■弱定理から強定理へ
【1】弱理想グラフ定理から強理想グラフ定理へ
Bergeは理想グラフの研究の初期に2つの予想を定式化した.
[1]グラフが理想グラフであるときに限り,補グラフは理想グラフである(弱理想グラフ予想).
[2]グラフが理想グラフであるときに限り,グラフもその補グラフも長さが5以上の奇数サイクルを含まない(強理想グラフ予想).
[1]は任意の理想グラフの補グラフも理想グラフであることを述べたもので,1972年Lovaszによって証明された.[2]が証明されたのはずっと後のことで,2002年にチュドノフスキー,シーモア,ロバートソン,トーマスの4人のよって解決された.なかでもマリア・チュドノフスキーは若くてきれいな女性だったこともあり,かなり注目を集めたとのことである.
グラフ理論における最近の大きな成果であるが,与えられたグラフが理想グラフであるかどうかを判定する多項式時間アルゴリズムもチュドノフスキーらによって設計開発されている.
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【2】弱変身定理から強変身定理へ
秋山仁先生の講演では「キツネヘビ」のような小道具を使って菱形十二面体,切頂八面体の体積を求めている.菱形十二面体と直方体の間の変身が「キツネヘビ」,切頂八面体と直方体の間の変身が「ブタハム」なのであるが,このとき多面体の形が変形するばかりでなく,菱形十二面体,切頂八面体の表面が直方体の内部に隠れることを利用して,黄色(キタキツネ)を緑(ヘビ)に変色させ,キタキツネが一瞬にしてヘビに飲み込まれる恐怖の瞬間を表現している.
秋山先生は空間充填形同士の変身を作られているが,変身立体では平行多面体Aの表面は平行多面体Bの内部に移り,平行多面体Bの表面は平行多面体Aの内部の点から構成されている表裏翻転図形を考える.その際,平行多面体Bの表面は平行多面体Aの内部の点だけから構成されている場合を強変身,そうでない場合を弱変身と呼ぶことにする.
つい最近,秋山仁先生は
[1]平行多面体Aは平行多面体Aに自己強変身できること(5通り)
[2]平行多面体Aは平行多面体Bに別種強変身できること(10通り)
を発見した.つまり,平行多面体同士はすべて強変身可能なのである.
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平行多面体の変身立体についてはすでに完全な結論は得られていて,5種類ある平行多面体相互間の変身10種とそれ自身への変身5種はすべて可能であることが確認されている.
とはいっても,一足飛びに「強変身」であることが実証されたわけではない.当初は
[1]菱形12面体→六角柱
[2]切頂8面体→六角柱
[3]長菱形12面体→六角柱
の変身では,立体Aの表面は立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているものの,立体Aの断面の一部が立体Bの内部に残ってしまう「弱変身」であることがわかったものの,「強変身」=完全に表裏を翻転させることはできなかった.
とくに[1]に対しては完全に表裏を翻転させることは難しそうな見通しだったのだが,そうするためには発想の転換が必要になった.そして,最後まで残った1ピースは2012年のGW中に埋まり,かくして強変身予想は定理となった.
[定理]5種類あるフェドロフの平行多面体相互の「立体蝶番返し」は15通り考えられるが,アフィン変換した平行多面体への「立体蝶番返し」は常に強変身可能である.
に到達したのである.
前節との違いは
[1]マリア・チュドノフスキーは若くてきれいな女性だったが,強変身定理を解決した面々は無骨(粗忽?)な男たちであったこと,
[2]強理想グラフ予想の解決は数学界を仰天させたが,強変身定理はそれほどの興奮もなく解かれ,注目を集めるに至らなかったことである.
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