■SPLAG(その2)
優れた数学理論は必ず応用される=球の最密パッキングの研究は,2次形式の数論,ルート系,誤り訂正符号(応用代数学),有限単純群などの理論と関係し,最大の信頼性と最小の電力で伝送できる効率的な通信システムの設計に応用されています.
とくに,24次元リーチ格子:Λ24の発見により,データ転送における誤り訂正符号の発見に大革新がもたらされましたが,通信技術への応用は球の詰め込み問題の四次元以上への一般化の結果としてなされたものであり,純粋数学の期待せざる応用の一例といってもよいでしょう.
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【1】2次元・3次元における最疎球被覆
充填(パッキング)に引き続き,被覆(カバリング)の問題を紹介しよう.平面充填形には正三角形格子,正方格子,正六角形格子の3種類あるが,平面上において,円形が互いに重なり合わないように配置したり,平面を完全に覆いつくす配置問題を考えるとき,正三角格子がきわだった役割を果たす.
最密な円充填密度は
Δ2≦π/√12=0.9068・・・
最疎な円被覆密度は
Θ2≧2π/√27=1.209・・・
で与えられるが,等号は,円の中心が正三角格子の頂点におかれたとき,すなわち,各々の円が正六角形の頂点で6個の他の円と接している場合および切断されている場合に成り立つ(蜂の巣型).
一方,空間における球の配置を考えると,球の中心が面心立方格子を形成したとき,球の最密充填であることが最近証明された.
Δ3≦π/√18=0.74048・・・
面心立方格子のボロノイ多面体は菱形12面体であって,この意味で,菱形12面体は正6角形を3次元空間に拡張したものと見なすことができよう.ケプラーは雪の結晶が正六角形をしているのはなぜかと考え,史上初めて菱形十二面体をみつけたのだが,4次元の雪(超正六角形)はケプラーが予想したとおり菱形十二面体なのである.
ところが,球による空間の最疎被覆は面心立方格子ではない.面心立方格子型配置D3では
2π/3=2.094・・・
それに対して,体心立方格子型配置D3~=A3~では
5√5π/24=1.463・・・
とかなり小さくなることがわかる.
球の最密充填はケプラーやガウスによって既に知られていたのだが,最疎な球被覆問題は球の中心が体心立方格子をつくるときであることが証明されたのは,1954年になってからのことなのである.
Θ3≧5√5π/24=1.463・・・
最密充填配置と最疎被覆配置が異なるというのは驚くべきことであろう.平面では充填配置も被覆配置も正六角形配置になっていたのだが,平面における正六角形の役割を菱形12面体がすべて引き継いでいるわけではない.その理由は,平面では正六角形は円に内接および外接するのに対して,菱形12面体は球に外接するが内接しない,一方,切頂8面体は球に内接するが外接しないことに起因している.そのため,ある問題では球に外接する多面体が重要になり,別の問題では内接する多面体が重要になるのだろう.
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[補]
n ルート 球充填密度
2 A2 π/2√3=0.906(ラグランジュ1773,ガウス1831)
3 A3 π/3√2=0.740(ガウス1831)
4 D4 π^2/16=0.617(Korkine,Zolotareff,1872)
5 D5 π^2/15√2=0.465(Korkine,Zolotareff,1877)
6 E6 π^3/48√3=0.373(Blichfeldt,1925)
7 E7 π^3/105=0.295(Blichfeldt,1926)
8 E8 π^4/384=0.254(Blichfeldt,1934)
n ルート 球被覆密度
2 A2~ 2π/√27=1.209(Kershner,1939)
3 A3~ 5√5π/24=1.464(Bambah,1954)
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【2】n次元における最疎球被覆
最疎球被覆であることが証明されているのは,1次元Zと2次元A2の場合だけである.格子状球被覆に限れば,5次元まで証明されていて,Anの双対An~が答えである.
An~の被覆密度は,外接球の半径が
R=n(n+2)/12(n+1)
より,
Θ=vn(n+1)^(1/2){n(n+2)/12(n+1)}^(n/2)
で与えられることがわかっていて,
A1~=A1 =Z Θ=1
A2~=A2 Θ=1.2092
A3~=D3~ Θ=1.4635
A4~ Θ=1.7655
A5~ Θ=2.1243
そして,23次元以下ではAn~が最疎球被覆配置であることが知られている.8次元では
A8~ Θ=3.6655・・・
E8 Θ=4.0587・・・(π^4/24)
であるが,24次元では
A24~ Θ=63.269・・・
Λ24 Θ=7.9035・・・((12π)^12/12!)
となり,Λ24のほうが疎である.
An~では次元が高くなると
(log2Θn(n))/n〜log2√(πe/6)=0.2546
となり,最疎球被覆とはなり得ないことがわかる.
Θの下界は単体的密度限界Dnで押さえられるから,
Θ≧Dn≧1
ここで,辺の長さが2の正単体の外接球の半径は
{2n/(n+1)}^(1/2)
より,
Dn={2n/(n+1)}^(n/2)dn
n→∞のとき,
{2n/(n+1)}^(n/2)→e^(-1/2)2^(n/2)
より,
Dn 〜 n/e√e
したがって,下界については
Θ≧n/e√e
上界については
Θ≦nlogen+nlogelogen+5n
が知られている.
n/e√e≦Θ≦nlogen+nlogelogen+5n
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