ある曲線に対して,その曲線上の各点より法線方向へ一定の距離にある曲線を「平行曲線」といいます.平行曲線とは鉄道の線路のようなものと考えてもらって差し支えないのですが,ある曲線上を円が転がるとき円の中心の描く軌跡であり,また,初期曲線を波面と考えたときの波面(フロント)の時間発展でもあります.
すなわち,平行曲線の考え方は,幾何光学におけるホイヘンスの原理にすでに認めることができます.ホイヘンスの原理とは,光を波とみなすとき,波面の各点から波が新たに発生すると思って半径一定の球面を描くと,その球面の包絡面が次の波面を決めるという光の進行原理のことです.
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【1】特異点つきの平行曲線
直線の場合,「平行曲線」は平行線であり,円の場合は同心円になります.直線と円は曲率が一定の平面曲線で,曲率一定の平面曲線は直線と円に限られます.
それでは楕円の場合はどうなるでしょうか? 実際に,描いてみることにしましょう.下図は楕円の平行曲線の時間発展です.楕円の場合は4つのカスプをもつ曲線が浮かび上がってきます.
これは単純閉曲線の4頂点定理と関係しています.通常のなめらかな曲線上では曲率円は曲線の2次近似となるのですが,頂点とは曲率円が3階微分以上に過剰に近似されてしまう特別な点のことで,単純閉曲線上には頂点が少なくとも4個存在するというのが4頂点定理です.曲線の曲がり具合を記述する微分幾何学の本では,卵円線の場合の証明がよく紹介されています.
ここでは楕円の内側の特異点を調べてみましたが,楕円の外側であってもサインカーブでも,距離が大きくなるとやがて平行曲線がとんがってしまうところが現れてきます(特異点).
さて今度は,直線と円の平行曲線は平面をもれなく覆いつくし,しかも重複なくただ一回だけ覆うという点に注目してみましょう.しかし,特異点が現れると,平面をただ一回だけ覆いつくすことはできません.ある曲線の平行曲線が平面をただ一回だけ覆いつくすには,曲率一定の直線と円のみがこの性質を満たしているというわけです.
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【2】平行曲線の特異点はその曲線の縮閉線上に現れる
曲線の曲率中心の軌跡を縮閉線(エボリュート)といい,縮閉線に対してもとの曲線を伸開線(インボリュート)といいます.縮閉線の接線は伸開線の法線ですから,これら2曲線の間で測った長さは伸開線の曲率半径になります.
縮閉線は楕円や円の曲がり具合と直接関係していて,たとえば,円の各点から法線を引くと中心点に法線が集中してしまいますし,楕円の場合は4つのカスプをもつ曲線が浮かび上がってきます.
このように,縮閉線は与えられた曲線の曲率中心においてその法線と接するので,縮閉線は与えられた曲線の法線からなる直線族の包絡線(エンベロプ)を求めることにより得られることがわかります.
例をあげると,楕円:
x^2/a^2+y^2/b^2=1
の縮閉線は,4つのカスプをもつ曲線(準アステロイド)
(ax)^(2/3)+(by)^(2/3)=(a^2−b^2)^(2/3)
で,楕円の平行曲線の特異点は,その曲線の縮閉線である準アステロイド上に現れるのです.
ともあれ,アステロイドと楕円とは縮閉線と伸開線という関係にあることがわかりました.アステロイドの式を一般化すると
(x/a)^(2/n)+(y/b)^(2/n)=1
が得られます.この曲線はn=1のとき楕円,n=2のとき菱形,n=3のときアステロイドになります.nを大きくすると次第に細い星型になりますが,尖っているところは正則ではない,すなわち,特異点となります.また,この曲線は,
x=acos^nθ
y=bsin^nθ
とパラメトライズすることができます.
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【3】平行曲面
ある曲線の平行曲線が平面をただ一回だけ覆いつくすには,曲率一定の直線と円のみがこの性質を満たしているのですが,曲線の場合と同様に,空間の曲面に対しても「平行曲線」と同じこと,すなわち空間全体をただ一回もれなく覆う「平行曲面」を考えてみると,平面,球面,直円柱面の3種類しかないことが証明されています(1918年).
平面,球面,直円柱面はどれも平均曲率が一定の曲面です.曲面にはガウス曲率と平均曲率という2つの曲率があって,平均曲率とは,曲面上の点における最大曲率と最小曲率の平均を指します.シャボン玉(同じ体積を囲む曲面のなかで表面積が最小の曲面)は平均曲率が0でない一定の曲面,石けん膜(縁を与えたときそれを張る面積が最小の曲面)は平均曲率が0の曲面(極小曲面)です.
