■計算可能な多胞体(その6)

 3次元準正多面体については古くから知られていたが,4次元以上の準正多胞体については,19世紀中頃,シュレーフリが一部言及したことに始まる.その後,コクセターが詳しく研究したが,5次元以上の準正多胞体についてはコクセターの研究のごく一部に理論的な記述がみられるものの,具体的な研究はこれまで皆無に近かった.

 特殊なクラスについては,ミンコフスキーが原始的平行多面体として取り上げた2(2^n−1)胞体などがあるが,私の知る限り,

  石井源久「多次元半正多胞体のソリッドモデリングに関する研究」

  Motonaga Ishii: On a Generel Method to Calculate Vertices of N-Dimensional Product-Regulat Polytopes, Forma 14,.221-237,1999

が具体的で本格的な図形研究の最初のものであろう.

 これまで体積公式や面数公式が知られている高次元多面体は,

  正単体αn,正軸体βn,超立方体γn,超球Bn

それに標準単体Δn,角錐Pyrnを加えても少数にすぎない.他に体積やk次元面数(k=0〜n−1)の計算が可能な高次元準多面体はないのだろうか?

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【1】高次元準正多面体の種類と重要な3つのクラス

 3次元正多面体は5種類あり,正四面体は自己双対である.3次元準正多面体は13種類あり,製作法から

  切頂型・・・7種類

  切頂切稜型・・・4種類

  ねじれ型・・・2種類

と分類される.ねじれ型は特殊型であって,これの高次元対応物がいくつあるかはわかっていない.そのため,今後は切頂型・切頂切稜型準正多胞体のみ扱うことにする.

 4次元正多胞体は6種類あり,正5胞体,正24胞体は自己双対である.5次元以上の正多胞体は3種類あり,正n+1胞体は自己双対である.非自己双対の場合,切頂型・切頂切稜型準正多胞体は

  2^n−1

自己双対の場合,切頂型・切頂切稜型準正多胞体は

  2^(n-1)+2^[(n-1)/2]−1

種類ある.

 3次元のねじれ立方体とねじれ12面体に相当する特殊型は取り扱わないことにするが,重複するものを除くことによって,下表が得られる.

次元  正多胞体  準正多胞体

3      5     11(重複3を除く:7×2+5−5−3)

4      6     39(重複3を除く:15×2+9×2−6−3)

5      3     47

6      3     95

n(≧5)  3     2^n+2^(n-1)+2^[(n-1)/2]−5

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 上の表は石井源久先生によって得られたものである.しかし,これらが一律に重要というわけではなく,この中から重要な3つのクラスを取り上げることができる.

 第1のクラスは,ミンコフスキーが原始的平行多面体として取り上げた2(2^n−1)胞体である.とくに,primitive,principal,maximalの条件を備えたものは置換多面体(permutahedron)と同値であって,多面体的組み合わせ論の重要な研究対象となってきた.にも関わらず,その面数公式は先人達の挑戦を退けてきた難題となっている.

 さらに,これまで知られていなかった2つの重要なクラス,ひとつは置換多面体の正軸体版とみなすことができる3^n−1胞体,もうひとつには平行多面体と同じく空間充填性をもつ2^n+2n胞体を構成し,その面数公式・体積公式について考えてみる.

 とくに,n=3のとき,空間充填2(2^n−1)胞体と空間充填2^n+2n胞体は同形(切頂八面体)になることを注意しておく.切頂八面体はすべての次元を通じて唯一,空間充填2(2^n−1)胞体かつ空間充填2^n+2n胞体という性質をもつ多面体である.このことは3次元平行多面体の元素数が1であることと密接に関係している.

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【2】3つのクラスの構成法と重要な性質

 まず,準多面体構成法を考えると

  正単体切頂型(2(n+1)胞体)

  正軸体切頂型(2^n+2n胞体)

  正単体切頂切稜型(2(2^n−1)胞体)

  正軸体切頂切稜型(3^n−1胞体)

の4クラスの分類にされるが,このうち,正単体切頂型はあまり重要な性質を持ち合わせおらず,残りの3つが重要となることがおわかりいただけるであろう.

