■4次元正多面体の怪(その10)
+1,−1を成分とする直交行列(アダマール行列とよばれる)には「n次元超立方体の頂点をうまく結んで正軸体を作ることはできるか」という幾何学的な意味合いを与えることができる.
一方,「n次元超立方体の頂点をうまく結んでn正単体を作ることはできるか」という問題では,全体を1次元挙げて,n+1正軸体のn次元胞をとるのが最も簡単である.したがって,「n+1次元超立方体の頂点をうまく結んで正軸体を作ることはできるか」と同等の問題であるから,n+1=4mであることが必要条件となる.但し,これは中心がもとの超立方体と同じ位置でない正軸体の話である.
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【1】アダマール行列の直積
アダマール行列Hnは+1か−1の要素をもつn×n行列で,その行と列は互いに直交している.各行または列のノルム(各要素の2乗和)はnであるから, HnHn’=Hn’Hn=nIn
が成り立つ.
最も簡単なアダマール行列は
H2 =[1, 1]
[1,−1]
である.すべての他のアダマール行列はn=4kであることが必要である.
とくに興味深いのは「直積」
H4=H2×H2(2^2×2^2行列),
H8=H2×H2×H2(2^3×2^3行列),
Hn=H2×H2×H2・・・(2^n×2^n行列)
によって,H2から得られるn=2^mのシルベスタ型のアダマール行列で,
[1, 1, 1, 1]
H4 =[1,−1, 1,−1]
[1, 1,−1,−1]
[1,−1,−1, 1]
[1, 1, 1, 1, 1, 1, 1, 1]
[1,−1, 1,−1, 1,−1, 1,−1]
[1, 1,−1,−1, 1, 1,−1,−1]
H8 =[1,−1,−1, 1, 1,−1,−1, 1]
[1, 1, 1, 1,−1,−1,−1,−1]
[1,−1, 1,−1,−1, 1,−1, 1]
[1, 1,−1,−1,−1,−1, 1, 1]
[1,−1,−1, 1,−1, 1, 1,−1]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
なお,A(m×n行列)とB(m’×n’行列)の直積(クロネッカー積)は,2つの行列の各要素を直接乗じて作る(mm’×nn’)行列である.直積では第1項の各要素をその項と第2項との積で置き換えることによって定義される.
両者の成分のすべての積を作り,各要素を(ci'j')=(aijbkl)において,
i’=i+m(k−1)
j’=j+n(l−1)
の式にしたがって並べると,
1≦i≦m,1≦j≦n,1≦k≦m’,1≦l≦n’
より,
1≦i’≦mm’,1≦j’≦nn’
また,正方行列X(n×n行列)とY(m×m行列)の直積の固有値は,Xのn個の固有値とYのm個の固有値の積である.テンソルの数学的定義はそれが何であるかよりも座標変換に対していかに振る舞うかによって規定するから,理解しにくいかもしれない.
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【2】アダマール行列とアダマールの定理
アダマール行列Hnは+1か−1の要素をもつn×n行列で,その行と列は互いに直交している.各行または列のノルム(各要素の2乗和)はnであるから,
HnHn’=Hn’Hn=nIn
が成り立つ.
det|nIn|=n^n
より
det|Hn|=n^n/2
もっと一般に,各成分が1か−1のn×n行列の行列式はn^n/2以下である.
アダマールの定理の証明は,行列式の幾何学的意味を理解すれば簡単である.行列式の絶対値は,n個のそれぞれの長さ√nの行ベクトルが作るn次元平行六面体の体積だから,その値は(√n)^n=n^n/2以下である.等号はベクトル同士が全部直交するときに限る.
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