曲線のときとは異なり,平均曲率一定曲面は掃いて捨てるほどあります.にもかかわらず,平均曲率一定曲面のなかで,平行曲面も平均曲率一定曲面であるようなものは平面,球面,直円柱面しかないのです.さらに,高次元超曲面を考えてみても,その平行超曲面は平均曲率一定であるものは,超平面,超球面,超直円柱面しかないこと,つまり3次元空間と同じ結果になることがセグレによって証明されています(1938年).
なお,3次元R^3の特異点つきの曲面,その代表的なものには
(1)カスプ状曲面(cuspidal edge)
(2)ツバメの尾(swallowtail)
があります.また,これらの概念は3次元双曲空間H^3の平坦(すなわちガウス曲率が0)な曲面にも拡張することができます.
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【4】まとめ
微分幾何学の基礎的知識によって,縮閉線の特異点が楕円と円の曲がり具合の違いを記述すること,平行曲線の特異点はその曲線の縮閉線上に現れること,したがって,与えられた曲線の法線の包絡線は特異点の集合としてとらえることができることなどが理解できましたでしょうか? 最後に図を描いたプログラムを掲げておきます.
1000 '
1010 ' **** 楕円の平行曲線 ****
1020 '
1030 SCREEN 3,0:CONSOLE ,,0,1
1040 CLS 3:WIDTH 80,25:COLOR 6
1050 PI=3.14159
1060 '
1070 AAA=3
1080 BBB=2
1090 GOSUB *DRAW.ELLIPSE
1100 END
1110 '
1120 ' *** 描画 ***
1130 '
1140 *DRAW.ELLIPSE:
1150 CCC=AAA+BBB
1160 XO=0:XL=CCC
1170 YO=0:YL=CCC
1180 SX1=120:SY1=0
1190 SX2=519:SY2=399
1200 WXO=-XL:WXL=XL
1210 WYO=-YL:WYL=YL
1220 WINDOW(WXO,-WYL)-(WXL,-WYO)
1230 VIEW(SX1,SY1)-(SX2,SY2)
1240 '
1250 DRAW.COLOR=4:GOSUB *ELLIPSE
1260 DRAW.COLOR=5:GOSUB *PARALLEL
1270 DRAW.COLOR=6:GOSUB *ASTEROID
1280 '
1290 WINDOW(0,0)-(639,399)
1300 VIEW(0,0)-(639,399)
1310 RETURN
1320 '
1330 ' *** 初期楕円 ***
1340 '
1350 *ELLIPSE:
1360 G=0
1370 FOR ANGLE=0 TO 2*PI+.01 STEP PI/180
1380 GX=AAA*COS(ANGLE)
1390 GY=BBB*SIN(ANGLE)
1400 IF G=0 THEN PSET(GX,-GY),DRAW.COLOR:G=1
1410 LINE-(GX,-GY),DRAW.COLOR
1420 NEXT ANGLE
1430 RETURN
1440 '
1450 ' *** 平行曲線 ***
1460 '
1470 *PARALLEL:
1480 U=.5
1490 FOR D=U TO CCC STEP U
1500 G=0
1510 FOR ANGLE=0 TO 2*PI+.01 STEP PI/180
1520 C=SQR(AAA*AAA*SIN(ANGLE)*SIN(ANGLE)+BBB*BBB*COS(ANGLE)*COS(ANGLE))
1530 GX=AAA*COS(ANGLE)-D/C*BBB*COS(ANGLE)
1540 GY=BBB*SIN(ANGLE)-D/C*AAA*SIN(ANGLE)
1550 IF G=0 THEN PSET(GX,-GY),DRAW.COLOR:G=1
1560 LINE-(GX,-GY),DRAW.COLOR
1570 NEXT ANGLE
1580 NEXT D
1590 RETURN
1600 '
1610 ' *** アステロイド ***
1620 '
1630 *ASTEROID:
1640 G=0
1650 FOR ANGLE=0 TO 2*PI+.01 STEP PI/180
1660 C=AAA*AAA-BBB*BBB
1670 GX=C/AAA*COS(ANGLE)*COS(ANGLE)*COS(ANGLE)
1680 GY=C/BBB*SIN(ANGLE)*SIN(ANGLE)*SIN(ANGLE)
1690 IF G=0 THEN PSET(GX,-GY),DRAW.COLOR:G=1
1700 LINE-(GX,-GY),DRAW.COLOR
1710 NEXT ANGLE
1720 RETURN
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