■正多面体の木工製作(その3)

 今回のコラムでは,以前取り上げた45°切稜立方体(十八面体)ではなく,立方体に可変角切稜を施した五角十二面体についての諸計量を行います.その結果,五角十二面体の切稜角をある値に設定して削りとると正十二面体ができあがることを証明してみたいと思います.

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【1】五角十二面体

 立方体に45°切稜を施し,もとの立方体の表面に正方形面を残した場合,もとの立方体の1辺の長さを2,正方形面の1辺の長さをd(0≦d≦2)とすると,

  d=2・・・・・・・・・・・・・立方体

  d=2(√2−1)・・・・・・・内接球をもつ18面体(d=2*0.4142)

  d=2(4√3−3)/13・・・等稜18面体(d=2*0.3022)

  d=0.4・・・・・・・・・・・外接球をもつ18面体

  d=0・・・・・・・・・・・・・菱形十二面体

のように立方体と菱形十二面体との中間段階にある18面体を作ることができます.立方体と菱形十二面体は単独で空間充填可能ですが,その中間段階のさまざまな面取り度合いの切稜18面体は単独では空間充填できません.

 このように45°切稜立方体では,もとの立方体の表面を残した場合は四角形6面・六角形12面からなる18面体ができるのですが,切稜角を45°とは限定せずに,たとえば立方体の東西南北天地面のうち,天地面に対しては東西方向の辺だけ(南北方向の辺は削らない),東西面に対しては南北方向の辺だけ(天地方向の辺は削らない),南北面は天地方向の辺だけ(東西方向の辺は削らない)を等距離等角度で切稜して,もとの立方体表面の名残りとして1本の稜だけが残るようにします.

 このような立方体の可変角切稜をおこなうと,さまざまな五角十二面体ができあがります.この立体の面は不等辺5角形なのですが,切稜の角度を30°くらいにすると正5角形に近くなっていくことがわかります.下図には切稜角の異なる2種類の5角12面体を掲げます.

 また,もとの立方体の表面の痕跡がないまったく新たに作られた頂点を結んでみると,5角12面体は立方体に屋根をかけた形になっていることがみてとれます.つまり,これらの頂点は内接立方体の頂点であるのですが,このことは立方体の12の稜を等角等距離で削ってできる5角12面体一般の特徴といえます.

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【2】五角十二面体の計量

 ここで,中川宏さんのコメントを紹介します.

「私が正12面体を作る手がかりになったのは,正20面体を作ろうとしてできた5角12面体でした.その不等辺5角形のなかに正5角形を書いてみて切稜の角度を深くするとひょっとすると正5角形になるかもしれないと試してみたのでした.

 添付の投影図形でdは1から0までの可変量です.d=1のときは立方体,d=0のときは菱形12面体となりますが,その中間の値ではさまざまな5角12面体となります.

 5角12面体では辺AB,BC,AE,DEは等しいのですが,それらとCDはイコールではありません.また角EABと角ABCと角BCDもそれぞれ違います.4辺が等しいので当然dがある値の場合に5辺とも等しくなることが予想されますが,そのときにすべての内角が等しくなるかどうかは直感的に確信できることではないと思うのです.

 立方体の可変角切稜によってできる5角12面体の5辺が等しくなるときに同時にすべての内角が等しくなることを証明するというように問題を立て直すことが出来るのではないかと思うのですが,いかがでしょうか?

 また,約32度という正12面体の切稜角は

  一松信「正多面体を解く」東海大学出版会

p19にある58.2825256度を90度からひいた31.71・・・に基づいています.ただし,私の定規が実際にそうなっているかどうかは保証できませんが・・・.」

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 この話をもう一度整理しておきます.もとの立方体の1辺の長さを2,もとの立方体表面に残る1本の稜の長さを2dとします(0≦d≦1).すると切稜角φとの関係は

  tanφ=1−d

で表されます.

 切削してできる五角形面の頂点をxyz座標で表すと(0,1,d)の巡回置換(1,d,0),(d,0,1)を頂点にもつことがわかります.この3点の重心は

  ((1+d)/3,(1+d)/3,(1+d)/3)

ですからこの3点を結ぶと正三角形になること,また,もとの立方体の表面の痕跡がないまったく新たに作られた頂点はこの3点から等距離にあることから

  (D,D,D)

と表されることも理解されます.

 すなわち,五角面の頂点の座標は

  A(0,1,d)

  B(−D,D,D)

  C(−d,0,1)

  D(d,0,1)

  E(D,D,D)

ここで,

  D=1/(2−d)

と計算されます.

 5辺が等長となるための条件は,辺AE=辺CDより

  D^2+(D−1)^2+(D−d)^2=4d^2  → d^2−3d+1=0

ですから,これを解いて

  d=(3−√5)/2,D=(−1+√5)/2

 また,

  cos(∠CDE)=−(D−d)/{D^2+(D−1)^2+(D−d)^2}^(1/2)

  cos(∠DEA)={D(D−d)+D(D−1)+(D−d)(D−1)}/{D^2+(D−1)^2+(D−d)^2}

  cos(∠EAB)={−D^2+(D−1)^2+(D−d)^2}/{D^2+(D−1)^2+(D−d)^2}

 d=(3−√5)/2のとき,これらが等角Θとなることも証明され,

  cosΘ=(1−√5)/4

と計算されます.

