ガウスの超幾何関数
F(α,β,γ:x)=1+αβ/γx+1/2!α(α+1)β(β+1)/γ(γ+1)x^2+1/3!α(α+1)(α+2)β(β+1)(β+2)/γ(γ+1)(γ+2)x^3+・・・
が重要でありまた面白いと思われる点を列挙してみます.
まず
(1)多くの既知の関数がこの級数で表される
という事実があげられます.たとえば,指数関数,対数関数,三角関数,2項関数,ベッセル関数,直交多項式列,不完全ガンマ関数,指数積分,ガウスの誤差関数なども超幾何級数です.
ガウスの超幾何関数は,超幾何微分方程式
x(1-x)d^2y/dx^2+{γ-(α+β+1)x}dy/dx-αβy=0
で定義される1変数の超越関数です.この微分方程式の特異点についてx=0,1はこの微分方程式の確定特異点となるのですが,xを1/xに置き換えるとx=∞も確定特異点となることがわかります.
全平面で確定特異点だけを特異点とする方程式をフックス型というのですが,特異点の数が∞を含めて3つの場合,その確定特異点を0,1,∞に移したときに得られるのがガウスの超幾何微分方程式であり,その解が超幾何関数であるというわけです.
そしてまた,α,β,γを有理数としたとき,超幾何微分方程式はピカール・フックス型になります.このとき,代数曲線の周期積分との関係が明らかになり,リーマン面の一意化という魅力のある問題が提起されます.
これに対する解答として,ガウスの超幾何関数に対するシュワルツの有名な定理(1873年)
(2)モノドロミー群が有限群ならば超幾何関数は代数関数である
がでてくるのですが,その証明は球面(平面)を三角形で敷きつめることに帰着されるのでした(→コラム「超幾何関数とフックスの問題」参照).超幾何関数はふつう超越関数ですが,ときどき代数関数になることがあり,
2F1(-n,1,1,z)=(1−z)^n
はこの例です.
次に代数関数とはならない場合を考えてみることにしましょう.指数関数:y=exp(x)は座標(0,1)を通りますが,点(0,1)がこの滑らかな曲線上の唯一の代数的点であって,自明な点(0,1)を除き代数的点を通ることができません.これが指数曲線や対数曲線が超越曲線と呼ばれる所以なのですが,これ以外のどの代数的点にもぶつからないのは驚くべきことです.
超幾何関数の値は微分方程式のモノドロミー群に深く関わってくるのですが,超越関数となる超幾何関数の代数的な変数での特殊値はふつう超越的です.しかし,
(3)超越関数でありながらも,ときどき予期されない代数的値をとる
ことがあります.
例をあげると,楕円積分と関わる保型関数
4√E4(z)=2F1(1/12,5/12;1;1728/j(z))
とのつながりから,ガウスの超幾何関数
2F1(1/12,5/12;1/2;1323/1331)=3/4・4√11
など,思いもかけないような式がヴォルファルトにより得られています.x座標1323/1331もy座標3/4・4√11も代数的数になるというわけですが,このように自明でない代数的点が存在するのです(→コラム「数にまつわる話」参照).
2F1(1/12,7/12;2/3;64000/64009)=2/3・6√253
などもその例ですが,現在,2F1ばかりでなく,一般的な超幾何関数nFn-1が代数的になる条件はボイカーズとヘックマンによりすでに決定されているようです.
さらに,超幾何関数の理論はゼータ関数ζ(3)の無理数性を示したアペリの方法のボイカーズにより整理された方法にも登場します.今回のコラムでは,シュワルツの三角群から始まって超幾何関数の値に関するヴォルファルトの発見にいたるまで道筋を中心として紹介したいと思います.
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【1】シュワルツの代数関数解(シュワルツの三角群)
ガウスの超幾何関数は多くの関数を含んでいるのですが,それでは,超幾何関数が代数関数になったり,初等関数になったり,特殊関数になったりを決定する条件はどのように表されるのでしょうか? そこで,ここでは,フックスが提起した問題「どのようなときに線形微分方程式のすべての解が代数的になるか?」を取り上げることにします.
