■n角の穴をあけるドリル(その55)
ルーローの三角形はいたって単純な形状であるから,ルーロー以前に誰もこの図形を利用しなかったのか不思議に思う方もおられるだろう.フランツ・ルーロー(1829-1905)が定幅図形であることを示すまで実用的な応用はなかったし,実際の機械にこの図形を応用したのも彼が最初である.
その後さまざまな用途に利用されるようになった.マンホールのフタ,コイン,正方形の穴を穿つドリル,マツダ車のエンジン,ヴィックスドロップ,・・・.回転するドリルでは丸い穴しかあけられないはず,したがって正方形の穴をあけるドリルなどと聞いても常識外れとしか思えないだろう.
定幅曲線はいかなる方向に関しても等しい幅をもっているわけであるから,正方形に内接しながら回転することができる図形であり,これを応用すれば正方形の穴をあけるドリルを作ることができる.もちろん,中心が固定されていてはダメである.
なお,ルーローの三角形であけられる正方形はその角がごくわずかだが丸くなっていて,穿かれる穴の面積は正方形の面積を1とすると0.9877・・・となる.(概4角形の穴をあけるドリル)
American Math Monthlyの最新号に,以前研究したn角の穴をあけるドリルの論文がでていた.
B. Cox and S. Wagon, Drilling for Polygons:, American Math Monthly, 119(2012), 300-312
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【1】以前私が研究した内容(手前味噌)
偶数n角形の穴をあけるドリルは「定幅図形」の応用であるが,逆に,奇数n角形の穴をあけるドリルは「定幅図形」ではできないことは確かである.
五角の穴をあけるドリルの場合,円弧の中心は四角形の辺の中点にくる.このことは偶数n角形の穴をあけるドリルの円弧の中心がn−1角形の辺の中点にくることから自然に発想されるアイディアと思えた.
しかし,奇数n角の穴をあけるドリルについて「円弧の中心はn−1角形の辺の中点」という記述が誤りではないかと思い始めたのは,皮肉なことにその証明をしている最中であった.(以下は類推あるいは相似思考と呼ばれるものは直感的で人の心にストレートに訴えるものがあるが,往々にして失敗するという教訓である.)
nが奇数のとき,n−1角形の辺の中点の円弧の中心をおいた円弧n−1角形をルーローのn−1角形と呼ぶことにする.ルーローの四角形が正五角形の内転形であるかどうかを検証してみると,目測ではぴったり内転しているようにみえるのだが,計算上はそうなってはいないことが判明した.ルーローの偶数角形は曲率半径か円弧の中心角かどちらか一方が決まれば一意に定まるので,中心角をπ/(n−1)やπ/nと変更してみてもやはり内転形にはならない.微妙なところで食い違っている「擬内転形」なのである.
ルーローの四角形は完全な内転形でないなどの不備のあることが明らかになったが,それでも高精度の擬内転形となっているといまでも思っている.手前味噌だが,次節で述べる不等辺型ドリルには本質的な無理があるように思える.初期のルーロー模型は徐々に複雑なものとなっていき,より複雑になるにしたがい,初期のエレガントさは徐々に失われてしまった感があるのだが,その点,私が考案したルーローの四角形は単純素朴なものといえるだろう.
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【2】最新論文
B. Cox and S. Wagon, Drilling for Polygons:, American Math Monthly, 119(2012), 300-312
やマイケル・ゴールドバーグの論文
M. Goldberg, Rotors in polygons and polyhedra, Math Comput, 14(1960), 229-239
を読むと,これまで実にさまざまな円弧ローターが考案されていたことがわかる.
とくに,n(>4)角形の中を回転するローターでは
曲率半径が等しくない円弧を用いている不等辺型
1つの弧に異なる曲率半径の円弧を接合した複合型
などが紹介されている.
最新論文も曲率半径が等しくない円弧を用いている不等辺型であるようだが,概n角形ではなく,正n角形になるという点で,円弧ローターの変遷上にあるものである.また,端的にいって,彼等の頭に中にローターの中心の軌道はなかった点が気にかかる.(理論はあとからついてくるもの?)
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