            単独空間充填多面体  単純ゾノトープ

  正単体切頂型        ×         ×

  正軸体切頂型        ○         ×

  正単体切頂切稜型      ○         ○

  正軸体切頂切稜型      ×         ○

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【3】2^n+2n胞体

[1]体積公式

 立方体は単独で空間全体を格子状に埋めつくすことができる.単純立方格子状配置,すなわち角砂糖の箱の封を切ったときに見えるパターンについて,角砂糖の各頂点まわりを正八面体状に少しずつ切断し,削ってできた空間は常に多面体で充填することを考える.

 すなわち,2種類の多面体による空間充填を常に保ったまま相互遷移させると,中間値の定理(のアナログ)により2種類の多面体が同形となる値が存在する.そのとき,この図形は単一空間充填図形となる.

 計算は後述するが,空間充填2^n+2n面体は

[1]n次元立方体[0,2]^nを超平面:x1+・・・+xn=n/2で切頂する

あるいは

[2]n次元正軸体を超平面:x1=2/nで切頂する

ことによって得られる.x=2/nで正軸体βnを切頂すると,n次元切頂八面体βn(x)を構成することができる.

 2次元では正方形,3次元では切頂八面体,4次元では正24胞体となる.このようにβn(x)は空間充填2^n+2n面体であり,その体積は,n次元切頂八面体の切頂面間距離が4/nであることから,

  volβn(x)=(4/n)^n/2

また,1象限分の体積は

  volΔn(x)=(2/n)^n/2

になる.

 3次元では切頂八面体の体積はそれに外接する立方体の半分であることはよく知られている.この性質は任意の次元についても成り立つのである.

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[証]点Q(x1,・・・xn)と基本単体のすべてのファセットまでの距離が等しいとき,

  (x1−x2)/√2=(x2−x3)/√2=・・・=(xn-1−xn)/√2=xn

が成り立つ.

 空間充填2^n+2n胞体に関する定理

[定理1]超立方体[0,2]^nの基本単体の最長辺の中点を通る直交超平面

  x1+x2+・・・+xn=n/2

は基本単体を合同2分割する.なお,この超平面はnが偶数のときPn/2を通る.この定理は重要で,この2^n+2n胞体がn次元の体心立方格子に対応する空間充填図形であることを示している.

[定理2]超平面

  x1+x2+・・・+xn=n/2

は正軸体[0,n/2]^nに対応する.その切頂面はxi=1である.したがって,正軸体[0,1]^nに対応する切頂面は.xi=2/nとなる.

[定理3]正軸体[0,1]^nの頂点を一斉に2n個

  |xi|=2/n

で切り落として残る図形は空間充填図形となる.この超平面はnが偶数のときPn/2-1を通る.

の別証明をを与えておく.

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 nが奇数のとき

[1](x1−x2)/√2=・・・=(x(n-3)/2−x(n-1)/2)/√2=0より,

  x1=x2=・・・=x(n-1)/2=α

[2](x(n+3)/2−x(n+5)/2)/√2=・・・=xn=0より,

  x(n+31/2=・・・=xn=0

[3](x(n-1)/2−x(n+1)/2)/√2=(x(n+1)/2−x(n+3)/2)/√2より,

  x(n-1)/2=α/2

[4]x1+x2+・・・+xn=1より,

  (n−1)/2・α+α/2=n/2・α=1 → x1=2/n

 nが偶数のとき

[1](x1−x2)/√2=・・・=(xn/2-1−xn/2)/√2=0より,

  x1=x2=・・・=xn/2=α

[2](xn/2+1−xn/2+2)/√2=・・・=xn=0より,

  xn/2+1=・・・=xn=0

[3]x1+x2+・・・+xn=1より,

  n/2・α=1 → x1=2/n

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[2]面数公式

 正軸体の切頂面となる(n−1)次元面の頂点は,前節の計算より,x=2/nとして

[1]n=3のとき,

  (x,x/2,0)

[2]n=4のとき,

  (x,x,0,0)

[3]n=5のとき,

  (x,x,x/2,0,0)

[4]n=6のとき,

  (x,x,x,0,0,0)

となる.

 nのパリティー(奇数か偶数か)によって違いを生ずるため,nが偶数か奇数かのケースにわける必要がある.

 また,この多面体はf1=n/2・f0も成り立たないから単純多面体ではないし,置換多面体にみられるような再帰的構造も有していない.そのため,その形を構成するにはかなりの洞察力がいるが,頂点図形(star)を描くことによって,6次元までは構成可能であった.