代数関数解とは2変数x,yの多項式f(x,y)=0で定義される関数のことをいいます.シュワルツは,微分方程式が導く保型関数から,
(1)円弧三角形を複素上半平面Hに写像する際の写像関数は,微分方程式の2つの解の比y1/y2で表されること.
(2)すべての解が代数関数←→写像関数が代数関数(α,β,γは有理数)
(3)円弧三角形の頂角λπ,μπ,νπは特性指数の差である.
(4)円弧三角形は,λ+μ+ν>1(λπ+μπ+νπ>π)になること.
を利用して,解がすべて代数関数となる条件を示しました.
それは15通りの場合からなっているのですが,リーマン指標(λ,μ,ν)を用いて,整数部分を除いて小数点以下の端数部分を記すと,以下のように表されます.ただし,λ,μ,νの順序を変えることによる重複は避けています.
正2面体群:(1/2,1/2,ν)
正4面体群:(1/2,1/3,1/3)
正4面体群:(2/3,1/3,1/3) (整数部分の和=偶数)
正8面体群:(1/2,1/3,1/4)
正8面体群:(2/3,1/4,1/4) (整数部分の和=偶数)
正20面体群:(1/2,1/3,1/5)
正20面体群:(2/5,1/3,1/3) (整数部分の和=偶数)
正20面体群:(2/3,1/5,1/5) (整数部分の和=偶数)
正20面体群:(1/2,2/5,1/5)
正20面体群:(3/5,1/3,1/5) (整数部分の和=偶数)
正20面体群:(2/5,2/5,2/5) (整数部分の和=偶数)
正20面体群:(2/3,1/3,1/5) (整数部分の和=偶数)
正20面体群:(4/5,1/5,1/5) (整数部分の和=偶数)
正20面体群:(1/2,2/5,1/3)
正20面体群:(3/5,2/5,1/3) (整数部分の和=偶数)
このように,シュワルツの表では分母が2,3,4,5の有理数になります.1/2が含まれるものについては,整数部分の和=偶数という条件は不要となります.そしてλ+μ+ν≦1であるか,λ+μ+ν>1であってもシュワルツの表を満たさない場合は解が超越関数となるのです.
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ところで,上の表に正2面体群,正4面体群,正8面体群,正20面体群という用語を挿入しました.1次分数変換は複素数球面上で考えると1つの回転に対応しますから,写像関数が1価となるためには,有限な回転群である場合を調べれはよいことになります.
球面上の運動の有限群は5つの回転群(巡回群,正2面体群,正4面体群,正8面体群,正20面体群)=広義の正多面体群に限ることが知られていて,これがシュワルツの表に対応するのです.
ここで,正多面体群について説明するために,三角形P(黒塗り)とそれを裏返した三角形Q(白塗り)の2つを交互に並べて,平面全体をタイル張りすることを考えます.たいていの場合は途中でタイル同士が重なってしまいますが,うまくいくと市松模様のタイル張りができあがります.
(問)Pがどのような形のとき,このようなタイル張り(平面の市松模様三角形タイル張り)が可能であろうか?
(答)これが可能なためには,1つの頂点で偶数個の3角形が交わらなければならないので,これを2aとおく.また,その頂点の角度をλπとおくと,頂点を一回りしたので,2aλπ=2π.ゆえに,
λ=1/a ただし,aは2以上の自然数.
まったく,同様に残り2つの内角に対しても
μ=1/b,ν=1/c
また,λπ+μπ+νπ=πより
1/a+1/b+1/c=1
この等式を満たす(a,b,c)の組は非常に少ない.便宜上,a≧b≧cとすると
(3,3,3) → 正三角形
(4,4,2) → 直角二等辺三角形
(6,3,2) → 30°,60°,90°の三角形
の3種類が得られる.
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以上の解は平面を鏡映三角形で埋めることをユークリッド面(放物的)で考えたものですが,リーマン面(楕円的),ロバチェフスキー面(双曲的)を問題にするならば,解は非常に異なるものになります.
λπ+μπ+νπ>π,=π,<π
すなわち
1/a+1/b+1/c>1,=1,<1
に応じて楕円幾何学,ユークリッド幾何学,双曲幾何学の三角形が得られます.
