■シュタイナーの定理におけるオイラー・フース型定理

 接する円の族に関する定理では何百という美しい定理があるが,シュタイナー円鎖について述べておきたい.シュタイナーの定理とは「小円を大円の内部におき,この2つの円の中間に次々に接する円列を作る.たいていの場合,最後の円は重なってしまい,この円列は互いに接する円環をなさない.しかしときとして完全な円環をなす場合がある.このとき,最初の円をどこに選ぼうとも完全な円環をなす.」というものである.

 シュタイナーの定理では,円鎖がうまく閉じるはどうかに関わらず,円鎖を構成する円の中心はすべてひとつの楕円上にある.シュタイナーの定理でn→∞とすると,アルキメデスのアルベロスになる.アルキメデスのアルベロス(靴屋のナイフ)円列はシュタイナーの円鎖の特別な場合になっていて,円の中心はすべて基線上に長径をもつ楕円の上にのっている.この円列の円の中心から基線までの距離は半径の2倍,4倍,8倍,・・・となる(パップス).

 シュタイナーの定理とポンスレーの定理に共通する特徴は,2つの円が同心円ならば自明であるということである.ポンスレーの定理が成り立つような2円を見つけることは容易ではないが,シュタイナーの定理は最初の2円が同心円になるような反転を考えると容易に証明できる.反転によって,接する2円は接する2円か,円とその接線か,平行な2直線のいずれかにに移る.また,平面上の交わらない2つの円を同心円に移す写像が存在する.シュタイナーの定理はこれらの事実に基づいて証明されるのである.

 シュタイナーの定理が使いにくいのは,はじめの2つの円の中心間距離の条件(オイラー・フース型定理)が与えられていないためである.ここでは

  大円(半径R),小円(半径r),中心間距離d

として,シュタイナーの定理に対応するオイラー・フース型定理を導出する.

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【1】同心円への帰着

 シュタイナーの定理は最初の2円が同心円になるような反転を考えると容易に証明できる.メビウス変換

  w=(az+b)/(cz+d)

は円を円に変換する.(この変換は円は円に移り,直線も円へ移るという性質を併せもつ.)たとえば,[0,i,−i]を[1,−1,0]に移す変換は

  w=−(z+i)/(3z−i)

となる.

 簡単にするため,

  大円(半径1),小円(半径r),中心間距離d

最初の2円の直径端と中心がそれぞれ

  [−1,0,1],[α,(α+β)/2),β]   (α+β>0)

にあると仮定しても一般性は失われない.

  1=(a+b)/(c+d)

  −1=(−a+b)/(−c+d)

  α=b/d

を解くと

  w=(z+α)/(αz+1)

は半径1の円板をそれ自身に移し,[−1,0,1]はそれぞれ[−1,α,1]に移されることがわかる.(円板の中心が円板の中心に移されるわけではない).

 このとき,[α,β]が[−r,r]に移されるためには,

  (α+a)/(aα+1)=−(β+a)/(aβ+1)

より,aに関する2次方程式

  a^2+2a(1+αβ)/(α+β)+1=0   (−1<a<0)

に帰着される.

  a={−(1+αβ)±{(1−α^2)(1−β^2)}^1/2}/(α+β)

  r=|(α+a)/(aα+1)|=|(β+a)/(aβ+1)|

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【2】閉包条件

 これで半径rが求まった(R=1).((1+r)/2,0)を中心とした半径(1−r)/2の円が描けることから,1周して鎖が閉じるための条件は,

  2arcsin((1−r)/(1+r))

が2πの整数分の1のときである.

 n個の円で1周するならば,

  2arcsin((1−r)/(1+r))=2π/n

  (1−r)/(1+r)=sin(π/n)

  r=(1−sin(π/n))/(1+sin(π/n))

で与えられる.

 あるいは,n個の円で1周するならば,((R+r)/2,0)を中心とした半径(R−r)/2の円が描けることから,

  (R+r)/2:(R+r)/2=1:sin(π/n)

  R=r(1+sin(π/n))/(1−sin(π/n))

で与えられるとしてもよい.

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【3】オイラー・フース型定理の導出

 メビウス変換

  w=(z+a)/(az+1)

の逆変換は

  z=(−w+a)/(aw−1)

である.

  s=(1−sin(π/n))/(1+sin(π/n))

とおくと,

  α=−(s+a)/(as+1)

  β=(−s+a)/(as−1)

である.

 これからsを消去する.第1式より

  a=−(s+α)/(αs+1)

第2式に代入すると

  β=(s(αs+1)+(s+α))/(s(s+α)+(αs+1))

  β(2αs+s^2+1)−α(s^2+1)=2s

  2αβs+(β−α)(s^2+1)=2s

 ここで,

  (α+β)/2=d,(β−α)/2=r

より,

  α=d−r,β=d+r

を代入すると

  d^2−r^2+r(s+1/s)=1

  d^2=r^2−r(s+1/s)+1

  大円(半径R),小円(半径r),中心間距離d

では

  d^2=r^2−rR(s+1/s)+R^2

これがシュタイナーの定理に対応するオイラー・フース型定理である.

 もし,d=0ならば

  (r−sR)(r−R/s)=0

となるが,r=R/sは大円と小円が逆転するのでr=sR.また,s<1/sより,rはd=0のとき最大値sRをとる.

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【4】和算に挑戦

 「外円内に甲乙乙丙丁の5円が,十字型

  (甲)

 (乙丁乙)

  (丙)

に内外接している.外円の直径は6寸,甲円の直径が2寸のとき,丙円の直径を求めよ」という問題を解いてみよう.この問題は,1830年一関の和算家・千葉胤秀編集の「算法新書」より出典とある.

 関係式

  d^2=r^2−rR(s+1/s)+R^2

さえ導き出せればあとは簡単で,題意より

  d+r=1

  n=4のとき,s+1/s=6

  d^2=r^2−rR(s+1/s)+R^2=r^2−18r+9

  d^2=(1−r)^2=r^2−2r+1

  r^2−18r+9=r^2−2r+1

を解くと,

  r=1/2,d=1/2,d−r=0

したがって,丙円の直径は外円の半径に等しい.  (A)3寸

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 これに倣って,円の直径が整数値となる例題をつくってみよう.

 n=3のとき,s+1/s=14

 n=4のとき,s+1/s=6

 n=6のとき,s+1/s=10/3

であるのに対して,

 n=5のとき,s+1/s=22−8√5

 n=8のとき,s+1/s=14−8√2

 n=10のとき,s+1/s=(30−8√5)/5

 n=12のとき,s+1/s=30−16√3

となって,後者では円の直径が整数値となる例をつくることは難しいようである.

 そこで,n=6の場合を考えるが,たとえば「外円内に甲乙乙丙丙丁の6円が戊円を取り巻いて内外接している.

  (甲)

 (乙戊乙)

 (丙丁丙)

外円の直径は18寸,甲円の直径が3寸のとき,丁円の直径を求めよ」という問題になる.

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