 ここで,θ=18°(5θ=90°)とおくと

  cos5θ=16cos^5θ−20cos^3θ+5cosθ=0

より

  cos^2θ=(5+√5)/8

また

  cos6θ=cos(5θ+θ)=−sinθ=(1−√5)/4

となり,

  Θ=6θ=108°

すなわち,Θが正五角形の内角に一致することもわかります.

 さらに,切稜角は

  tanφ=1−d → φ=31.7175°

であることが割り出されます.このことは正十二面体の二面角δは58.2825°×2ですので,立方体を削って正十二面体を作る場合の切稜角を

  90°−58.2825°=31.7175°

とすればよいことに一致するというわけです.

 このように削った多面体は正十二面体となるための条件を満たし,

(1)正十二面体の六角形を長くしたような投影図形において短い辺を1とすると,長い辺が黄金比φになること

(2)正十二面体が立方体に外接し五角形の一辺を1とすると,外接立方体の一辺はφ^2であること

(3)正十二面体の外接球の半径(=外接立方体の一辺の1/2でもある)が正五角形の外接円の半径のφ倍であること

などを示すことができます.

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【3】S^3/V^2比の最小化

  D=1/(2−d)

とおくと,

 五角形面の面積:S5=d{(d−1)^2+1}^(1/2)+{d^2+1+(d−1)^2}^(1/2){(D−d/2)^2+(D−1/2)^2+(D−(d+1)/2)^2}^(1/2)

 原点から正方形面までの距離:H5=1/{(d−1)^2+1}^(1/2)

 以上により

  表面積:S=12S5

  体積:V=SH5/3=4S5H5

が得られます(0≦d≦1).

 さて,立体図形のS^3/V^2は平面図形のL^2/Aの相当していて,「等周比」あるいは「等周定数」と呼ばれます.ここではS^3/V^2が最小値をとるdを求めたいと思います.

  (S^3/V^2)’=0 → 3S’V−2SV’=0

より,S^3/V^2が最小値をとるdを求めると

  d=(3−√5)/2

となって,5角12面体が正十二面体となる条件と一致しました.

 すなわち,等周比の点からいうと正十二面体が最も球に近い5角12面体ということになりますが,さらにグラフを描くとd=1(立方体)→d=(3−√5)/2(正十二面体)で球に近づき,d=(3−√5)/2(正十二面体)→d=0(菱形十二面体)で球から遠ざかる様子が理解されます.なお,この計算は阪本ひろむ氏に確認してもらいました.

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【4】五角十二面体(第2種)

 五角十二面体の木工模型で削るべきところを残し,残すべきところを削ると凹五角形面をもつ十二面体ができあがります.この立体図形は切稜法の裏にあたり,さしづめ星型の切稜立方体というところです.五角十二面体同様,4つの三回対称軸と3つの三回対称軸からなる回転対称性をもっています.すなわち,正四面体と同じ回転対称系となるというわけです.

 この図形をみて,スイスのネフ社が製作している積み木によく似ていると感じました.ネフ社のものは天地面を東西方向と南北方向に十字型に削っているのですが,積み木の原理としては立方体による空間充填のようです.くぼみをつけることによって高く積み上げても安定するよう工夫したものと思われます.

 中川さんの意見としては「この方が積木にむいているのかもしれませんが,ただ,これは丸鋸盤による手作業では危険が多くなじみません.背中が三角形に高くなったベルト状のグラインダーで削るのが工法としては正解だろうと思います.」ということでした.

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【5】正二十面体の計量

 正十二面体の場合と同様に,もとの立方体の1辺の長さを2,もとの立方体表面に残る1本の稜の長さを2dとします(0≦d≦1).すると切稜角φとの関係は

  tanφ=1−d

で表されます.

 正十二面体ではもとの立方体の表面の痕跡がないまったく新たに作られる頂点がありますが,正二十面体ではすべての頂点がもとの立方体の表面上にあります.ここで,三角面の頂点の座標を

  A(0,1,d)

  B(−d,0,1)

  C(d,0,1)

  D(0,d,0)

とおきます.

 ABC面が正三角形となるための条件は,辺AC=辺BDより

  d^2+(d−1)^2+1=4d^2  → d^2+d−1=0

ですから,これを解いて

  d=(√5−1)/2

 切稜角は

  tanφ=1−d → φ=20.9052°

と計算されます.

 また,三角形ACDにおいて

  A(0,1,d)

  C(d,0,1)

  D(1,d,0)

ですから

  辺AC=辺CD=辺DA={d^2+(d−1)^2+1}^(1/2)

すなわち,三角形ACDも正三角形です.

 次に,正三角形ACDが切頂面であることを証明します.

  OA=OC=OD={d^2+1}^(1/2)

より3点A,C,Dは原点Oから等距離にあり,ACD面の重心Gと原点Oを結ぶ線はACD面と直交することがわかります.

 また,重心Gは

  ((1+d)/3,(1+d)/3,(1+d)/3)

したがって,重心Gは原点Oと(1,1,1)を結ぶ線上にあることから正三角形ACDが切頂面であることが理解されます.

 ちなみに(1,1,1)はACD面の法線ベクトルですが,ACD面の単位法線ベクトルp↑は

  p↑=(1/√3,1/√3,1/√3)

ですから,ACD面とxy平面(yz平面,zx平面)のなす角(切頂角)は  π/2−arccos(1/√3)

 =arctan(1/√2)=35.2644°

となって,切頂定規(1:√2:√3)が必要になるというわけです.

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