曲線(あるいは弧長)を等分する問題を考えます.たとえば,正多角形の作図は円周等分問題という幾何学問題ですが,1796年,ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いつきました.のみならず,nが素数の正n角形について,n=22^m+1が素数の場合に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見しています.
正n角形の作図において,nは異なるフェルマー素数か2のベキ乗との積
n=2^kΠFm
でなければなりません.したがって,
[1]n=2,3,4,5,6,8,10,12,15,16,17,20,24,30 → 作図可能
[2]n=7,9,11,13,14,18,19,21,22,23,25 → 作図不可能
となって,幾何学的に解ける正奇数角形は,2^5−1=31通り,最大
3・5・17・257・65537=4294967295
角形まであります.
また,等分可能性を示すことと実際の等分点を与えることは別問題で,たとえば,円の17等分点のx座標(の2倍)は
2cos(2π/17)=1/8{−1+√17+√(34−2√17)+2√(17+3√17+√(170−26√17)−4√(34+2√17)}=1.86494
となります.
とはいえ,一般的な議論は難しいので,このシリーズでは弧長が
∫(0,x)1/(1-x^n)^(1/2)dt
で与えられる曲線(n=2の場合が円,n=4の場合がレムニスケート)の等分点を与えることを考えます.
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【1】レムニスケート積分の倍角公式
レムニスケート(連珠形)には円に共通する性質があり,定規とコンパスだけで奇数のn等分することができる必要十分条件はnがフェルマー素数(n=22^m+1の形の素数:3,5,17,257,65537)であることはよく知られている.
レムニスケートの弧長は
∫(0,x)1/(1-x^4)^(1/2)dt
と表わされる.これはレムニスケート積分と呼ばれる典型的な楕円積分である.また,
∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dt=1.311028・・・=ω/2
とおくと,2ωがレムニスケートの全長になる.レムニスケートの定数(レムニスケート周率)ωは円に対する円周率πと同じ役割を演じていることになる.
[補]P(x)を2次の多項式とするとき,
f(x)=1/(P(x))^(1/2)
F(z)=integral(0-z)f(x)dx
は対数あるいは円関数(三角関数)になりますが,3次,4次の多項式の場合はそうはいかず,初等関数をいくら組み合わせても得られない関数が登場します.P(x)を3次,4次の多項式とするとき,F(z)は楕円積分,その逆関数F-1(z)は楕円関数と命名されています.3次でも4次でもx=1/tとおけば
dx/{x(x-a)(x-b)(x-c)}^(1/2)=-dt/{(1-at)(1-bt)(1-ct)}^(1/2)
となりますから,本質的には同じことです.また,P(x)を5次以上の多項式とするとき,当該の関数は超楕円積分,超楕円関数と呼ばれます.
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ところで,円では
x=sinu,f'(u)=dx/du=1/du/dx=(1-x^2)^1/2=y(=cosu=sin'u)
よりx,yはともにパラメータuの関数になるが,レムニスケート積分でもx=sl(u),y=sl'(u)はともにパラメータuの関数になり,曲線y^2=1−x^4はx=sl(u),y=sl'(u)によってパラメータ表示できる.
レムニスケートサインの加法定理
sl(u+v)=(sl(u)sl'(v)+sl(v)sl'(u))/(1+sl^2(u)sl^2(v))
より,
sl(2u)=2sl(u)sl'(u)/(1+sl^4(u))
sl(3u)=(sl(2u)sl'(u)+sl(u)sl'(2u))/(1+sl^2(2u)sl^2(u))
sl(4u)=(sl(3u)sl'(u)+sl(u)sl'(3u))/(1+sl^2(3u)sl^2(u))
sl(5u)=(sl(4u)sl'(u)+sl(u)sl'(4u))/(1+sl^2(4u)sl^2(u))
sl(6u)=(sl(5u)sl'(u)+sl(u)sl'(5u))/(1+sl^2(5u)sl^2(u))
さらに,
sl'(u)=(1-sl^4(u))^1/2
sl'(2u)=(1-sl^4(2u))^1/2
sl'(3u)=(1-sl^4(3u))^1/2
sl'(4u)=(1-sl^4(4u))^1/2
sl'(5u)=(1-sl^4(5u))^1/2
を用いて,sl(u)の関数として表すと
sl(2u)=2sl(u)(1-sl^4(u))^1/2/(1+sl^4(u))
などが得られる.