2次元:(f0,f1)=(4,4)   (正方形)

3次元:(f0,f1,f2)=(24,3,14)   (切頂八面体)

4次元:(f0,f1,f2,f3)=(24,96,96,24)   (正24胞体)

5次元:(f0,f1,f2,f3,f4)=(240,720,720,280,42)

6次元:(f0,f1,f2,f3,f4,f5)=(160,1440,2880,2160,636,76)

この計算は,のちにコンピュータによる数え上げによって再確認された.

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 n次元の立方体(頂点数2^n)の頂点を超平面で切り落として残る空間充填図形(2^n+2n胞体)の面数公式fkは(f0,f1公式を除き)2(2^n−1)胞体や3^n−1胞体の面数公式のような一般式は得られていない.

[1]f0公式

[a]nが奇数のとき

 f0= n!/{(n−1)/2}!{(n−1)/2}!/2^(n-1)/2・2^n

 =n!/{(n−1)/2}!{(n−1)/2}!・2^(n+1)/2

[b]nが偶数のとき

 f0=n!/{n/2}!{n/2}!/2^n/2・2^n

 =n!/{n/2}!{n/2}!・2^n/2

[2]f1公式

[a]nが奇数のとき

  e=n!/{(n−1)/2}!{(n−1)/2}!(n−1)/2=f0・(n−1)/2^(n+3)/2

とおくと

  f1=3e2^(n-1)/2=3f0・(n−1)/4

[b]nが偶数のとき,

  e=n!/{n/2}!{n/2}!・(n/2)^2/2=f0・(n/2)^2/2^(n+2)/2

とおくと

  f1=e2^(n+2)/2=f0(n/2)^2

 n次元の立方体(頂点数2^n)の頂点を超平面で切り落として残る空間充填図形(2^n+2n胞体)の面数公式fkは,f0,f1公式を除き,一般式は得られていない.

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【4】2(2^n−1)胞体

 置換多面体は(n+1)!個の頂点と2(2^n−1)個のn−1次元胞をもつ.また,置換多面体は(n+1,2)次元の立方体のアフィン射影で,単純ゾーン多面体である.2次元置換多面体は正六角形,3次元置換多面体は切頂八面体である.正単体αnを切頂・切稜することによって構成することができる.

[1]体積公式

 n次元置換多面体は(n+1,2)次元の立方体のアフィン射影であるから,m=n(n+1)/2組の平行なn次元ベクトル

  V={v1,・・・,vm}

をもつ.viは辺に沿ったベクトルである.したがって,この体積は線分のミンコフスキー和

  vol(V)=Σ|det(vi1,・・・,vin)|

で与えられる.すなわち,(m,n)個の項をもつこの公式は,複体を平行体(parallelepiped)に分解してそのミンコフスキー和ととることを意味している.なお,このベクトル配置は1次従属になることもあり,その場合,ある項はゼロになるから(m,n)個以下の平行体に分解できることになる.

  aj=√(1/2j(j+1))

とおくと,

  P0(−a1,−a2,−a3,−a4,・・・,−an)

  P1(+a1,−a2,−a3,−a4,・・・,−an)

  P2(0,+2a2,−a3,−a4,・・・,−an)

  P3(0,0,+3a3,−a4,・・・,−an)

  P4(0,0,0,+4a4,・・・,−an)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  Pn(0,0,0,0,・・・,+nan)

 P0が原点になるように平行移動させると,

  P0(0,0,0,0,・・・,0)

  P1(2a1,0,0,0,・・・,0)

  P2(a1,3a2,0,0,・・・,0)

  P3(a1,a2,4a3,0,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・・・

  Pn-1(a1,a2,a3,a4,・・・,nan-1,0)

  Pn(a1,a2,a3,a4,・・・,(n+1)an)

 n(n+1)/2組の平行なn次元ベクトルは

  P0P1=(2a1,0,0,0,・・・,0)

  P0P2=(a1,3a2,0,0,・・・,0)

  P0P3=(a1,a2,4a3,0,・・・,0)

  P0P4=(a1,a2,a3,5a4,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  P0Pn-1(a1,a2,a3,a4,・・・,nan-1,0)

