■正多面体の木工製作(その2)

 (その1)では中川宏さんの木工正多面体を紹介しました.5つの正多面体(正4・6・8・12・20面体)はすべて立方体から作れたのですが,その際,一番難しいと予想された正十二面体が,たった1種類の定規だけで出来上がることがわかりました.正十二面体は立方体の各面に屋根をつけて構成することができることを考えると(木工の立場からみて)正十二面体が最も立方体に近い正多面体ということになります.

 もっと不思議だったのは,美しい正五角形の十二の面にいろどられた正十二面体(蝶)が決して美しいとはいえないひとつ前の形(さなぎ)から突如として現れたことです.このことはそれを作った中川さんにも予想できないことでありました.

 上の写真はさなぎと蝶ですが,最後の最後に一挙に正五角形が現れるというドラマが待ち受けています.そこに感動するだけでも子供たちの数学に対する興味は大きく育つのではないかと思われるのです.

 その後,中川さんの木工多面体は東京と京都のシュタイナー学校で教材として採用されることが決まりました.今回のコラムでは中川さんの木工多面体のPRも兼ねて,5つの正多面体以外の多面体について,簡単に解説していきたいと思います.

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【1】菱形十二面体(4次元の雪)

 菱形十二面体は対角線の長さの比が1:√2の合同な菱形を12枚張り合わせたものです.菱形十二面体(頂点は14個)では,6個の頂点に4つの面が集まり,残りの8個の頂点に3つの面が集まっています.

 4つの面が集まる頂点の方向からみるとその投影図は正面,平面,側面がすべて正方形になっているという奇妙な投影図形を示します.一方,3つの面が集まる頂点の方向からみるとその投影図は正六角形を示します.

 菱形十二面体は面心立方格子のボロノイ図であり,実際,ざくろ石の結晶としても自然界に産出します.また,ケプラーは雪の結晶が正六角形をしているのはなぜかと考え,史上初めて菱形十二面体をみつけました.菱形十二面体は正24胞体の3次元版と考えられるのですが,ケプラーが思考実験したとおり4次元の雪(超正六角形)は菱形十二面体なのです.

 菱形十二面体は,面が正多角形ではないので準正多面体ではありませんが,立方八面体の各面の中心をつないで余分なところを切り落とすと現れる多面体,すなわち,準正多面体の双対多面体でもありますから一種の準正多面体群として考えることができます.なお,正八面体に外接する菱形十二面体では,菱形面の長い方の対角線がこの正八面体の辺となっています.

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【2】切頂八面体(表面積は小さく容積は大きく)

 菱形十二面体(4次元の雪)としばしば対比されるのが,切頂八面体です.どちらも単独で空間充填可能な立体図形なのですが,菱形十二面体が面心立方格子のボロノイ図であるのに対して,切頂八面体は体心立方格子のボロノイ図となっています.

 ここで,空間を体積が等しい凸多面体で,平均表面積ができるだけ小さくなるように分割せよという問題を考えてみることにしましょう.この問題はかなり長い間,菱形12面体による空間分割が解だと考えられていたのですが,予想に反して,体積1のときの表面積を求めると,菱形12面体型分割では

  3√108√2=5.345・・・

切頂8面体型分割では

  3/43√4(1+√12)=5.314・・・

と後者の方が約0.5%少なくなります.

 このようにして,1887年,英国の物理学者,ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)は切頂八面体の集合によって空間を満たすことができ,そのときの界面積は菱形十二面体で満たしたときより小さいことを発見しました.すなわち,切頂八面体は表面張力を最小とする空間分割構造であると考えることができるのです.

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[補]切稜立方体の表面積Sと体積Vは,dをパラメータとして

  S=(6−9/√2)d^2+6√2d+6√2

  V=−3/4d^3+3/2d^2+3d+2

で表されます→コラム「切稜立方体(その3)」.菱形十二面体ではd=0ですから

  S=6√2(

  V=2

 一方,切頂八面体では

  S=(12−8√3)d^2+(24√3−48)d+48−12√3

  V=8/3d^3−12d^2+12d+4

においてd=3/2とおいて求められます→コラム「切頂立方体の計量」.したがって,

  S=3+6√3

  V=4

となります.

