・・・+qv=2e

となります.

 菱形の鋭角と鈍角の和は180°ですから,頂点に4つ以上の鈍角が集まることは不可能です.頂点に集まる角がすべて鈍角である場合はqi=3で,菱形の鈍角が120°より小さいことが必要になります.また,この菱形(鋭角が60°より大きい)が頂点に集まる角がすべて鈍角である場合は最大1頂点に5枚ですから,qi=4またはqi=5ということになります.

 さらにまた,鈍角と鋭角が混ざっている頂点がある多面体が菱形二十面体と菱形十二面体(第2種)なのですが,このような必要条件を満たす対象を広めに見積もると

  pi=4,3≦qi≦5

ですから

  4f=2e

  3v≦2e≦5v

これをオイラーの多面体定理

  v−e+f=2

に代入すると

  e≧12,f≧6

という下限が得られますが,f=6は細い菱面六面体と太った菱面六面体ですから,これだけでは何の手がかりも得られていないことと同じです.

 鋭角(acute)m個と鈍角(obtuse)n個が集まる頂点をamonで表すことにすると,必要条件として

  Σmi=Σni=e

を満たすような頂点が可能となります.実際には

  扁長菱面体:a3=2,a1o2=6

  扁平菱面体:a2o1=6,o3=2

  菱形十二面体:a4=6,o3=8

  菱形十二面体(第2種):a4=2,a3o1=4,a1o2=4,o3=4

  菱形二十面体:a5=2,a3o1=10,o3=10

  菱形三十面体:a5=12,o3=20

となるのですが,後日,もう少し数学的に考察して上方からの制限(f≦30,e≦60)を設けてみたいと思います.

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