■計算可能な多胞体

 これまで体積公式が知られている高次元多面体は,

  正単体αn,正軸体βn,超立方体γn,超球Bn

それに標準単体Δn,角錐Pyrnを加えても少数にすぎない.他に体積の計算が可能な高次元多面体はないのだろうか?

 さらに,n次元正多胞体のk次元面数(k=0〜n−1)は計算可能であるのに対し,k次元面数が計算可能なn次元準正多胞体は驚くほど少ない.

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【1】n次元準正多胞体にはどれだけの種類があるか?

 3次元正多面体は5種類あり,正四面体は自己双対である.3次元準正多面体は13種類あり,製作法から

  切頂型・・・7種類

  切頂切稜型・・・4種類

  ねじれ型・・・2種類

と分類される.ねじれ型は特殊型であって,これの高次元対応物がいくつあるかはわかっていない.そのため,今後は切頂型・切頂切稜型準正多胞体のみ扱うことにする.

 4次元正多胞体は6種類あり,正5胞体,正24胞体は自己双対である.5次元以上の正多胞体は3種類あり,正n+1胞体は自己双対である.非自己双対の場合,切頂型・切頂切稜型準正多胞体は

  2^n−1

自己双対の場合,切頂型・切頂切稜型準正多胞体は

  2^(n-1)+2^[(n-1)/2]−1

種類ある.

 重複するものを除くことによって,下表が得られる.

次元  正多胞体  準正多胞体

3      5     11(重複を除く)

4      6     39(重複を除く)

5      3     47

6      3     95

n(≧5)  3     2^n+2^(n-1)+2^[(n-1)/2]−5

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【2】準正多胞体の重要な3つのクラス

 (特殊型を除く)n次元準正多胞体には多くの種類があるが,その中には重要な3つのクラスが存在すると考えられる.

 まず,それらの製作法を考えると

  正単体切頂型(2(n+1)胞体)

  正軸体切頂型(2^n+2n胞体)

  正単体切頂切稜型(2(2^n−1)胞体)

  正軸体切頂切稜型(3^n−1胞体)

の4クラスの分類されるが,このうち,正単体切頂型はあまり重要な性質を持ち合わせおらず,残りの3つが重要となる.

            単独空間充填多面体  単純ゾノトープ

  正単体切頂型        ×         ×

  正軸体切頂型        ○         ×

  正単体切頂切稜型      ○         ○

  正軸体切頂切稜型      ×         ○

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【3】2^n+2n胞体

[1]体積公式

 立方体は単独で空間全体を格子状に埋めつくすことができる.単純立方格子状配置,すなわち角砂糖の箱の封を切ったときに見えるパターンについて,角砂糖の各頂点まわりを正八面体状に少しずつ切断し,削ってできた空間は常に多面体で充填することを考える.

 すなわち,2種類の多面体による空間充填を常に保ったまま相互遷移させると,中間値の定理(のアナログ)により2種類の多面体が同形となる値が存在する.そのとき,この図形は単一空間充填図形となる.

 計算は割愛するが,空間充填2^n+2n面体は

[1]n次元立方体[0,2]^nを超平面:x1+・・・+xn=n/2で切頂する

あるいは

[2]n次元正軸体を超平面:x1=2/nで切頂する

ことによって得られる.x=2/nで正軸体βnを切頂すると,n次元切頂八面体βn(x)を構成することができる.

 2次元では正方形,3次元では切頂八面体,4次元では正24胞体となる.このようにβn(x)は空間充填2^n+2n面体であり,その体積は,n次元切頂八面体の切頂面間距離が4/nであることから,

  volβn(x)=(4/n)^n/2

また,1象限分の体積は

  volΔn(x)=(2/n)^n/2

になる.

 3次元では切頂八面体の体積はそれに外接する立方体の半分であることはよく知られている.この性質は任意の次元についても成り立つのである.

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[2]面数公式

 正軸体の切頂面となる(n−1)次元面の頂点は,x=2/nとして

[1]n=3のとき,

  (x,x/2,0)

[2]n=4のとき,

  (x,x,0,0)

[3]n=5のとき,

  (x,x,x/2,0,0)

[4]n=6のとき,

  (x,x,x,0,0,0)

[5]n=7のとき,

  (x,x,x,x/2,0,0,0)

[6]n=8のとき,

  (x,x,x,x,0,0,0,0)

となる.nのパリティー(奇数か偶数か)によって違いを生ずるため,nが偶数か奇数かのケースにわける必要がある.

 また,この多面体はf1=n/2・f0も成り立たないから単純多面体ではないし,置換多面体にみられるような逐次構造も有していない.そのため,その形を構成するにはかなりの洞察力がいるが,頂点図形(star)を描くことによって,6次元までは構成可能であった.

