n次の行列式(determinant)はn個の項の積のn!個の項に適当な符号をつけた和として表される.符号をつけずに全部+にして加えた式はpermanentと呼ばれる.訳語はないが,強いて訳せば永久式である.
2つの行(または列)が比例するとき,行列式の値は0となるから,すべての成分aij=1/nの行列Jnの行列式は0であるが,永久式の値はn!/n^nである.
===================================
【1】ファン・デル・ヴェルデン予想
n次の行列で成分aij≧0,行和=1,列和=1のとき,永久式の値≧n!/n^nである.等号はJnのときのみ成立する.
この予想は2人のロシア人Egorycev(1980年),Falikman(1981年)により独立にまたたく別な方法で証明された.
ところで,スターリングの公式の図形的近似式において,
n!は直角三角錐
n^nは立方体
と関係している部分である.すなわち,n^n/n!は1辺の長さnの立方体を切断した直角三角錐の体積になる.
図形的証明に対して,スターリングの近似の組み合わせ論的証明も可能かもしれない.n^nは{1,2,3,・・・n}から{1,2,3,・・・n}へのinto写像,n!は{1,2,3,・・・n}から{1,2,3,・・・n}へのonto写像であるからだ.
===================================
【2】ビーベルバッハ予想
関数論の未解決問題にBieberbach(ビーベルバッハ)予想(1916年)
『単位円盤の内部(|z|<1)で,正則単葉な複素関数 f が級数
f(z) = z + a2z^2 + a3z^3 + ... + anz^n + ...
で与えられている.このとき,
|an| ≦n
等号は f(z) = z/(1-z)^2 = 1+ 2z^2 + 3z^3 + ... + nz^n + ...で成立する.』
というのがあったのですが,1984年に解決されました.現在,この予想はド・ブランジェの定理と呼ばれています.
後日談がある.2004年6月に米パデュー大学の数学者ルイス・デ・ブランジェス・デ・ボルシア教授がリーマン予想を証明したと発表した.de Brangesはビーベルバッハ予測を証明した人物として非常に有名だ.同氏はそれ以来約20年間,研究のほとんどをリーマン予想の証明に費やしてきたのである.
しかし,彼がリーマン予想の証明をするのはそのときが初めてではなかった.1985年に「証明」を発表したが間違っていたのである.1989年には二度目の証明の成功を宣言した.しかし,二度の証明の成功を宣言し,二度とも間違っていたとあっては,間違いを繰り返すたびに不信感を募らせるのは当然であろう.誰も「狼少年」の三度目の証明をまじめに受け取ってはいなかった.そのときの証明が三度目の正直であって欲しいのであるが,リーマン予想の証明については彼自身何度目かの「証明」ということで,数学界の評価はどうも「黙殺」に近いものがあったようである.
===================================