■基本対称式におけるニュートンの定理(その3)
たとえば,算術平均・幾何平均の不等式
(a^3+b^3+c^3)/3≧abc
の左辺も右辺も
(a^xb^yc^z+a^xb^zc^y+a^yb^zc^x+a^yb^xc^z+a^zb^xc^y+a^zb^yc^x)/6
の特別な場合になっていることに気づかされるであろう.そこで,・・・
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【1】ムーアヘッド平均(算術平均と幾何平均の一般化)
x≧y≧z≧0として(x,y,z)を指標と呼ぶことにするが,左辺は指標(x,y,z)=(3,0,0),右辺は指標(x,y,z)=(1,1,1)である.また,いずれにおいてもx+y+z=3という条件が満たされている.
不等式
(a^3+b^3+c^3)/3≧abc
を
M(3,0,0)≧M(1,1,1)
と書くことにするが,M(x,y,z)をムーアヘッド平均と呼ぶことにする.ムーアヘッド平均は算術平均と幾何平均の一般化である.
次に
M(2,1,0)=(a^2b+a^2c+ac^2+ab^2+b^2c+bc^2)/6
について考えてみるが,実は
M(3,0,0)≧M(2,1,0)≧M(1,1,1)
が成立する.そして,このことから
M(3,0,0)≧M(1,1,1)
よりも
M(3,0,0)≧M(2,1,0),
M(2,1,0)≧M(1,1,1)
の方が本質的な性質であることがわかる.
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さらに
M(x,y,z)≧M(u,v,w)
が成り立つための必要十分条件は,指標
(x,y,z)>(u,v,w)
が成り立つことである(ム−アヘッドの定理).
指標(x,y,z)>(u,v,w)の意味については次節で説明することにするが,ムーアヘッド平均に関する不等式は,算術平均・幾何平均の不等式の一般化であり,対応する指標に関する不等式に帰着されるのである.(ム−アヘッドの定理の条件の必要性の証明はわかるが,十分性の証明は込み入っている).
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【2】分割とムーアヘッドの定理
非負整数の非増加列,すなわち,
λ=(λ1,λ2,・・・,λn)
λ1≧λ2≧・・・≧λn>0
なる整数列を分割(partition)という.
ここでは
λ1≧λ2≧・・・≧λn≧0,n=3
の場合を扱うことになるので注意してほしい.(≧−1とすることができれば調和平均も扱えるのだが,・・・)
分割はλ=(λ1,λ2,・・・,λn)でパラメトライズされるわけであるが,分割λに対して
|λ|=Σλi
を分割λのサイズ,λiが零でないiの総数をl(λ)と書いて分割λの長さという.前節の例でいえばx+y+z=3が分割のサイズである.
変数の数が3の場合,サイズ1の分割の集合は
S1={(1,0,0)}
サイズ2の分割の集合は
S2={(2,0,0),(1,1,0)}
サイズ3の分割の集合は
S3={(3,0,0),(2,1,0),(1,1,1)}
である.
分割の集合を求めるのは難しいことではなく,たとえば,変数の数が3の場合,サイズ6の分割の集合は
S6={(6,0,0),(5,1,0),(4,2,0),(4,1,1),(3,3,0),(3,2,1),(2,2,2)}
サイズ7の分割の集合は
S7={(7,0,0),(6,1,0),(5,2,0),(5,1,1),(4,3,0),(4,2,1),(3,3,1),(3,2,2)}
サイズ8の分割の集合は
S8={(8,0,0),(7,1,0),(6,2,0),(6,1,1),(5,3,0),(5,2,1),(4,4,0),(4,3,1),(4,2,2),(3,3,2)}
となる.
次に,分割の集合に自然な順序を定義したい.λ≧μとは
|λ|=|μ|
かつすべてのiに対して
λ1+・・・+λi≧μ1+・・・+μi
が成り立つこととする(i=1〜n).
すると
(2)>(1^2)
(3)>(21)>(1^3)
(4)>(31)>(2^2)>(21^2)>(1^4)
(5)>(41)>(32)>(31^2)>(2^21)>(21^3)>(1^5)
(6)>(51)>(42)>(41^2)>(321)>(31^3)>(2^21^2)>(21^4)>(1^6)
>(3^2)> >(2^3)>
となって|λ|≦5の場合には全順序(辞書式順序)であるが,|λ|≧6の場合は半順序となることが理解される.(λ1≧λ2≧・・・≧λn≧0として,(λ1,λ2,・・・,λn)のことを(λ1λ2・・・λn),(1111)のことを(1^4)と表している.)
3変数の場合に限ると,
(2)>(1^2)
(3)>(21)>(1^3)
(4)>(31)>(2^2)>(21^2)
(5)>(41)>(32)>(31^2)>(2^21)
(6)>(51)>(42)>(41^2)>(321)>(2^3)
>(3^2)>
となって,指標(4,1,1)と(3,3,0)の間には大小関係がないということになる.
3変数6次多項式
a^4bc+abc^4+ab^4c
と
a^3b^3+a^3c^3+b^3c^3
については大小関係が成立しないものが存在するのである.
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