■ポンスレーの定理におけるオイラー・フース型定理(その1)

 ポンスレーの定理とは「小円を大円の内部におく.大円上の点P0から小円へ接線を引き,大円と交わる点をP1とする.P1から再び小円へ接線を引き,大円と交わる点をP2とする.この2つの円の中間に次々に接する接線列を作る.たいていの場合,最後の交点は最初の点P0と重ならない.しかしときとして完全に重なる場合がある.このとき,最初の点P0をどこに選ぼうとも完全な多角形環をなす.」というものです.

 ポンスレーの定理は,2つの円を2つの楕円ばかりか,どんな円錐曲線に置き換えても成立します.さらに円を球面上の球帽,n角形を球面上の円弧n角形に置き換えても成立します.

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【1】ポンスレーの定理とオイラー・フースの定理

 ポンスレーの定理において,一方の円(半径R)に内接し,もう一方の円(半径r)に外接する三角形は無数にある.これが成り立つための条件は2つの円の中心間距離をdとして,

  R^2−2Rr=d^2

となることである(オイラーの定理).2つの円が同心円ならばd=0であるから,R=2rが成り立つ.

 四角形やそれ以上のn角形についても同様の定理が成り立ち,ひとつの円に内接し,他の円に外接する四(n)角形は無数にある.オイラーの定理のn角形版として,フースの定理が知られている.たとえば,内接円と外接円の両方をもつ四角形(双心四角形)では,

  2r^2(R^2+d^2)=(R^2−d^2)^2    (フースの定理)

が成り立つ.2つの円が同心円ならばd=0であるから,R=√2rが成り立つ.また,双心四角形の2組の対辺上の内接円の接点を結ぶ線分は互いに直交する.

  R^2−2Rr=d^2   (オイラーの定理)

  2r^2(R^2+d^2)=(R^2−d^2)^2    (フースの定理)

は初等幾何学的に大学入試程度の問題に還元できる.

[1]オイラーの定理の証明

 内接円の中心を原点にとると,等辺となる直線は

  xcosθ+ysinθ=r

外接円との交点をA(x1,−r),B(0,R+d)とすると,

  x1cosθ=r(1+sinθ)

  (R+d)sinθ=r

 二等辺三角形の等辺の長さは正弦定理より

  a/sin(π/2−θ)=a/cosθ=2R

 また,二等辺三角形の半分の直角三角形に注目すると

  (R+d+r)/a=cosθ

  R+d+r=2R(cosθ)^2

さらに相似三角形より

  r/(R+d)=sinθ

  2Rr^2/(R+d)^2=2R(sinθ)^2

 2つの方程式からθを消去すると,オイラーの定理

  R^2−2Rr=d^2

が示される.

[2]フースの定理の証明

 凧型の代わりに等脚台形を考えることにする.内接円の中心を原点にとると,脚となる直線は

  xcosθ+ysinθ=r

外接円との交点をA(x1,−r),B(x2,r)とすると,

  x1cosθ=r(1+sinθ)

  x2cosθ=r(1−sinθ)

これらは

  x1x2=r^2

を満たす.

 また,外接円の中心O(0,−d)と点A,点Bとの距離の2乗はR^2となることより

  x1^2=R^2−(r−d)^2

  x2^2=R^2−(r+d)^2

  x1^2x2^2=r^4

に代入して整理すると

  2r^2(R^2+d^2)=(R^2−d^2)^2

が得られる.

 フースは双心五角形,六角形,七角形,八角形に関する同様の公式も見つけたとされるが,彼は本当に基底を見つけたのだろうか? 大いに疑問感ずる.彼が計算方法を与える方程式を示しただけではなかろうかと思われるのである.フースの論文(Nova Acta Petropol XIII, 1798)を入手するのは難しそうである.そこで,以下では,双心五角形,六角形,七角形,八角形,(九角形,十角形,・・・)の場合を検証してみることにしたい.

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【2】リンク機構とグレブナー基底

 複数の棒を互いに結合してできる連接棒を「リンク装置」と呼びます.連接棒の一点を直線や曲線に沿って動かすとき,複雑な変化のある曲線を描くことができます.たとえば,ジェームズ・ワットのリンケージは蒸気エンジンのピストンロッドなどに実用化されています.また,ポースリエの反転器は円運動を直線運動に,直線運動を円運動に変換する機構で,リンク装置の用途は多方面にわたっています.

 ところで,連結クランク上の点の軌跡は,一般的な形の多項式

  f(x)=c+Σricos(δi)

  g(y)=c+Σrisin(δi)

に書き換えることができますが,これを数式処理ソフトのグレブナー基底計算プログラムを用いて,代数曲線φ(x,y)=0として表すことができます.

 ここでは,平面上で回転できる関節を考えましたが,さらに,回転と同時に伸縮も可能な関節を考えます.すると,オイラー・フースの定理の拡張版は,連立方程式

  xicosθi+yisinθi=ci   (ヘッセの標準形)

  xi^2+(yi−ci)^2=γi^2

のグレブナー基底を計算することによって得られることがわかります.

