円周上にn点が等間隔に配置されているとき,それらを結んでできる幾何学的図形をポアンソの星という(ポアンソは剛体力学の研究で知られるフランスの数学者).
正n角形では辺も含めてn(n−1)/2本の対角線があるが,nが偶数のときは辺も含めてn/2個の異なる対角線があり,奇数のときは(n−1)/2個の異なる対角線がある.
[Q]正n角形が半径1の円に内接している.すべての辺(n本)と対角線(n(n−3)/2本),合計n(n−1)/2本の長さの平方和(sum of squares)を求めよ.
[A]nが奇数のときも偶数のときもSS=n^2.nのパリティーによって違いを生じない.
これは,正n角形が半径1の円に内接しているとき,
[定理1]ひとつの頂点からでるすべての辺と対角線の長さの2乗和は頂点数の2倍に等しい.
Σ(1,n-1)dj^2=2n
と同値である.
さらに,
[定理2]ひとつの頂点からでるすべての辺と対角線の長さの積は頂点数nに等しい.
Π(1,n-1)dj=n
[定理3]対角線の長さの平方の逆数の和公式
Σ(1,n-1)1/dj^2=(n^2−1)/12
が成立する.
これらを拡張する方向としては,ひとつには次元を大きくすること(単位円→単位球→d次元単位球),もうひとつには指数を大きくすることである(Σ(1,n-1)dj^2=2n→Σ(1,n-1)dj^m=?).
結論を先にいうと定理1は任意の次元で通用するのに対して,定理2,3は2次元の場合のみで成立する.
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【1】定理1の普遍性
[Q]n個の頂点(P1,・・・,Pn)をもつ正多面体が半径1の球に内接しているとき,Q=Σ(2,n)|P1Pj|^2=Σ(1,n)|P1Pj|^2の値を求めよ.
[A]内積をつかえば
Q=(P1−P1)・(P1−P1)+(P2−P1)・(P2−P1)+・・・+(Pn−P1)・(Pn−P1)
ベクトル解析では原点はどこでも好きなところに選ぶことができるから,(P1を原点とするのではなく)球の中心に原点をおくと,
(Pj−P1)・(Pj−P1)=P1・P1−2P1・Pj+Pj・Pj
Pj・Pj=1
より
(Pj−P1)・(Pj−P1)=P1・P1−2P1・Pj+Pj・Pj=2−2P1・Pj
よって
Q=2n−2P1・(P1+P2+・・・+Pn)
が得られる.
正多面体の重心は原点にあるから,その対称性より,
P1+P2+・・・+Pn=0,Q=2n
すべての辺と対角線の長さの平方和SSは,すべての頂点において同じ線分が2回ずつ数えられていることから
SS=n/2×Q=n^2 (QED)
この議論は3次元のみならず,一般の次元についても成立するものであるから,すべての次元で単位球に内接する正多面体(頂点数n)のすべての辺と対角線の長さの平方和はn^2で与えられることになる.
すべての次元で単位球に内接する正多胞体(頂点数n)のすべての辺と対角線の長さの平方和はn^2で与えられるのであるが,それを計算で確認するには結構骨が折れる.なかでも4次元正120胞体の場合は最も厄介であろう.
[Q]この定理を用いて,単位球に内接するn次元正単体の1辺の長さを求めよ.
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外接球を有し,頂点が中心対称性に配置されている多面体は
P1+P2+・・・+Pn=0
を満たすが,正四面体のように中心対称でなくともΣPj=0となる多面体は存在する.
[1]正多面体
すべて,外接球を有しΣPj=0を満たす(正四面体は中心対称でない)
[2]準正多面体
すべて,外接球を有しΣPj=0を満たす(切頂四面体,ねじれ立方体,ねじれ十二面体は中心対称でない)
[3]アルキメデス角柱
すべて,外接球を有しΣPj=0を満たす(P3,P5,・・・は中心対称でない)
[4]アルキメデス反角柱
すべて,外接球を有しΣPj=0を満たす(A5は中心対称)
[5]ジョンソン立体
J27,J34,J37,J72-75,J80は外接球を有しΣPj=0を満たす(J73,J80は中心対称)
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【2】対角線の全長の2乗と対角線の2乗の総和の不等式
等式の世界は面白いが,不等式の世界だって奥深いものがある.対角線の本数は(辺も含めて)n(n−1)/2=N,対角線の長さの2乗の総和は頂点数の2乗n^2となるが,対角線の全長については何かいえるだろうか?
u=(1,1,・・・,1),v=(d1,d2,・・・,dN)
に対して,コーシー・シュワルツの不等式(u・v≦|u||v|)を適用すれば,
(Σdi)^2≦N・Σdi^2=n^3(n−1)/2
等号が成立するのは,d1=d2=・・・=dNであるから,正単体に限られる.