1/a+1/b+1/c>1を満たす正の整数の組(a,b,c)は高々有限個で,4つの球面充填の可能性しかありません.そのうち(n,2,2)は正2面体群,(3,3,2)は正4面体群,(4,3,2)が正8(6)面体群,(5,3,2)は正20(12)面体群に対応しています.
1/a+1/b+1/c=1の場合も4つの可能性しかなく,(∞,2,2)は定規型平面充填,(3,3,3)は正三角形型平面充填,(4,4,2)は正方格子型平面充填,(6,3,2)は六角格子型平面充填に対応しています.
一方,1/a+1/b+1/c<1の場合は(n≧7,3,2),(n≧5,4,2),(n≧4,3,3),(n≧3,4,3)など無限個あり,双曲幾何学における市松模様三角形タイル張りの可能性は無限にあることになります.そして(∞,3,2)はPSL(2,Z),(∞,∞,∞)はΓ(2),(7.3,2)はシュワルツ三角形の面積が最小になる場合に対応しています.
すなわち,楕円的平面(球面)では基本領域は有限個しかなく,有限個の基本領域をならべることによって全平面を埋めつくすことができます.一方,双曲的平面(擬球面)の場合には,無限に多くの種類の基本領域があり,全平面を隙間なく埋めるには無限個必要となります.ユークリッド平面はその中間で,基本領域は有限種類しかないが,全平面を埋めつくすには無限個必要であるというわけです.
幾何学 S^n E^n H^n
λπ+μπ+νπ >π =π <π
(a,b,c) (n,2,2) (∞,2,2) その他
(3,3,2) (3,3,3)
(4,3,2) (4,4,2)
(5,3,2) (6,3,2)
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平面充填ならば分母は2,3,4,6になるのですが,球面充填ですから分母は2,3,4,5となります.このように,シュワルツの方法は幾何的であって,
λ+μ+ν>1
すなわち,球面を重なり合うことなく埋めつくす充填問題と深く関係していることが理解されます.
実際,シュワルツが求めた解は正多面体が球面上に等角な図形を形作ることになるのですが,シュワルツの解において分子が1の場合は球面を単葉に,その他は複葉に覆う場合です.また,2個の円弧三角形を合わせたものを保型関数の基本領域,円弧三角形を上半平面に写像する1価関数をシュワルツ関数といいます.
3個の確定特異点(動かない特異点)をもつ2階フックス型微分方程式の解構造はガウスの微分方程式の解構造に帰着することが知られているため,この問題は「超幾何微分方程式の24個の解すべてが代数関数となる条件を求めよ」と言い換えることもできます.そこでシュワルツはフックスの問題をまず超幾何方程式に対して解決し,引き続いて,一般の2階線形微分方程式に対しても解決しました.
とはいっても,シュワルツの解答(1872)には不備があり不完全なものであったので,ブリオスキ(1876),クライン(1877),ケイリー(1880)らがシュワルツの誤りを訂正しました.
なお,その方法には,幾何的(シュワルツとクライン),不変式論的(フックスとゴルダン),群論的(ジョルダン)なものがあったのですが,これらのうちで,群論的な方法(モノドロミー群は解がすべて代数的であるときに限って有限群となる)が際立った成功をもたらしました.こうして,フックスの問題は1870年代から1880年代にかけて解決されたことになります.
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【2】福原・大橋の初等関数解
福原・大橋は初等関数で表される場合を解決しました(1949,1955).初等関数で表せるとは,ベキ関数・有理式とそれらの積分記号,微分記号で解が表せることをいいます.
その条件とは,リーマン指標(λ,μ,ν)で,
正2面体群:(1/2,1/2,ν)
正4面体群:(1/2,1/3,1/3)
正8面体群:(1/2,1/3,1/4)
正4面体群:(1/3,1/3,1/3) (整数部分の和=奇数)
正8面体群:(1/3,1/4,1/4) (整数部分の和=奇数)
とλ+μ+ν=奇数となる場合です.この表でも,λ,μ,νの順序を変えることによる重複は避けています.
