■トーラス面上の地図の彩色

 オイラーの公式は単純ですが,要はその使い方というわけで,たとえば,多面体には3角形か4角形面か5角形面が少なくとも1つなければならないことはもっと簡単に証明できます.

 どの領域も少なくとも6つの領域で囲まれていると仮定すると

  6f≦2e

また,このような問題を解くにあたっては,すべての交点で3本の境界線が会している地図だけを考えればよいので,

  3v≦2e

 これらをオイラーの公式に代入すると

  v−e+f≦1/3e−e+2/3e=0≠2

となって矛盾を生じます.したがって,5個以下の隣接領域しかもたない領域が少なくともひとつあることになります.

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【1】トーラス面上の地図の彩色

 平面や球面上に描かれた地図に関するオイラーの公式は

  v−e+f=2

でしたが,トーラス上の地図に関するオイラーの公式は

  v−e+f=0

です.

 トーラスでは6個以下の隣接領域しかもたない領域が少なくともひとつあることを証明するために,どの領域も少なくとも7つの領域で囲まれていると仮定すると

  7f≦2e

また,3v≦2eですから

  v−e+f≦2/7e−e+2/3e=−1/21e≠0

という矛盾を引き出すことができます.

 したがって,トーラスでは6個以下の隣接領域しかもたない領域が少なくともひとつあることになります.このことを利用すると,

  「トーラス上のどんな地図でも7色で塗り分けられる」

ことが証明されます.ヒーウッドは実際に7色を必要とする例もあげています.

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【2】ヒーウッドの公式

 これを証明したヒーウッドはさらにg個の穴があいたトーラス上の地図に関するオイラーの公式

  v−e+f=2−2g

を利用して

(1)2個の穴があいているトーラス上の地図はどれも8色で塗り分けられる

(2)3個の穴があいているトーラス上の地図はどれも9色で塗り分けられる

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(3)10個の穴があいているトーラス上の地図はどれも14色で塗り分けられる

に引き続いて,

(4)g個の穴があいているトーラス上の地図はどれもH(g)色で塗り分けられる

  H(g)=[{7+√(1+48g)}/2]

を証明しました.

 [・]はガウス記号で,

  g:1,2,3, 4, 5, 6, 7, 8, 9,10

  H:7,8,9,10,11,12,12,13,13,14

となるのですが,しかし,ヒーウッドはg≧2に対してそのような地図が実在することを示すことはできませんでした.そのため,この問題は「ヒーウッド予想」と呼ばれることになりました.

 1968年,リンゲルとヤングスは,g個の穴のあいているトーラス上にこれだけの色を必要とする地図が存在することを証明したのですが,ヒーウッド予想(1890年)が最終的に証明されるまでには77年もの歳月が必要だったというわけです.

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【3】ヒーウッドの公式(その2)

 ここでのテーマは,種数gの閉曲面上の地図の彩色数に関するヒーウッドの公式(必要条件)の導出です.

 ヒーウッドの公式

  H(g)=[{7+√(1+48g)}/2]  [・]は切り捨て関数

は√gのオーダーになっていて,2次不等式

  x^2−7x+12(1−g)≧0

の解となっていることが見てとれます.皮肉なことにg=0を代入するとx≧4になりますが,これはもちろん「四色問題の解」ではありません.

 ヒーウッドの公式はたいていの2次閉曲面について正しい彩色数を与えますが,クラインの瓶(g=0,向き付け不能)だけは6色必要であるという例外です.本来のトーラス(g=0)も隣接する領域が6個ある場合が例外で,それがなければ6色で彩色可能といった事実が知られているそうです.なお,十分性のリンゲルとヤングスの研究は単行本になって出版されておりますが,非常に多くの場合分けしてひとつひとつ調べるという手法だそうです.

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 なお,

  H(g)=[{7+√(1+48g)}/2]

  H(χ)=[{7+√(49−24χ)}/2]

と同値です.

 面上の多角形分割で,面数F,頂点数V,辺数Eとするとき,オイラー標数

  χ=F+V−E

の閉曲面(向きづけられるか否かは不問)上の地図は,辺で境される国を別の色で塗るという条件下において,ヒーウッドの数

  H(χ)=[{7+√(49−24χ)}/2]  ([・]は切り捨て)

色あれば塗り分けられる(十分条件).

[注1]この公式は本来χ<0の場合にのみ有効である.ただし結果的にχ=1(射影平面)とχ=0で向きづけられる曲面(輪環面)では必要十分な正しい値(それぞれ6と7)を与える.χ=2(球面)のときには4を与えるが,これは「偶然の一致」であって四色問題の解ではない(∵上の公式を導くときχ<0という条件を本質的に使っている).

[注2]これは十分条件であって,必要条件(どうしてもそれだけの色がいる)ではない.結果的にはχ=0で向きづけられない曲面(クラインの瓶)以外の曲面ではすべて正しく必要十分な色数を与えている.クラインの瓶は唯一の例外で公式の値は7だが,実は6色で必要十分である.必要性は部分的(χの特別な値の例)には19世紀末から知られていたが,最終的にはヤングスとリンゲルとが共同研究して1968年に完全に証明された.

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【4】まとめ

 彩色数はオイラー標数とは別の,表面の不変量である.

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