 体積1のときの表面積は

  3√(S^3/V^2)

で求められますから,菱形十二面体では

  3√(S^3/V^2)=3√(108√2)=5.345・・・

切頂八面体では

  3√(S^3/V^2)=3/4・3√4・(1+√12)=5.314・・・

これでケルビン卿の計算が正しいことが確かめられました.

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【3】切頂二十面体(サッカーボール)

 正多面体が1種類の正多角形(正3角形,正方形,正5角形)だけでできているのに対して,2種類以上の正多角形から構成されている立体が準正多面体で,プラトンの立体(Platonic solid)に対してアルキメデスの立体(Archimedean solid)とも呼ばれています.

 準正多面体は合計16種あります.アルキメデスは準正多面体のうちの13個知っていましたが,残り3つのうち2つはカタラン,最後の1つはベールによって発見されています.正多角形,正多面体は円,球に内接・外接しますが,準正多面体は球に内接するだけで外接しません.

 サッカーのボールは正五角形12個と正六角形20個を張り合わせてできていますが,アルキメデスの立体はサッカーボールですでにおなじみでしょう.この準正多面体は正20面体(頂点が12個,正三角形の面が20個ある)の各頂点からのびている5本の辺をそれぞれ1/3の長さの所で切り取り,五角錐をはずした姿であり,切頂二十面体(truncated icosahedron)とも呼ばれます.

 ちなみに,石墨(グラファイト)とダイヤモンドにつぐ炭素の第3の形と呼ばれる炭素原子クラスター(フラーレン)のなかでもきわめつけはC60で,この形はサッカーボールにそっくりです.この世界最小のサッカーボールはアメリカの異才バックミンスター・フラーへの親しみを込めて,バッキーボールという愛称でも知られています.C60の化学合成は1989年に成功しましたが,その後,1992年にアルカリ金属を添加すると超伝導体になるなどのおもしろい性質が発見され,C60は目下発展中の話題を提供しています.

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【4】切頂四面体

 いったん正n面体が出来上がると,それぞれの切頂n面体シリーズを作ることができます.以前は切頭n面体と呼ばれていました.切頭とは角張ったところを切り落とすという意味なのですが,頭を切るでは物騒ですし「セットウ」では窃盗に通じて聞こえが悪いので,最近では切頂が標準的に用いられています.

 正四面体も切頂四面体も単独では空間充填できませんが,両者を1:1の割合で組み合わせて使うと空間充填が可能になります.また,このことから切頂四面体の正三角形部分に正四面体を4分割した扁平な四面体をくっつけたものが単独空間充填多面体となることも理解されます.

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【5】12・20面体(複合多面体)

 正十二面体の切頂からは20・12面体(左)や切頂12面体ができます.両者は切頂の深さが違うだけです.さらに,斜20・12面体と大斜20・12面体の写真も掲げておきます.

 ところで,同じ大きさの正3角形2個のうち,1個を天地逆転させ,もう1個の正3角形に重ねると,星形6角形ができます.これはダビデの星と呼ばれて,イスラエルの国旗にも使われ,ユダヤ人の象徴とされています.

 星形6角形では内側に正6角形ができますが,外側のとがった角を結んでも正6角形ができます.すなわち,星形6角形は外側を正6角形が取り囲んでいて,内側にも正6角形が入っていることがわかります.それでは,・・・

(問)それでは,同じ大きさの正4面体2個を重ねた場合,その外側と内側にはどのような立体ができるでしょうか?

(答)複合多面体とは,いくつかの多面体を中心がすべて一致するように重ね合わせたもので,多面体が同じくらいの大きさならば,互いに交わったり,ある面が他の面を突き抜けたりします.

 この問題はダビデの星の3次元版で,同じ大きさの正4面体2個による屋根瓦状の相貫体にはケプラーの8角星という名前がつけられています.最も簡単な複合多面体なので,これが頭の中でイメージできれば答は簡単なのですが,勘の働きにくい問題でもあります.

 上から見ても,前から見ても,横から見ても,同じ6角形に見える3次元図形を想像されますが,ところが,外側に立方体(正方形6面),内側に正8面体(正3角形8面)が正解なのです.