λ+μ+ν=奇数の場合を除いて,福原・大橋の表では分母が2,3,4,の有理数で,これらはシュワルツの正2面体群,正4面体群,正8面体群に対応しています.福原・大橋の表にはシュワルツの表の正20面体群(分母が5)は含まれません.また,1/2を含まない型では,整数部分の和は奇数に限られます.
λ+μ+ν=奇数という条件は,シュワルツの表には含まれていません.すなわち,福原・大橋の表はシュワルツがやり残したλ,μ,νのうちいくつかが整数となる特殊な場合を含んでいることになります.また,シュワルツの表の正4面体群,正8面体群,正20面体群は福原・大橋の表に含まれるので,初等関数で表される場合になります.
結局,代数関数,初等関数,その他で表されるかどうかを見るには,リーマン指標(λ,μ,ν)が,λ+μ+ν=奇数となるか,シュワルツの表の条件を満たす有理数になるかを見れば十分であることがわかります.
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【3】超越関数の例(双曲的三角群)
まず,リーマンスキーム(λ,μ,ν)とガウスの微分方程式(α,β,γ)の対応を与えておきますが,3つの特異点のまわりでの局所的考察から,整数部分を除いた小数点以下の端数部分に関して,
頂点f(0)でλ=|1−γ|,
頂点f(1)でμ=|γ−α−β|,
頂点f(∞)でν=|β−α|
であることがわかります.
したがって,(α,β,γ)=(1/2,1/2,1)のとき,1−1=0=1/∞,1−1/2−1/2=0=1/∞,1/2−1/2=0=1/∞
より
(λ,μ,ν)=(1/∞,1/∞,1/∞) → Γ(2)
(α,β,γ)=(1/12,5/12,1)のとき,1−1=0=1/∞,1−1/12−5/12=1/2,1/12−5/12=−1/3
より
(λ,μ,ν)=(1/∞,1/2,1/3) → PSL(2,Z)
(α,β,γ)=(1/12,5/12,1/2)のとき,1−1/2=1/2,1/2−1/12−5/12=0=1/∞,1/12−5/12=−1/3
より
(λ,μ,ν)=(1/∞,1/2,1/3) → PSL(2,Z)
(α,β,γ)=(1/12,7/12,2/3)のとき,1−2/3=1/3,2/3−1/12−7/12=0=1/∞,1/12−7/12=−1/2
より
(λ,μ,ν)=(1/∞,1/2,1/3) → PSL(2,Z)
これらは双曲的三角群であって,シュワルツの三角群には含まれませんから,
2F1(1/12,5/12;1/2;x)
2F1(1/12,7/12;2/3;x)
などは超越関数となることがわかります.
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【4】楕円モジュラー関数
ここでは重さkの保型形式について説明しておきますが,SL(2,Z)群上,最も単純な(基本的・古典的)保型形式は重さkのアイゼンシュタイン級数
Ek=1/2Σ1/(mz+n)^k
m,nは互いに素,kは整数4,6,8,・・・(4以上の偶数)
です.すなわち,アイゼンシュタイン級数は変換公式
Ek(az+b/cz+d)=(cz+d)^kEk(z)
c,dは互いに素
を満たすというわけです.
k>2はこの級数を収束させるために,kが偶数であることは0にさせないために必要な条件です.そして,保型性の定義から
Ek(z+1)=Ek(z)
Ek(-1/z)=z^kEk(z)
はすぐわかりますが,前者は周期性,後者は双対性と理解することができます.
Ek(z+1)=Ek(z) (周期性)
Ek(-1/z)=z^kEk(z) (双対性)
この保型性の定義は周期性f(x+1)=f(x)を含むので,任意の保型形式はq=exp(2πiz)とするフーリエ展開のもち,
E4(z)=1+240Σσ3(n)q^n
E6(z)=1−504Σσ5(n)q^n
E8(z)=1+480Σσ7(n)q^n
E10(z)=1−264Σσ9(n)q^n
E12(z)=1+65520/691Σσ11(n)q^n
E14(z)=1−24Σσ13(n)q^n
・・・・・・・・・・・・・・・・
σk(n)はnの正の約数のk乗和
ベルヌーイ数を用いると
Ek(z)=1−2k/BkΣσk-1(n)q^n
また,ζ(1-k)=−Bk/kにより
Ek(z)=1−2/ζ(1-k)Σσk-1(n)q^n
とも表されます.これらはすべてのσk(n)を教えてくれる母関数であり,それが保型性を示しているという事実が,モジュラー関数は深淵といわれる所以です.
