a^n−1=(a−1)(a^(n-1)+a^(n-2)+・・・+1)
という形の数は,少なくともa=2でnが素数でない限り素数にはならない.この形の素数をメルセンヌ素数という.
[補]メルセンヌ数の素因数
qがメルセンヌ数Mp=2^p−1の素因数であるならば,qは2kp+1の形の整数である.
a^n+1=(a+1)(a^(n-1)−a^(n-2)+・・・+1)
が素数になるのもaが素数でnは2の累乗の場合に限られている.すなわち,aが2の場合にこの形の素数候補はファルマー数:Fn=2^(2^n)+1だけとなる.
Mathematicaにおける素数判定のインプリメントの仕方は以下の通りである.「PrimeQは最初に小さい素数を使用して除算可能かを試し,次にミラー・ラビン(Miller‐Rabin)強擬似素数テストベース2およびベース3を使用し,次にルーカス(Lucas)テストを試みる.」これで相当大きな数も素数か否か判定してくれる.
しかし,素数かどうかの判定と合成数の素因数分解はまったく別の問題である.コンピュータを使えば素数かどうかの判定はかなり簡単にできるのに対し,因数分解をするのは依然として難しい問題なのである.
以前,フェルマー数について計算してみたのだが,オイラーが発見した2^32+1の素因数を探索するために,
64*k+1が素数か否か→素数ならば2^32+1の素因数の可能性あり
という手順に従って計算すると,k=10で素因数が見つかる.これは手計算でも簡単にできた.
その次は2^64+1の素因数になるのだが,オイラーが1732年にやったのと同じ戦略
128*k+1が素数か否か→素数ならば2^64+1の素因数の可能性あり
をとってみたが,この場合はk=2142にならないと素因数が見つからない.したがって手計算でやったとは思えないのだが,さりとて,1880年のことだからコンピュータでやった計算でもないようだ.では,どうやって2^64+1の素因数を発見したのだろうか?
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【1】オイラーとフェルマー素数
Fn=2^(2^n)+1
の形の素数をフェルマー素数といいます.F0=3,F1=5,F2=17,F3=257,F4=65537257は素数であることがわかります.
3,5,17が素数であることは明らかですが,たとえば,257については√257=16.03・・・ですから,これより小さい素数2,3,5,7,13が257を割らないことを確かめればよいことになりますし,65537257については,√65537257=256.0・・・ですから,今度は2,3,5,・・・,233,239,241,251と55個の素数で65537257を割らないことを確かめます.
フェルマーはこの型の数がすべて素数だと勘違いしていて必ず素数を与える式として考え出されたのですが,n=5であっけなく破綻してしまいました.
F5=2^(2^5)+1=4294967297=641×6700417
この間違いを発見したのはフェルマーから約100年後のオイラーです.彼は約数641をあてずっぽうでみつけたのでも,2,3,5,7,・・・と割っていって執念で見つけたのでもありません.オイラーはFnが合成数であるならば,それはあるkに対してk2^(n+2)+1であることを知っていて,F5の中の因数641=5・2^7+1を見つけたのです(1732年).
オイラーの方法を振り返ってみることにしましょう.ここで,
p|a^(2^n)+1 (p≠2の素数)
ならば
2^(n+1)|p−1
となることを証明なしに与えておきます(→証明せよ).
このことを認めると
p|F5ならば2^6|p−1
すなわち,p=1+k・2^6の形でなければならないことがわかります.kに1〜10まで入れると
k 1+k・2^6 素数
1 65 ×
2 129 ×
3 193 ○
4 257 ○
5 321 ×
6 385 ×
7 449 ○
8 513 ×
9 577 ○
10 641 ○
ここで得られた素数193,257,449,577,641の中から,F5=4294967297を割るものを探すと641が最初のものであることがわかります.このことから
F5=4294967297=641×6700417
と分解されF5が素数でないことが証明されます(1732年).
