今回のコラムでは円の分割問題を2問取り上げます.この2つの問題は似て非なる問題となっています.
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【1】1つの円をn本の弦で分割する.その際,分割によってできる領域が最も多くなるようにする.最大分割領域数Snはいくつになるか?
(答)この問題は実は円という条件を取り去っても同じ答えになります.すなわち,平面をn本の線で分割する.その際,分割によってできる領域が最も多くなるようにする.最大分割領域数Snはいくつになるか?
分割される領域数が最大になるためには,新しい線(弦)を引くとき,それ以前のすべての線(弦)と新しい交点で交わるようにします.既存の交点を通ると分割される領域が最大数にならないからです.
S0=1,S1=2,S2=4,S3=7
はすぐに求められます.このことからn本目の線(弦)を引くと新しい領域がn個増えることがわかります.これを式で表すと
Sn=Sn-1+n
Sn=Sn-1+n
Sn-1=Sn-2+n−1
・・・・・・・・・・
S1=S0+1
S0=1
を辺々加えると,一般式
Sn=1+(1+2+3+・・・+n)=1+n(n+1)/2
=(n^2+n+2)/2
が得られます.
S0=1,S1=2,S2=4,S3=7,
S4=11,S5=16,S6=22,・・・
と続くというわけです.
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【2】円周上にn点をとり,円周上の点同士をすべて互いに弦で結ぶ.その際,円の分割によってできる領域が最も多くなるようにする.最大分割領域数Mnはいくつになるか?
(答)M1=1,M2=2は明らか.また,円に内接する三角形,四角形,五角形を描くと
M3=4,M4=8,M5=16
このことから,
Mn=2^(n-1)
であると予想されます.しかし,この式ではM0=1/2となってしまい,M0=1とならないことが気にかかるところです.
n=6の場合を実際にやってみると,正六角形のように3本の線が1点で交わってしまう場合は最大領域数にならないのでNGですが,第6の点が既存の弦の交点を通らないように注意すると,M6=32ではなく,M6=31となることがわかります.
ここで
Mn=2^(n-1)
は間違いであることに気づかされるのですが,さらに
M7=57,M8=99,M9=163
となり,数列
{1,2,4,8,16,31,57,99,163,・・・}
は,公比2の等比数列
{1,2,4,8,16,32,64,128,256,・・・}
から大きく離れていきます.
それでは一般式はどのように表されるのでしょうか? 図を描きながらパターンを探してみると,円周上に3点がある場合は三角形の外側に3つの領域,内側に1つの領域,4点の場合は四角形の外側に4つの領域,内側に4つの領域ができる.
4=3+1,8=4+4
円周上に5点がある場合は五角形の外側に5つの領域,すぐ内側に10個の三角形領域,中心部に五角形がひとつある.
16=5+10+1
円周上に6点がある場合は六角形の外側に6つの領域,すぐ内側に18個の三角形領域,その内側に3つの五角形と3つの四角形,そして中心部に三角形がひとつある.
31=6+18+6+1
しかしこのパターンからはどうしてもこれといったアイディアが浮かばないのですが,領域の数は弦の数や交点の数と関係していることは明らかであって,前者はnC2,後者はnC4で計算されます.
図なしにこれ以上説明することは難しいので,結論を述べますが
[参]コンウィイ・ガイ「数の本」シュプリンガー・フェアラーク東京
には,すべての領域にラベルを与えると,ラベルを含む数の個数は0,1,2,3,4のいずれかであって,
Mn=n-1C0+n-1C1+n-1C2+n-1C3+n-1C4
=1+(n−1)+(n−1)(n−2)/2+(n−1)(n−2)(n−3)/6+(n−1)(n−2)(n−3)(n−4)/24
=(n^4−6n^3+23n^2−18n+24)/24
となることが示されています.
パスカルの三角形のはじめの5項の和というわけですが,
n-1C0+n-1C1+n-1C2+n-1C3+n-1C4+・・・+n-1Cn-1=2^(n-1)
ですから,nが大きくなればその答えは2^(n-1)からますます離れていくというわけです.