η(z)をデデキントのイータ関数とすると,重さ12の判別関数
Δ(z)=η(z)^24=qΠ(1-q^n)^24=Στ(n)q^n
=q-24q^2+252q^3-1472q^4+5483q^5+・・・
は重さ4,重さ6のアイゼンシュタイン級数を用いて
Δ(z)=1/1728(E4(z)^3-E6(z)^2)
と表されます.また,ラマヌジャンのτ関数:τ(n)はnに関して乗法的という驚くべき性質をもっています.たとえば,τ(6)=-6048=τ(2)τ(3).
19世紀の後半,デデキントとクラインは独立に重さ0の保型関数
j(az+b/cz+d)=j(z)
を構成しました.j(z)は最も簡単でよく知られているSL(2,Z)不変な保型関数で,q=exp(2πiz)とおくと,
j(z)=E4(z)^3/Δ(z)
=1/q+744+196884q+21493760q^2+864299970q^3+・・・
と展開されます.j(z)は楕円モジュラー関数またはj関数と称されています.
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【5】ヴォルファルトの発見
ω1,ω2を1次独立な基底とする格子を考えます.その商τ=ω1/ω2を基本領域Γに属するようにとると,ある楕円曲線が構成され,判別式Δは重さ12のモジュラー形式となります.また,j(τ)は上半平面におけるΓ不変な重さ0のモジュラー関数となります.
虚2次体の虚数乗法の理論から,あるτに対する楕円モジュラー関数の値j(z)は代数的であることが知られています.逆にいうと,虚2次でない任意の代数的数に対しj(z)は超越数になるというのです.
そして,ヴォルファルトは
(1)Q(i)に属するあるτに対して,z=1−1/j(τ),2F1(1/12,5/12;1/2;z)が代数的点となるτが存在する
(2)Q(√−3)に属するあるτに対して,z=j(τ)/(j(τ)−1),2F1(1/12,5/12;1/2;z)が代数的点となるτが存在する
ことを示し,実際の代数的点
2F1(1/12,5/12;1/2;1323/1331)=3/4・4√11
2F1(1/12,7/12;2/3;64000/64009)=2/3・6√253
を求めています(1985年).
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【6】竹内の数論的(双曲的)三角群
代数的数αに対してz=αでの超幾何関数の値が代数的になる場合,αを超幾何関数の特異モジュールと呼ぶことにします.ガウスの超幾何関数が代数関数となる場合はシュワルツの三角群からわかるのですが,モノドロミー群が有限群の場合,特異モジュールがひとつ存在すると仮定すると,シュワルツの定理より他のすべての代数的数も特異モジュールとなります.
一方,モノドロミー群が数論的(双曲的三角群)となる場合,対応する超幾何関数は超越関数で,ヴォルファルトの仕事から特異モジュールは無限個存在することがわかります.そして,モノドロミー群が数論的群となる場合の(α,β,γ)は竹内が調べた85組ですべてであることがわかっています(1977年).多すぎてここに掲げることはできませんが,竹内のリストは
吉田正章「私説超幾何関数」共立出版
などでみることができます.
また,シュワルツにおいても竹内においても,モノドロミー群が数論的でない無限群の場合は調べられていませんが,その場合,特異モジュールは有限個と予想されています.
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【7】超幾何関数の拡張
F(α,β,γ:x)=1+αβ/γx+1/2!α(α+1)β(β+1)/γ(γ+1)x^2+1/3!α(α+1)(α+2)β(β+1)(β+2)/γ(γ+1)(γ+2)x^3+・・・
の形の超幾何関数はガウスの超幾何関数と呼ばれ,
2F1(α,β;γ:x)
で表されます.