ついでながら,6700417が素数であることは次のようにしてわかります.
p|6700417 → p|F5 → p=1(mod64)
したがって,p=1(mod64)なる素数で,√6700417=2588.5・・・より小さいものが,どれも6700417を割らないことをみればよいことになります.このような素数は193,257,・・・,1601,2113の11個あります.
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【2】ランドリーとフェルマー素数
1880年,ランドリーは(82才という高齢にもかかわらず)
F6=274177×67280421310721
となることを示しました.
オイラーの場合と同様に,kに1〜20まで入れると
k 1+k・2^7 素数
1 129 ×
2 257 ○
3 385 ×
4 513 ×
5 641 ○
6 769 ○
7 897 ×
8 1025 ×
9 1153 ○
10 1281 ×
11 1409 ○
12 1537 ×
13 1665 ×
14 1793 ×
15 1921 ×
16 2049 ×
17 2177 ×
18 2305 ×
19 2433 ×
20 2561 ×
となります.
素数の割合は次第に小さくなりますが,
274177=2142・2^7+1 (k=2142)
までこのような作業を続けることは容易ではありませんし,素因数274177が決して直観でわかるものではないことも理解されます.
逆に
p|67280421310721 → p|F6 → p=1(mod128)
より,p=1(mod128)なる素数で,√67280421310721より小さいものが,どれも67280421310721を割らないことをみてもよいのでしょうが,このような戦略をとったところで意味のないものになってしまうのがオチでしょう.
ランドリーがオイラーの1732年にやった方法を踏襲したとはとても思えないのですが,どうやってやったのかまったく予想がつきません.それで,ランドリーがとった戦略がいかなるものか調べてみたのですが,1880年に素因数が判明と記載されているだけで方法までは載っておらず,結局,わからずじまいでした.これについてご存知の方はぜひ教えて下さい.
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1975年にはブリルハートとモリソンがフェルマー数
F7=59649589127497217×5704689200685129054721,
1981年に,ブレントとポラードが
F8=1238926361552897×93461639715357977769163558199606896584051237541638188580280321
を分解してみせました.
F19までのフェルマー数の素因数を以下に掲げておきますが,おそらくこれらは力任せのコンピュータ計算ではなく,冒頭の部分は数学的な考察が必要であり,最後の部分にある程度のコンピュータ計算を利用して得られたものに違いないでしょう.
F5:641
F6:274177
F7:59649589127497217
F8:1238926361552897
F9:2424833
F10:45592577
F11:319486
F12:114689
F13:2710954639361
F15:1214251009
F16:825753601
F17:31065037602817
F18:13631489
F19:70525124509
もちろんこういう分解が発見される以前でもF9,F10,F11,・・・,F32が合成数であることは知られていました.現在,合成数かどうかが分からない最小のフェルマー数はF33ということです.
いまのところ,フェルマー数
Fn=2^(2^n)+1
では,n=0,1,2,3,4の5個以外にフェルマー素数はみつかっていません.フェルマー数(2^(2^n)+1)に対してはメルセンヌ数におけるリュカテストと同じくらい能率的なペパンの素数判定法
Fnが素数 ←→ 3^{(Fn-1)/2}=−1(modFn)
があり,コンピュータを使って6番目のフェルマー素数の探索が続けられているのですが,はたして本当に存在するのでしょうか.
Fnのなかに素数が無限にあるか,または,合成数が無限にあるかということについては何もわかっていないのです.なお,リュカやペパンの素数判定法によってある数が合成数とわかってもそれを素因数分解するのはとても大変な作業になります.現在,巨大な整数の素因数分解に楕円曲線法とか平方ふるい法とか能率のよい素因数分解法が考え出されています.
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【3】ガウスとフェルマー素数
定規とコンパスだけで正3角形,正4角形,正6角形,正8角形が作図できることは簡単にわかりますが,辺の数5,7,9の場合はどうでしょうか.正5角形は古代ギリシャにおいて作図可能であることが発見されました.となれば,次に正7角形・正9角形の作図は?と考えるのは自然な成り行きでしょう.