 小生はこの問題を「ダビデの星・ケプラーの星」と呼んでいます.「ダビデの星」では正三角形と正六角形が互いに隣接していますが,それが周期的な格子をつくったものが「カゴメ格子」です.「カゴメ格子」は,文字通り,竹篭編みにみられる篭の目の結び目を作る格子であり,日本人が最も愛好した文様のひとつです.ちなみに「カゴメ」は世界でも通用する呼び名とのことです.

 ついでに,立方体と正8面体,正12面体と正20面体の相貫体について考えてみましょう.立方体と正8面体の相貫体は,外側を菱形12面体(直交する対角線の比が1:√2の菱形12面)が,内側には立方8面体(正方形6面+正3角形8面)が入っています.

 正12面体と正20面体の相貫体では,外側を包む立体が菱形30面体(直交する対角線の比が黄金比になっている菱形30面),内側には12・20面体(正5角形12面+正3角形20面)という多面体が内包されているのです.(正多面体とその双対多面体との共通部分は,正8面体,立方8面体(6・8面体),12・20面体です.)

 正多面体の各面の中心(重心)を順に結んで立体を作ると,もとの正多面体と面と頂点の関係が逆向きの正多面体ができます.互いに表と裏の関係にある多面体を双対多面体といいます.正四面体ではふたたび正四面体ができ,正六面体では正八面体が,逆に正八面体では正六面体が,また,正十二面体では正二十面体が,逆に正二十面体では正十二面体ができます.したがって,正四面体は自己双対であり,正六面体と正八面体,正十二面体と正二十面体とは互いに双対です.このことにより,正多面体は,{正四面体},{正六面体と正八面体},{正十二面体と正二十面体}の3つのグループに大別することができます.

 3種類の相貫体−−正4面体と正4面体,立方体と正8面体,正12面体と正20面体−−について調べてみると,それぞれの立体の間に双対関係があり,3種類の相貫体の外側にできる立体と内側にできる立体−−立方体と正8面体,菱形12面体と立方8面体,菱形30面体と12・20面体も互いに双対関係をもっていることがわかります.そして,これらもやはり相貫体をつくることができ,そしてまたそこに現れてくる外側と内側の立体も双対関係になっています.頂点と面に関しての双対性にはうまくできているなと感嘆させられます.自然界の法則性,自然が作るきれいな関係の1例といえましょう.

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【6】おまけ(星形正多面体と正多面体群)

 凹型正多面体まで含めると正多面体は全部で9種類あり,プラトンの立体と呼ばれる凸型5種類の他の4種類は,星形正多面体(ケプラーがみつけた星形小十二面体,大十二面体と約200年後にポアンソがつけ加えた星形大二十面体,大二十面体の4種類)です.同じ大きさの正4面体2個による相貫体<ケプラーの8角星>はダビデの星の3次元版ですが,星形正多面体には加えません.

 ポアンソの大十二面体を木で作ることは極めて難しそうです.そこで,竹ひごでつくった正二十面体の骨だけを考えます.各頂点のまわりに5つの頂点があるのですが,それらを頂点とする五角形の膜を張ります.五角形同士があちことで交わりますが,このことを12個の頂点すべてでやるとポアンソの大十二面体ができあがります.これを紙で作る場合は正五角形の対角線の半分まで(五角形がばらばらにならない程度に)切れ目を入れたものを12枚用意して組み立てます.

 星形正多面体は4種類しかないことはコーシーが示していますが,3次元空間の回転群の有限部分群は,コーシーが示したように

  (1)巡回群Cn

  (2)正二面体群D2n

  (3)正多面体群,すなわち

   a)正四面体群(4次交代群:A4)

   b)正八面体群(4次対称群:S4)

   c)正二十面体群(5次交代群:A5)

に限られます.

 すなわち,3種類の回転対称性:

  正4面体群=A4(4個の要素からなる偶置換全体=交代群)

  立方体(正8面体)群=S4(4個の要素からなる置換全体)

  正12面体(正20面体)群=A5(5個の要素からなる偶置換全体)

の他に,正n角錐のもつ巡回群Cnと正n角柱のもつ二面体群Dnがあります.

 それでは,高次元ではどうなるのでしょうか? 正多面体は3,4,5次元以上でそれぞれ5種,6種,3種存在するのですが,双対正多面体や自己同型があるので,正多面体群としては3次元のときは3種,4次元のときは正5胞体群,正16胞体群,正24胞体群,正600胞体群の4種,5次元以上では正単体群と超立方体群の2種となります.このことから,星形正多面体はn=4のとき10種あるが,n≧5では存在しないことが証明されるそうです.