関数の記号に大文字のFを用いている理由は,超幾何微分方程式はフックス型方程式の代表例といってもよいものであって,フックスにちなんでその頭文字Fを採用したためです.
また,2と1はその解であるガウスの超幾何関数の上部パラメータ,下部パラメータの数を表しています.上部パラメータα,βの少なくとも一方の値が負の整数の場合には,ガウスの超幾何関数は有限級数になります.また,上部パラメータ,下部パラメータともに1つの場合が合流型(クンマー型)超幾何関数です.上部パラメータの数p,下部パラメータの数qを変えることによって,一般の場合の超幾何関数pFqに拡張することができます.
また,ガウスの超幾何関数のzの値は,
2F1(α,β;γ:z)=Γ(γ)/Γ(α)Γ(γ−α)∫(0,1)t^(α-1)(1-t)^(γ-α-1)(1-zt)^(-β)dt
という積分表示が知られています.
(1-xt)^(-β)
を2項定理を用いて展開すると
(1-xt)^(-β)=Σ(-β,n)(-xt)^n=Σ[β]/n!(xt)^n
が得られます.これとベータ関数
B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt
を組み合わせることで,この積分表示が示されます.
ここで,
ω(t,z)=t^(α-1)(1−t)^(γ-α-1)(1−zt)^(-β)
とおくと
F(α,β;γ:z)∫(0,1)ω(t,0)dt=∫(0,1)ω(t,z)dt
ただし,∫(0,1)ω(t,0)dtはベータ関数B(α,γ−α)
となり,超幾何関数のzでの値はアーベル積分の商の形で書くことができます.
シュワルツ写像は超幾何微分方程式の2つの線形独立な解の比として定義されましたが,2つの超幾何積分の比としても表されます.この意味でシュワルツ写像は楕円曲線族の周期写像とみなすことができるのですが,この式において積分記号は周期を表していて,z=αが特異モジュールならば対応する周期の商も代数的数になるのです.
被積分関数
ω(t,z)=t^(α-1)(1−t)^(γ-α-1)(1−zt)^(-β)
は超幾何関数の挙動を規定する本質的な関数で,射影直線P^1上に4個の分岐点:0,1,1/x,∞をもつ多価関数となっています.そして,積分の端点(0,1)は4個の分岐点のうち2個を選んだものになっています.
直線上の4点の複比は射影によって不変ですから,これにより,射影直線P^1上の相異なる4点のなす配位空間,すなわち,複比の空間とみなすことができるのですが,シュワルツは4点のなす配位空間の一意化を与えたことになるのです.
ガウスの超幾何関数は1変数関数ですが,多変数にも拡張することができます.そのためにはω(t,z)の形のベキ関数をもっと増やすのですが,アペル・ロリチェラの超幾何関数などがそれにあたります.
多変数の超幾何関数は
吉田正章「私説超幾何関数」共立出版
青本和彦・喜多通武「超幾何関数論」シュプリンガー・フェアラーク東京
などで扱われています.とくに前者では射影直線P^1上のn点(5≦n≦8)のなす配位空間の一意化やさらに射影平面P^2内の6点のなす配位空間の一意化についての結果が丁寧に述べられていて(少なくとも私にとっては)とても興味深く感じられる著作でした.
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[補]q-超幾何関数
q-2項級数は
(az;q)∞/(z;q)∞=Σ(a;q)m/(q;q)m・z^m
ガンマ関数(階乗の一般化),ガウスの超幾何関数(2項級数の一般化)のqアナログも同様に与えることができて,
q-ガンマ関数:Γq(x)=(q;q)∞/(q^x;q)∞(1-q)^(1-x)
q-超幾何関数:2φ1(a,b,c:q,x)=Σ(a;q)m(b;q)n/(c;q)m(q;q)m・x^m
と定義される.
q-超幾何関数はハイネの超幾何関数2φ1とも呼称される.