  P0Pn=(a1,a2,a3,a4,・・・,(n+1)an)

  P1P2=(−a1,3a2,0,0,・・・,0)

  P1P3=(−a1,a2,4a3,0,・・・,0)

  P1P4=(−a1,a2,a3,5a4,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  P1Pn-1(−a1,a2,a3,a4,・・・,nan-1,0)

  P1Pn=(−a1,a2,a3,・・・,(n+1)an)

  P2P3=(0,−2a2,4a3,0,・・・,0)

  P2P4=(0,−2a2,a3,5a4,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・・・・

  P2Pn-1(0,−2a2,a3,a4,・・・,nan-1,0)

  P2Pn=(0,−2a2,a3,a4,・・・,(n+1)an)

  P3P4=(0,0,−3a3,5a4,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・・・・

  P3Pn-1(0,0,−3a3,a4,・・・,nan-1,0)

  P3Pn=(0,0,−3a3,a4,・・・,(n+1)an)

  Pn-1Pn=(0,0,0,・・・,−(n−1)an-1,(n+1)an)

であって,それぞれノルムで割って規格化する必要がある.

  V2=3√3/2

  V3=8√2

  V4=125√5/4

  V5=324√3

  V6=16807√7/8

  V7=65536

次元数nの一般式としての体積公式は得られていない.

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[2]面数公式

 単純多面体なので,

  f1=n/2・f0

である.f0は基本単体数に一致するので,

  f0=(n+1)!

となる.

 頂点図形(star)を描くことによって,n=6までの面数公式は構成可能であるが,単純多面体であるから,2^n+2n胞体よりは楽に構成できる.しかし,それよりもこれらの多面体が再帰的な構造を有していることに気づけば,先人達も苦心した難題も難なく構成可能となる.

 正単体の面数公式

  Nk^(n)=n+1Ck+1

を利用すると

  fk^(n)=Σ(j=0~k)Nj^(n)f(k-j)^(n-1ーj)   (k≦n−2)

ときれいな形にまとめることができる.

 この計算は2通りの方法,すなわち,コンピュータによる数え上げと頂点図形(star)を描くことによって一致することが確認されている.先人達も苦心した難題はこれにて完結,次は3^n−1胞体の体積公式・面数公式を求めてみたい.

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【5】3^n−1胞体

 正軸体βnあるいは同じことではあるが超立方体γnを切頂・切稜することによって構成することができる.頂点数2^n・n!.置換多面体の正軸体版と考えることができるが,この多面体は空間充填多面体ではない.

[1]体積公式

 置換多面体との違いは,この多胞体にはm=n(n−1)+n=n^2組の平行なn次元ベクトルがあることで,考え方自体は2(2^n−1)胞体の場合と同じである.

 n次元立方体の頂点は

  (±1,±1,・・・,±1)

n次元正軸体の頂点の座標は

  (±1,0,・・・,0)

  (0,±1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・

  (0,±0,・・・,1)

で与えられるから,n^2組の平行な規格化n次元ベクトルは

  (1,0,・・・,0)

  (0,1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・

  (0,0,・・・,1)

  (±1,−1,0,・・・,0)/√2

  (±1,0,−1,・・・,0)/√2

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  (±1,0,0,・・・,−1)/√2

  (0,±1,−1,0,・・・,0)/√2

  (0,±1,0,−1,・・・,0)/√2

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  (0,±1,0,0,・・・,−1)/√2

  (0,0,・・・,±1,−1)/√2

  V2=2(1+√2)

  V3=22+14√2

  V4=262+184√2

  V5=4106+3128√2

  V6=91236+57172√2

  V7=4(476709+393581√2)

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[2]面数公式

 単純多面体なので,

  f1=n/2・f0

である.f0は基本単体数に一致するので

  f0=2^n・n!

となる.

 正軸体の面数公式

  Nk^(n)=2^(k+1)nCk+1

を利用すると,

  fk^(n)=Σ(j=0~k)Nj^(n)f(k-j)^(n-1ーj)   (k≦n−2)

ときれいな形にまとめることができる.

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【6】まとめ

 次元数nの一般式として得られているとき○で表すことにすると

            面数公式    体積公式

2^n+2n胞体       △       ○

2(2^n−1)胞体     ○       △

3^n−1胞体        ○       △

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