       3次元空間    4次元空間    n次元空間(n≧5)

正多面体     5種       6種       3種

星形正多面体   4種      10種       0種

 星形正多胞体は4次元で多彩となり,そこで突然終わりになる・・・5次元以上では3種類の標準正多胞体がすべてということになります.

 また,星形正多面体はn=3のとき4種あり,3次元の9種の正多面体(凸型5種+星形4種)を,

  (1)三角四角型(S4,A4):3種

  (2)五角型(A5):6種

と分類することもできるのですが,それを高次元で行うと,

       3次元空間    4次元空間    n次元空間(n≧5)

三角四角型    3種       4種       3種

五角型      6種      12種       0種

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[補]正多面体群

 正多面体の回転を考えると,正4面体(位数12)では4つの頂点の偶置換を引き起こすので4次交代群A4と同型,正8面体(位数24)では対面する面は4組あり,これらの組の置換を引き起こすので4次対称群S4と同型,正20面体(位数60)では30個の辺を5組に分ける偶置換として作用するので5次交代群A5と同型になります.正多面体の回転群は3次の特殊直交群SO(3)の有限部分群です.

 3次元空間の回転群には,この他に2種類の有限部分群,正n角錐のもつ巡回群Cnと正n角柱のもつ二面体群Dnがあります.すなわち,桜の花はC5,雪の結晶はD6というわけです.

 クラインは,平面内での正n角形を,球の赤道に内接する正n角形の各頂点と北極・南極を結んでできる多面体を上下から赤道面に押しつぶしてできる体積が0の正凸面体と考え,この群を正2面体群と命名しました.2面体群とは,正n角形を回転してもとの正n角形に重ねる巡回群に対し,折り返しも用いてもとの正n角形に重ねる変換すべてを含む群となります.

 以上をまとめると,SO(3)の有限回転群は,

  (1)巡回群(Cn:位数n)

  (2)正2面体群(Dn:位数2n)

  (3)4次交代群(A4:位数12)←→正4面体群と同型

  (4)4次対称群(S4:位数24)←→正6(8)面体群と同型

  (5)5次交代群(A5:位数60)←→正12(20)面体群と同型

のいずれかであることになります.(1)〜(5)が広義の正多面体群,(3)〜(5)が狭義の正多面体群です.

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 正多面体群とリー群との関連では,n次元の正単体群はAn,超立方体群はBnまたはCn,3次元の正二十面体群はG3,4次元の正24胞体群はF4,4次元の正600胞体群はG4と関連しています.

  ・−・・・・・−・  (An:n≧2のとき位数2の自己同型がある)

         /

  ・−・・・・・    (Dn:n≧4のとき位数2の自己同型がある)

         \

          ・

      3

     /

  1−2    (D4:位数3の自己同型がある)

      4

      4

      |

  1−2−3−5−6  (E6:位数2の自己同型がある)

  1=2 (B2)  1≡2 (G2)  1−2=3−4 (F4)

  1≡2−3 (G3)  1≡2−3−4 (G4)

 ここで,G3,G4はG2に1個または2個の節点をつないだグラフであり,単純リー群では許されない形です(拡張されたディンキン図形).また,例外群はDn,E6,E7,E8のいずれかの形になることが示されています.

 ユークリッド空間の有限群(正多面体)または無限離散群(空間充填形)になるのは,4つの無限系列(An,Bn,Cn,Dn)と6つの例外的な場合(G3,F4,G4,E6,E7,E8)に限られるのです.

 正24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体です.この24胞体の対称性を,鏡映で生成される既約な有限群(ルート系)との関係でみても興味深いものがあります.たとえば,正24胞体に含まれる正16胞体は互いに60°をなしますから,D4の3対性をもっているというわけです.

 また,正24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られています.2個の正24胞体を中心を一致させて重ねて回転させます.これはちょうど平面上でダビデの星が2つの正六角形を30°ずらして重ねたものと似ているわけですが,この対称性がF4に相当します.正24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているのですが,この点もまた注目すべきものでしょう.

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