2次元:(f0,f1)=(4,4)   (正方形)

3次元:(f0,f1,f2)=(24,3,14)   (切頂八面体)

4次元:(f0,f1,f2,f3)=(24,96,96,24)   (正24胞体)

5次元:(f0,f1,f2,f3,f4)=(240,720,720,280,42)

6次元:(f0,f1,f2,f3,f4,f5)=(160,1440,2880,2160,636,76)

この計算は,のちにコンピュータによる数え上げによって再確認された.

 n次元の立方体(頂点数2^n)の頂点を超平面で切り落として残る空間充填図形(2^n+2n胞体)の面数公式fkは(f0,f1公式を除き)2(2^n−1)胞体や3^n−1胞体の面数公式のような一般式は得られていない.

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【4】2(2^n−1)胞体

 置換多面体は(n+1)!個の頂点と2(2^n−1)個のn−1次元胞をもつ.また,置換多面体は(n+1,2)次元の立方体のアフィン射影で,単純ゾーン多面体である.2次元置換多面体は正六角形,3次元置換多面体は切頂八面体である.正単体αnを切頂・切稜することによって構成することができる.

[1]体積公式

 n次元置換多面体は(n+1,2)次元の立方体のアフィン射影であるから,m=n(n+1)/2組の平行なn次元ベクトル

  V={v1,・・・,vm}

をもつ.viは辺に沿ったベクトルである.したがって,この体積は線分のミンコフスキー和

  vol(V)=Σ|det(vi1,・・・,vin)|

で与えられる.すなわち,(m,n)個の項をもつこの公式は,複体を平行体(parallelepiped)に分解してそのミンコフスキー和ととることを意味している.なお,このベクトル配置は1次従属になることもあり,その場合,ある項はゼロになるから(m,n)個以下の平行体に分解できることになる.

  V2=3√3/2

  V3=8√2

  V4=125√5/4

  V5=324√3

  V6=16807√7/8

  V7=65536

次元数nの一般式としての体積公式は得られていない.

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[2]面数公式

 置換多面体が逐次構造を有していることに着目する.そして正単体の面数公式

  Nk^(n)=n+1Ck+1

を利用すると

  fk^(n)=Σ(j=0~k)Nj^(n)f(k-j)^(n-1ーj)   (k≦n−2)

ときれいな形にまとめることができる.

 この計算は2通りの方法,すなわち,コンピュータによる数え上げと頂点図形(star)を描くことによって一致することが確認されている.先人達も苦心した難題はこれにて完結,次は3^n−1胞体の体積公式・面数公式を求めてみたい.

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【5】3^n−1胞体

 正軸体βnあるいは同じことではあるが超立方体γnを切頂・切稜することによって構成することができる.頂点数2^n・n!.置換多面体の正軸体版と考えることができるが,この多面体は空間充填多面体ではない.

[1]体積公式

 置換多面体との違いは,この多胞体にはm=n(n−1)+n=n^2組の平行なn次元ベクトルがあることで,考え方自体は2(2^n−1)胞体の場合と同じである.

  V2=2(1+√2)

  V3=22+14√2

  V4=262+184√2

  V5=4106+3128√2

  V6=91236+57172√2

  V7=4(476709+393581√2)

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[2]面数公式

 正軸体の面数公式

  Nk^(n)=2^(k+1)nCk+1

を利用すると,

  fk^(n)=Σ(j=0~k)Nj^(n)f(k-j)^(n-1ーj)   (k≦n−2)

ときれいな形にまとめることができる.

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【6】まとめ

 次元数nの一般質として得られているとき○で表すことにすると

            面数公式    体積公式

2^n+2n胞体       △       ○

2(2^n−1)胞体     ○       △

3^n−1胞体        ○       △

 なお,n次元準正多胞体全種類のk次元面数についてはつい最近計算が完了したばかりである.体積は角錐分解して,各「側面」の形状と中心までの距離、それらの個数が求まれば,それで求められたも同然であるが,コンピュータでの出力は小数値になってしまう.かといって,解析的に出すのは面倒である.

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【補】デーン・サマービル関係式

 各頂点がn本の辺上にあるn価のn次多面体(単純多面体)に対しては,デーン・サマービル関係式

  fk=Σ(0,k)(−1)^j(n−j,n−k)fj

が成り立つ.

 単純n次多面体に対して,与えられたj次面を含むk次面の数は(n−j,n−k)になる.k=nのときがオイラー関係式であるが,オイラー関係式は単純多面体だけでなく任意の多面体に対して成り立つ.

 デーンは1905年に5次元においてこの関係式を証明した.およそ20年後の1927年,サマービルが一般の場合を証明した.

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