2φ1(a,b,c:q,x)=1+(1-q^a)(1-q^b)/(1-q)(1-q^c)・x+(1-q^a)(1-q^a+1)(1-q^b)(1-q^b+1)/(1-q)(1-q^2)(1-q^c)(1-q^c+1)・x^2+・・・
q→1のとき,
(1−q^n)/(1−q)→n
となることから
2φ1(a,b,c:q,x)→2F1(a,b,c:x)
ガウスの超幾何関数2F1は超幾何微分方程式
x(1-x)d^2y/dx^2+{γ-(α+β+1)x}dy/dx-αβy=0
を満たすが,ハイネの級数は微分方程式を満たさず,そのかわりにq-超幾何関数2φ1は類似の2階差分方程式をみたす.
a,b,qの特殊な値に対して,ハイネの級数はヤコビのテータ級数を表すことから,ガウスの級数が三角関数に対してもったのと同様の関係式をハイネの級数は楕円関数に対してもつことになる.
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[補]3次曲線のj-不変量
楕円モジュラー関数は楕円曲線の理論に密接に関係しています.射影変換によって互いに写り合う3次曲線は同型とみなされるのですが,そこで,3次曲線のj-不変量が定義されます.
非特異3次曲線のルジャンドルの標準型:
y^2=x(x−1)(x−λ)
のj-不変量は
j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
によって定義されます.λ=−1のときj=1728,λ=−ζ6(1の6乗根)のときj=0となります.
この有理関数jは,1/λ,1−λで生成される位数6の群
{λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ}
のどの値を代入しても不変です.
すなわち,
j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
=j(1−1/λ)=j(1/(1−λ))=j(λ/(1−λ))
ですから,4個の点{0,1,λ,∞}の入れ替えに依存しないinvariantで,最も単純で重要な保型関数と考えられます.
複比を
λ={(λ0−λ2)/(λ1−λ2)}/{(λ0−λ3)/(λ1−λ3)}
によって定義すると,λiの順序を変えるとλの値は変わります.すなわち,{λ0,λ1,λ2,λ3}からつくられる複比の値は,
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
の6つのどれかに移ります.{λ0,λ1,λ2,λ3}の6つの対に対して計算すればこのことは容易に確かめられます.
この順序による曖昧さを消すために,λの6つの分数変換の不変式をとって,
j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
とおくのです.複比は一次分数変換で不変であり,jもまた射影変換で不変です.すなわち,複比
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
のどの値を代入してもjは不変なのです.シュワルツはこのことを6面をもつ2重ピラミッド的(=正2面体群)と表現しています.
なお,
j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
が成り立てば,あとの等式はこの2つから導かれますから,有理関数
(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
が本質的であって,係数2^8には本質的な意味はありません.実際,
(x^2−x+1)^3/x^2(x−1)^2=(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
と,変数xの方程式を考えると,
λ^2(λ−1)^2(x^2−x+1)^3−(λ^2−λ+1)^3x^2(x−1)^2=0
はλ≠0,1より,6次方程式となり,
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
のどれを代入しても成り立ちます.重複が生ずるのは
λ^2−λ+1=0,λ=1/2,λ=−1,λ=2
の場合に限ります.
ワイエルシュトラスの標準形:
y^2=x^3+ax+b (判別式:2^2a^3+3^3b^2≠0)
のj-不変量を計算すると,
j=2^8・3^3b^2/(2^2a^3+3^3b^2)
となります.jー不変量は,2つの楕円曲線が同じjー不変量をもつかどうかなど,3次曲線を分類する(見分ける)ための指標になっているのです.
なお,jは射影変換不変量であるばかりでなく,双有理変換不変量です(サーモンの定理).
[参]ヘッセの標準形
非特異3次曲線は9個の変曲点をもつ.そのひとつを(0,1,0)とし,そこでの接線がz=0となるように射影座標をとると,ワイエルシュトラスの標準形:
y^2z=4x^3−g2xz^2−g3z^3
の形にできる.(τの関数とみなすと,級数g2,g3はそれぞれSL(2,Z)に関する重さ4,重さ6のモジュラー形式となる.)
さらに,9個の変曲点が
(−1,ω^i,0),(−1,0,ω^i),(0,−1,ω^i)
ωは1の虚数立方根,i=0,1,2
となるような射影座標をとると,ヘッセの標準形
x^3+y^3+z^3−3λxyz=0
に正規化することができる.
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