ここで,2等分を与えるにはsl(2u)をsl(u)の関数として表せればよいことになるのだが,レムニスケートサインの倍角公式は
sl(u+v)=(sl(u)sl'(v)+sl(v)sl'(u))/(1+sl^2(u)sl^2(v))
sl(2u)=2sl(u)sl'(u)/(1+sl^4(u))
sl'(u)=(1-sl^4(u))^1/2
sl(2u)=2sl(u)(1-sl^4(u))^1/2/(1+sl^4(u))=2x(1-x^4)^1/2/(1+x^4)
のようになり,レムニスケートサインとその導関数が正弦関数とその導関数である余弦関数にいかに類似しているかわかるだろう.
2u=sl^(-1)(2x(1-x^2)^1/2/(1+x^4))
したがって,レムニスケート積分の倍角公式
2∫(0,x)f(t)dt=∫(0,2x(1-x^4)^1/2/(1+x^4))f(t)dt
2G(x)=G(2x(1−x^4)^1/2/(1+x^4))
が成り立つ.2x(1-x^4)^1/2/(1+x^4)もxから四則演算および平方根により得られるので,円同様,レムニスケートも定規とコンパスだけで弧長を2倍にする作図が可能であることを示している.
実際,ファニャーノは倍角公式,4倍角公式によって得られるものに置き換えて,レムニスケートの四半弧の2等分あるいは4等分を与える代数方程式を導いたとされている.たとえば,レムニスケートサインの倍角公式より,
2z(1−z^4)^1/2/(1+z^4)=1
と置くことによって
z^2=√2−1
z=(-1+√2)^1/2=0.643594
が得られる.すなわち,レムニスケート弧長の2等分点は四則演算および平方根により得られるので,円同様,レムニスケートの4半弧も定規とコンパスだけで弧長を1/2倍にする作図が可能であることが示される.
[補]1751年,オイラーは逆正弦関数の加法定理
G(x)+G(y)=G(x(1−y^2)^1/2+y(1−x^2)^1/2)
との類似に基づいて,レムニスケート積分に対する加法定理
G(x)+G(y)=G((x(1−y^4)^1/2+y(1−x^4)^1/2))/(1+x^2y^2))
を構成することに成功している.加法公式においてx=yとおけば,倍角公式を得ることができる.
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【2】レムニスケートサインのn倍角公式
レムニスケート弧長のn等分点を求めるには,sl(nu)=1として方程式を解いてsl(u)の値を求めることになるのだが,sl(nu),n≧3をsl(u)の関数として表すことは大層複雑であって,よほど筆算が好きな計算マニアであっても,この計算は到底太刀打ちできないであろう.おそらくファニャーノもレムニスケート弧長の3等分あるいは5等分を与える代数方程式を導いただけで,解を示すことはできなかったと思われる.
そこで,結論だけを示すと,3等分点は
sl(u/3)=1/2(1-(√2)(3)^1/4+√3)=0.435421
で与えられる(→作図可能).
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【3】レムニスケート積分からワイエルシュトラスの標準形へ
しかし,5等分点ともなると,Mathematicaで展開しても言葉が一切入らない数式が数ページにもおよび,どうしても5等分点は得られなかった.レムニスケート周長の5等分問題を扱うには,レムニスケートサインによる定式化ではうまくいきそうになく,ワイエルシュトラスの標準形
∫(∞,0)du/(4u^2-g2u-g3)^(1/2)
の特別な場合として扱うことにした.ワイエルシュトラスのペー関数pの加法公式は,レムニズケートサインの場合とは異なり,有理関数となるから,計算上のアドバンテージが得られるからだ.
