■フェルマーの最終定理と有限体(その12)
まずは復習から.
p=7のとき,x^3=aを満たすF7の元xの個数を求めると,a=0なら1個,a=1,6なら3個,a=2,3,4,5なら0個となりますが,その違いがどこからくるのか知るために,ここで有限体の復習をしておきましょう.
有限体Fpの0以外の元をaとします.このとき,aをp回足すとはじめて0になります.素数7を例にとって,F7でa=3を何回もたしてみると
3+3=6
3+3+3=6+3=2
3+3+3+3=2+3=5
3+3+3+3+3=5+3=1
3+3+3+3+3+3=1+3=4
3+3+3+3+3+3+3=4+3=0
このpを有限体Fpの「標数」といいます.
また,aをp−1回掛けると1になります.F7において
a\^n 1 2 3 4 5 6
1 1 1 1 1 1 1
2 2 4 1 2 4 1
3 3 2 6 4 5 1
4 4 2 1 4 2 1
5 5 4 6 2 3 1
6 6 1 6 1 6 1
最後の列はすべて1です.
このように,pで割り切れない整数aに対して,フェルマーの(小)定理
a^(p-1)=1 (mod p)
が成り立つというわけです.また,このことからa^(p-2)がaの逆元となることも理解されます.
1/a=a^(p-2)
F7では,
1/3=3^5=5,1/6=6^5=6
この表において,1は1乗してはじめて1になりますが,2は3乗して,3は6乗して,4は3乗して,5は6乗して,6は2乗してはじめて1になります.何乗かして1になるとき,その最小のものを「位数」と呼びます.p=7のとき,a=1,2,3,4,5,6の位数はそれぞれ1,3,6,3,6,2ですが,ここで位数として現れる数はすべて6=7−1の約数です.一般にFpの位数はp−1の約数となります.
また,pと互いに素な整数aがp−1乗してはじめて1になるとき,aを「原始根」といいます.F7においては3,5が原始根です.
F5においては
a\^n 1 2 3 4
1 1 1 1 1
2 2 4 3 1
3 3 4 2 1
4 4 1 4 1
より2,3が原始根となります.
任意の素数について原始根rは少なくとも1つ存在します.1つとは限らないため,原始根rの選び方は1通りではありませんが,1つ選んで固定します.そしてFpにおける原始根rが与えられたとき,0以外のすべての元は,
a=r^i (i=0〜p-2)
の形に表すことができます.iを(rに関する)「指数」と呼びます.Fpの0以外のすべての元はrを生成元とする位数p−1の巡回群というわけです.
F7において,原始根r=3とすると
i : 0,1,2,3,4,5
a=r^i: 1,3,2,6,4,5
ですから,6の指数は3,1の指数は0ということになります.また,原始根としてr=5を選ぶと
i : 0,1,2,3,4,5
a=r^i: 1,5,4,6,2,3
で,同様に6の指数は3,1の指数は0となります.
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【1】x^3+y^3=z^3 on Fp=1(mod3)
前節より,3乗で表される数x^3=aの解の個数が
指数が3の倍数のとき・・・・・3個
指数が3の倍数でないとき・・・0個
で与えられることが理解されます.
p=1(mod3)の場合,Npは複雑となるのですが,実は
x^3+y^3=1 (x≠0,y≠0)
の解の個数をMpとおけば,
Np=9+Mp
となることがわかっています.
そこで,
S(u)=(u=x^3を満たす解の個数)
S(v)=(v=y^3を満たす解の個数)
とおくと,F7では
指数が3の倍数のとき・・・・・S(1)=S(6)=3
指数が3の倍数でないとき・・・S(2)=S(3)=S(4)=S(5)=0
で,u+v=1を満たす(u,v)の組は
(2,6),(3,5),(4,4),(5,3),(6,2)
ですから
M7=S(2)S(6)+S(3)S(5)+S(4)S(4)+S(5)S(3)+S(6)S(2)=0
より,N7=9が得られるというわけです.
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次に,
指数が3の倍数のとき・・・・・3個
指数が3の倍数でないとき・・・0個
と結びつけるために,1の原始3乗根
ω=(−1+√3)/2,ω~=(−1−√3)/2
ω^2=ω~,1+ω+ω^2=0
を使うことにします.
ω^k=0 (k=0 mod3)
=ω (k=1 mod3)
=ω^2 (k=2 mod3)
ですから
1+ω^k +ω^2k=3 (k=0 mod3)
=0 (k≠0 mod3)
が成立します.1+ω^k +ω^2kという式は指数kが3で割り切れるかどうかの指標になっているというわけです.
Fpにおける原始根rが与えられたとき,0以外のすべての元は,
a=r^k (k=0〜p-2)
で表されるのですが,このとき,
χ(a)=ω^k,χ~(a)=ω~^k=ω^2k
と定めます.この指標は乗法的性質
χ(m)χτ(n)=χτ(mn)
をもっています.
するとF7(r=3)では
a :1 ,2 ,3 ,4 ,5 ,6
k :0 ,2 ,1 ,4 ,5 ,3
χ(a) :1 ,ω^2,ω ,ω ,ω^2,1
χ~(a):1 ,ω ,ω^2,ω^2,ω ,1
これより
x^3=aなるxが存在する←→χ(a)=1,χ~(a)=1
Σχ(a)=Σχ(r^k)=Σω^k=0
Σχ~(a)=Σχ(r^k)=Σω^2k=0
であり,
S(u)=1+ω^k +ω^2k=1+χ(u)+χ~(u)
S(v)=1+ω^2k +ω^k=1+χ(v)+χ~(v)
ここで,
J(χ)=Σχ(u)χ(v)
J(χ~)=Σχ~(u)χ~(v) (Σはu+v=1をわたる)
なる記号を使えば
Mp=p−8+J(χ)+J(χ~)
より
Np=p+1+J(χ)+J(χ~)
と表されます.
J(χ)とJ(χ~)はヤコビ和と呼ばれる複素数ですが,F7(r=3)の場合は
J(χ)=χ(2)χ(6)+χ(3)χ(5)+χ(4)χ(4)+χ(5)χ(3)+χ(6)χ(2)
=2ω^3+3ω^2=−1−3ω
同様に
J(χ~)=2+3ω,
J(χ)+J(χ~)=1,J(χ)J(χ~)=7
となります.
このように,J(χ)+J(χ~)は実数となり,また,
|J(χ)|^2=J(χ)J(χ~)=p
|J(χ)|=|J(χ~)|=√p
が成り立ちますから,p=1(mod3)のとき
p+1−2√p<Np<p+1+2√p
となることがわかります.Npは各素数pごとにてんでんばらばらになっておらす,そこにはある秩序が存在しているというわけです.
なお,
p+1−2√p<Np<p+1+2√p
という式は楕円曲線と有限体の関係においても登場しますので,それについてはコラム「楕円曲線と有限体」,「谷山予想・佐藤予想・ラマヌジャン予想」をご参照下さい.ワイルズも20代になったばかりのデビューしたての頃,楕円曲線のゼータ関数についての仕事で数学界に衝撃を与えました.
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