M1=1,M2=2,M3=4,M4=8,M5=16,
M6=31,M7=57,M8=99,M9=163,M10=256,
M11=386,M12=562,M13=794,M14=1093,
・・・,M30=31931,・・・
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【3】数列の次の項を予想する
数列
{Mn}={1,2,4,8,16,31,57,99,163,・・・}
をこの問題を提起したモーザーにちなんでモーザー数列と呼ぶことにすると,モーザー数列は先入観から間違った答えを予想してしまう例としてしばしば引き合いにだされるものになっています.
カタラン数列{Cn}もその一例として挙げておきましょう.カタラン数列では
{Cn}={1,2,5,14,42,132,429,1430,4862,16796,・・・}
のはじめの4項1,2,5,14は初項1から始まって前項を3倍して1を引いたものに一致するのですが,5項目以降は異なってしまいます.
カタラン数は,凸n角形を対角線で三角形分割する仕方は何通りあるかとか,n対のかみ合い括弧の種類数などいろいろな場面で登場する数なのですが,
Cn=2nCn/(n+1)=(2n)!/n!(n+1)!,
Cn=2n+1Cn/(2n+1),
あるいは
Cn=2nCn−2nCn-1=1,2,5,14,42,・・・
と表されます.
カタラン数から一般項が何かを予想するのは難しいのですが,ここでは
Cn=2nCn/(n+1) (C0=1)
がわかっているものとして,母関数
F(t)=ΣCnt^n
を求めてみます.
この級数は,第0項:C0=1から始まるので,そのまま項比をとると
an+1xn+1/anxn=(n+1/2)(n+1)/(n+2)*4x/(n+1)
したがって,
F(x)=2F1(1/2,1,2,4x)=2/{1+(1-4x)^(1/2)}
={1-(1-4x)^(1/2)}/2x
(1-4x)^(1/2)=Σ(-4)^k1/2Ck・x^k
より
Cn=-1/2(-4)^(n+1)1/2C(n+1)
これをさらに式変形すれば,
Cn=2nCn/(n+1)
になる.この結果,二項展開を丹念に使えば
{1-(1-4x)^(1/2)}/2x=Σ2nCnx^n/(n+1)
が得られるはず・・・.
この方法は試してはいないのですが,かなり面倒そうです.実はカタラン数に対しては,漸化式
Cn=ΣCkCn-k-1=C0Cn-1+C1Cn-2+・・・+Cn-1C0
が成り立つので,母関数は
F(t)=ΣCnt^n=ΣCkt^kΣCn-k-1t^n-k+1
=F(t)・tF(t)+1
すなわち,
tF(t)^2−F(t)−1=0
なる2次方程式を満たすことが知られています.
C0=1を満足させなければならないので,複号は負号をとると,
F(t)={1-(1-4x)^(1/2)}/2x
がでてくることを付記しておきたいと思います.
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【4】おまけ
カタラン数列では3倍して1を引いたのですが,3倍して1を足す問題として,コラッツの問題を紹介しておきましょう.
何でもいいから好きな自然数a0から始めて,奇数なら2で割る,偶数なら3倍して1を足す.
(1)a0=3から始めると
3→10→5→16→8→4→2→1(→4→2→1→4→2→1)
(2)a0=7から始めると
7→22→11→34→17→52→26→13→40→20→10→5→16→8→4→2→1(→4→2→1→4→2→1)
どんな数でも1にたどりついて,その後は(→4→2→1→4→2→1)のくり返しになるというのがコラッツ予想です.この問題は理論的に証明することも反例を見つけることもできていない未解決問題となっています.
コラッツ予想はいわば3n+1予想でしたが,4n+1定理として
「4n+1の形をした素数pは2つの平方数の和:p=a^2+b^2として表される」
は有名な数学の定理となっています.
たとえば,5=1^2+2^2,13=2^2+3^2,17=1^2+4^2,29=2^2+5^2,・・・.しかし,4n+3の形の素数は1つもこのようには表せないのです.また,8n+7の形の数は3個の平方数の和では表されません.
一方,「すべての正の整数は高々4個の整数の平方和で表される」というのがラグランジュの定理です.さらに,
「任意の整数はたかだか9個の3乗数の和として,あるいは19個の4乗数の和として表される」
g(2)=4,g(3)=9,g(4)=19
現在,k≧6でのg(k)の値はほぼ決まっていて,
g(6)=73,g(7)=143,g(8)=279,
g(9)=548,g(10)=1079,・・・
したがって,37五乗数定理だけが残されたことになります.
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