∫(0,x)1/(1-x^4)^(1/2)dx
は変数変換
x=1/√z,dz=−z^(-3/2)/2dz
により
∫(x,∞)1/(4z^3-4z)^(1/2)dz
となる.これは慣用の記号でg2=4,g3=0のワイエルシュトラスの標準形である.
ワイエルシュトラスのペー関数p(u)を単にpと略記すると
[1]微分方程式は
(p’)^2=4p^3−4p
p”=6p^2−2
p^(3)=12pp’
p^(4)=120p^3−72p
[2]加法定理
p(u+v)=−p(u)−p(v)+1/4{(p’(u}−p’(v})/(p(u}−p(v})}^2
は,v→uの極限で倍角公式
p(2u)=−2p(u)+1/4{p”(u}/p’(u}}^2
=−2p+1/4・(6p^2−2)^2/(4p^3−4p)
=(p^4+2p^2+1)/(4p^3−4p)
を得る.
以下,v→2u,3u,4uとすると3倍角,4倍角,5倍角公式が得られる.ここで,レムニスケートの4半弧を定規とコンパスで2等分できることを示すために
p(2u)=(p^4+2p^2+1)/(4p^3−4p)
において,p(u)=p,p(2u)=1とおく.すると,
(p^4+2p^2+1)=(4p^3−4p)
より,p=1+√2=z
x=1/√z=(-1+√2)^1/2=0.643594(→作図可能)
こうして,ファニャーノはレムニスケートの四半弧を同じ長さの2つの弧へ分解することができることを示した.もう一度この手続きを繰り返すと4半角公式,2等分を3回繰り返すと8半角公式,・・・.これによって1/2^n倍に対する値が導かれる.
p(2u)=(p^4+2p^2+1)/(4p^3−4p)=1+√2
を解く.解析解はとても長くなるが,作図可能であることを示すことができる(近似解のみを示すと,p=9.33034).引き続き
p(2u)=(p^4+2p^2+1)/(4p^3−4p)=9.33034
を解いて,p=37.2407.
2等分点はp(u)=1+√2 (作図可能)
3等分点はp(u)=1+√3+√(3+2√3) (作図可能)
さらに,
p(5u)=1
を解いて,
p(u)=w,z=1/√w
とすると,
w=(2+√5+√(5+2√5))+√(−1+(2+√5+√(5+2√5))^2)=14.5588 (作図可能)
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【4】∫1/(1-x^6)^(1/2)dxの場合
ついでに
∫1/(1-x^6)^(1/2)dx
について考えてみたい.変数変換
x=1/√z,dz=−z^(-3/2)/2dz
により
∫(x,∞)1/(4z^3-4)^(1/2)dz
となる.これは慣用の記号でg2=0,g3=4のワイエルシュトラスの標準形である.
ワイエルシュトラスのペー関数p(u)を単にpと略記すると
[1]微分方程式は
(p’)^2=4p^3−4
p”=6p^2
p^(3)=12pp’
p^(4)=120p^3−48
[2]加法定理
p(u+v)=−p(u)−p(v)+1/4{(p’(u}−p’(v})/(p(u}−p(v})}^2
は,v→uの極限で倍角公式
p(2u)=−2p(u)+1/4{p”(u}/p’(u}}^2
=−2p+1/4・(6p^2)^2/(4p^3−4)
=(p^4+8p)/(4p^3−4)
を得る.
p(2u)=(p^4+8p)/(4p^3−4)=1
より,p=1+√3=z
x=1/√z=((-1+√3)/2)^1/2
p(2u)=(p^4+8p)/(4p^3−4)=1
より,p=1+√3=z(→作図可能).
次に
p(2u)=(p^4+8p)/(4p^3−4)=1+√3
を解く.解析解はとても長くなる.近似解のみを示すと
p=10.8517
引き続き
p(2u)=(p^4+8p)/(4p^3−4)=10,8517
を解いて,p=43.4021.
すなわち,この曲線は定木とコンパスで弧長が2等分,4等分,8等分できることがわかったが,3等分点は
p(u)=2+2・2^1/3+^2/3
で作図不可能であることも示される.
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