なお,
(Σdi)^2<n^4/2 → Σdi<0.7v^2
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【3】定理2と定理3の証明
半径1の円に内接する正n角形の一頂点から他のn−1個の頂点への距離の積がnに等しいことは,三角関数で表現すれば
|P0Pk|=2sin(kπ/n)
だから,以下の問題を証明するということになる.
Q=Π(1,n-1)|P0Pj|=n
R=Σ(1,n-1)1/|P0Pj|^2=(n^2−1)/12
[A]正弦・余弦の和公式ほどよく知られていないが,正弦・余弦の積公式としていろいろな公式が登場してくる.
Πsinkπ/n=sinπ/n・・・sin(n−1)π/n=n/2^(n-1)
より,Q=nが示される.
また,正弦関数の積公式
Πsin(x+kπ/n)=sinnθ/2^(n-1)sinθ
から,対数微分により,コタンジェントの和公式
Σcot(x+kπ/n)=ncot(nθ)
さらにこれを微分することによって,正弦関数の平方の逆数の和公式
Σ1/sin^2(x+kπ/n)=n^2/sin^2(nθ)
が得られる.
x→∞とすることによって,
Π(1,n-1)sinkπ/n=n/2^n-1
Σ(1,n-1)1/sin^2kπ/n=(n^2−1)/3
が得られる.
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【4】正五角形の作図可能性の証明
辺の長さをx,対角線の長さをyとすると(x<y),
[定理1]→2x^2+2y^2=10,x^2+y^2=5
[定理2]→x^2y^2=5
x^2、y^2は2次方程式
X^2−5X+5=0
の2実根であるから,
x^2=(5−√5)/2,y^2=(5+√5)/2
すなわち,(複)2次方程式の範囲内で(x,y)が求まる.
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【5】次元と指数を大きくすると
定理1の面白いところは,2次元図形だけでなくすべての次元で通用することである.すなわち,すべての次元において,単位球に内接する正多胞体のすべての辺と対角線の長さの平方和はn^2で与えられることになる.無理数でなく整数! この美とエレガンス(気品)を鑑賞していただけたであろうか.
[1]指数を大きくすると(偶数次)
[定理]単位円に内接する正n角形のひとつの頂点から他のn−1個の頂点までの距離の平方和は2nに等しい
は任意の次元で成り立つ定理であるが,
[定理]単位円に内接する正n角形のひとつの頂点から他のn−1個の頂点までの距離の4乗和は6nに等しい
[定理]単位円に内接する正n角形のひとつの頂点から他のn−1個の頂点までの距離の6乗和は20nに等しい
[定理]単位円に内接する正n角形のひとつの頂点から他のn−1個の頂点までの距離の8乗和は70nに等しい
Σ(1,n)|P1Pj|^2m=(2m,m)n
は正しい公式であるが,n>mであることが必要となる.したがって,6乗和公式,8乗和公式は正三角形に対しては成り立たない.8乗和公式は正方形に対しては成り立たない.
m=1 → (2m,m)=2
m=2 → (2m,m)=6
m=3 → (2m,m)=20
m=4 → (2m,m)=70
m=5 → (2m,m)=252
m=6 → (2m,m)=924
m=7 → (2m,m)=3432
m=8 → (2m,m)=12870
と続く.
また,
(Σ(1,n))|P1Pj|^2m+Σ(0,n))|P0Pj|^2m)/2=(2m,m)n (n>m/2)
が成り立つ.
[2]次元も大きくすると
m<0のとき,(正多面体)<(正多角形)
m=0のとき,(正多面体)=(正多角形)
m=1のとき,(正多面体)>(正多角形)
m=2のとき,(正多面体)=(正多角形)
m>2のとき,(正多面体)<(正多角形)
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