■飽和炭化水素の構造異性体数(その5)

 (その3)炭素数12の飽和炭化水素C12H26の構造異性体数は357と記した.

  位数  :1,2,3,4,5,6,7, 8, 9,10, 11, 12, 13,・・・,k,・・・

  異性体数:1,1,1,2,3,5,9,18,35,75,159,357,799,・・・,f(k),・・・

 一方,炭素数12の飽和炭化水素C12H26の異性体の理論的な数は355と記している文献もある,そこで,

  [参]細矢治夫「トポロジカル・インデックス」日本評論社

で,調べた値を書くと

  位数  :1,2,3,4,5,6,7, 8, 9,10, 11, 12, 13,・・・,k,・・・

  異性体数:1,1,1,2,3,5,9,18,35,75,159,355,802,・・・,f(k),・・・

とあり,炭素数12以降に食い違いがみられる.どうなっているのだろうか?

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[1]この異性体の数え上げ問題は,ひとつの点からでる線の数(次数)が4以下に限られるため,純粋なグラフの数え上げ問題と若干異なっているため

[2]1857年,ケーリーは知り合いの化学者からの依頼でCkH2k+2の構造異性体の数を数えようとしていたときに多くの「木グラフ」の性質を発見した.木の性質のひとつとして,木の頂点数をv,辺数をeとすると

  v=e+1

が成り立つが,これはオイラーの定理:v−e+f=1においてf=0としたものである.すなわち,連結でありかつ閉路を含まないという必要十分条件を満たしていて,飽和炭化水素の場合,v=3k+2であるからe=3k+1で与えられるという意味にほかならない.

 位数kに対して同等でない木はいくつあるのか?・・・これがケーリーの考えた問題であり,同等でない木の総数を与える公式(ケーリーの公式)が知られている.ケーリーの公式とは「位数kの完全グラフのすべての異なる全域木の総数はk^(k-2)で与えられる」というものである.

[3]数学者ケーリーによって一応の解決をみたが,グラフの正確で実用的な数え上げに関しては,数学者ポリアが化学者から高分子の異性体がいくつあるかを求めることを依頼されて,有名なポリアの数え上げ理論を発見している.

 ポリアは,1937年に環指数や数え上げ多項式という武器を使った置換群の議論によって,飽和炭化水素やその誘導体の異性体の数え上げ問題を解いた.最終的な解決はポリアによってなされたのであるが,それによればC12H26の異性体の理論的な数は355もあるという.

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[補]ハイオクガソリン

 ヘプタンには9種類,オクタンには18種類の異性体がある.ガソリンの燃焼効率の目安となるオクタン価はイソオクタンを100,ノルマルヘプタンを0をする基準で決められている.直鎖構造をもつノルマルヘプタンはノッキングと呼ばれる異常燃焼を引き起こすが,それに対してイソオクタンは非常に燃焼効率がよい.

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