ところが,かのアルキメデスでさえも正7角形・正9角形の作図に成功しなかったといわれています.また,内接正多角形の作図は画家であり建築家であるレオナルド・ダ・ヴィンチの関心を惹きました.しかし,彼でさえ近似的な内接正七角形の作図を正確なものと思っていたようです.
辺数3,4,5,6,8,10,12,15,16の正多角形は作図できますが,辺数7,9,11,13,14の正多角形は作図できないことから,正17角形もそうであろうと推察されます.ところが,1796年,ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いつき,のみならず,nが素数の正n角形について,n=2^(2^m)+1が素数の場合に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見しています.
正7角形も正9角形も作図できないのに,まさか正17角形が作図できるとはと思うのが普通なのでしょうが,このことを用いると,m=0のとき正3角形,m=1のとき正5角形,m=2のとき正17角形となり,作図可能であることがわかります.当然,ずっと面倒になるでしょうが,正257角形(m=3),正65537角形(m=4)も作図可能です.
定規とコンパスだけでζnが作図可能となるための必要十分条件は,体の列
Q=K0<K1<K2・・・<Kn=Q(α)
においてKiがKi-1の2次拡大[Ki:Ki-1]=2となる,すなわち,複素数αに対して
[Q(α):Q]=2^n
となるものが存在することなのですが,α=ζ5,ζ17はこの条件を満たす,一方,α=ζ7では[Q(ζ7):Q]=6より満たしていないということを考察することによって得られました.
さらに
n−1|2^kより,n=1+2^k
ここで,kが奇数因数を含めばnは素数ではなくなりますから,結局
n=2^(2^m)+1
の形でなければなりません.作図可能となるn=2^(2^m)+1の形の素数をフェルマー素数といいます.フェルマー素数はガウスによって1世紀にわたる眠りから覚まされ,数論と幾何学に新たな美しさを吹き込んだことになります.
フェルマーはこの型の数がすべて素数だと勘違いしていて必ず素数を与える式として考え出されたのですが,m=5のときは素数ではなく,現在,m=0,1,2,3,4の5個以外にフェルマー素数はみつかっていません.6番目のフェルマー素数の探索がコンピュータを使ってなされていますが,はたして本当に存在するのでしょうか.
アルキメデスは円柱とそれに内接する球の体積比が3:2であることを発見した記念に,自分の墓の上に円柱の形をした記念碑をおくように遺言したといわれています.アルキメデスと同じように,ガウスは正17角形を墓石に彫るよう遺言しています.このことはガウス自身がその発見をいかに重視したかを物語っています.
数々の大発見をしたガウスですが,19才の青年がアルキメデスをもってしてもできなかった古代ギリシア以来2000年の謎を解いたのですから,まさに驚きとしかいいようがありません.この正17角形の作図は彼を本格的に数学の道に入らせるきっかけとなったといわれています.
なお,4次曲線:レムニスケートには円に共通する性質があり,定規とコンパスだけで奇数のn等分することができる必要十分条件はnがフェルマー素数(n=2^(2^m)+1の形の素数:3,5,17,257,65537)であることです.
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[補]フェルマー数
フェルマー数(2^(2^n)+1)は簡単な漸化式
Fn=(Fn-1−1)^2+1
を満たしています.Fn-1^2はほぼFnと等しくなるというわけです.
また,この式から
Fn−2=Fn-1(Fn-1−1)=・・・=F0F1・・・Fn-1
言い換えれば,Fn−2はそれより小さいすべてのフェルマー数で割り切れることがわかります.
したがって,(Fn,Fi)=1がすべてのi(0≦i≦n−1)にについて成り立ちます.このことは任意にi≠jをとったとき,(Fi,Fj)=1と意味するのですが,このことから数列{Fn}を用いて,素数が無限にあることを示すことができます.
(証明)
すべてのFiの素因数を1つずつとりpiと呼べばpはすべて異なるから,素数は無限にあることがわかる.
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