[1]n=5の場合

 内接円の中心を原点にとる.外接円との交点をA(x1,−r),B(x2,y2),C(0,R+d)とすると,

  x1cosθ−rsinθ=r

  x2cosθ+y2sinθ=r

  x2cosφ+y2sinφ=r

  (R+d)sinφ=r

 また,外接円の中心O(0,d)と点A,点Bとの距離の2乗はR^2となることより

  x1^2+(r+d)^2=R^2

  x2^2+(y2−d)^2=R^2

[2]n=6の場合

 内接円の中心を原点にとる.外接円との交点をA(x1,−r),B(x2,y2),C(x3,r)とすると,

  x1cosθ−rsinθ=r

  x2cosθ+y2sinθ=r

  x2cosφ+y2sinφ=r

  x3cosφ+rsinφ=r

 また,外接円の中心O(0,−d)と点A,点B,点Cとの距離の2乗はR^2となることより

  x1^2+(r−d)^2=R^2

  x2^2+(y2+d)^2=R^2

  x3^2+(r+d)^2=R^2

 θとφを消去するにはどうしたらよいか? 実はこれらに対しては,単純にグレブナー基底を計算せよというコマンドを入力することによって,次の結果が得られた.

[1]双心五角形

  d^6−2d^4rR+8d^2r^3R−3d^4R^2−4d^2r^2R^2+4d^2rR^3+3d^2R^4+4r^2R^4−2rR^5−R^6=0

[2]双心六角形

  3d^8−4d^6r^2−12d^6R^2+4d^4r^2R^2−16d^2r^4R^2+18d^4R^4+4d^2r^2R^4−12d^2R^6−4r^2R^6+3R^8=0

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[3]n=7の場合

 内接円の中心を原点にとる.外接円との交点をA(x1,−r),B(x2,y2),C(x3,y3),D(0,R+d)とすると,

  x1cosθ−rsinθ=r

  x2cosθ+y2sinθ=r

  x2cosφ+y2sinφ=r

  x3cosφ+y3sinφ=r

  x3cosψ+y3sinψ=r

  (R+d)sinψ=r

 また,外接円の中心O(0,d)と点A,点B,点Cとの距離の2乗はR^2となることより

  x1^2+(r+d)^2=R^2

  x2^2+(y2−d)^2=R^2

  x3^2+(y3−d)^2=R^2

[4]n=8の場合

 内接円の中心を原点にとる.外接円との交点をA(x1,−r),B(x2,y2),C(x3,y3),D(x4,r)とすると,

  x1cosθ−rsinθ=r

  x2cosθ+y2sinθ=r

  x2cosφ+y2sinφ=r

  x3cosφ+y3sinφ=r

  x3cosψ+y3sinψ=r

  x4cosψ+rsinψ=r

 また,外接円の中心O(0,−d)と点A,点B,点Cとの距離の2乗はR^2となることより

  x1^2+(r−d)^2=R^2

  x2^2+(y2+d)^2=R^2

  x3^2+(y3+d)^2=R^2

  x4^2+(r+d)^2=R^2

 θとφとψを消去するにはどうしたらよいか? これらに対しては,単純にグレブナー基底を計算せよというコマンドを入力しても結果は得られす,一工夫が必要であった.なお,グレブナー基底の正誤を確かめるには作図してみるしかないが,これらは実際に作図してみて,正しいことを確認している.

[3]双心七角形

  d^12+4d^10rR−24d^8r^3R+32d^6r^5R−6d^10R^2−4d^8r^2R^2−16d^6r^4R^2−20d^8rR^3+64d^6r^3R^3+15d^8R^4+16d^6r^2R^4+32d^4r^4R^4+64d^2r^6R^4+40d^6rR^5−48d^4r^3R^5−32d^2r^5R^5−20d^6R^6−24d^4r^2R^6−16d^2r^4R^6−40d^4rR^7+15d^4R^8+16d^2r^2R^8+20d^2rR^9+8r^3R^9−6d^2R^10−4r^2R^10−4rR^11+R^12=0

[4]双心八角形

  d^16−8d^14r^2+8d^12r^4−8d^14R^2+40d^12r^2R^2+48d^10r^4R^2−128d^8r^6R^2+128d^6r^8R^2+28d^12R^4−72d^10r^2R^4−264d^8r^4R^4+128d^6r^6R^4−56d^10R^6+40d^8r^2R^6+416d^6r^4R^6+128d^4r^6R^6+128d^2r^8R^6+70d^8R^8+40d^6r^2R^8−264d^4r^4R^8−128d^2r^6R^8−56d^6R^10−72d^4r^2R^10+48d^2r^4R^10+28d^4R^12+40d^2r^2R^12+8r^4R^12−8d^2R^14−8r^2R^14+R^16=0

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[2]n=9の場合

 内接円の中心を原点にとる.外接円との交点をA(x1,−r),B(x2,y2),C(x3,y3),D(x4,y4),E(0,R+d)とすると,

  x1cosα−rsinα=r

  x2cosα+y2sinα=r

  x2cosβ+y2sinβ=r

  x3cosβ+y3sinβ=r

  x3cosγ+y3sinγ=r

  x4cosγ+y4sinγ=r

  x4cosδ+y4sinδ=r

  (R+d)sinδ=r

 また,外接円の中心O(0,d)と点A,点B,点C,点Dとの距離の2乗はR^2となることより

  x1^2+(r+d)^2=R^2

  x2^2+(y2−d)^2=R^2

  x3^2+(y3−d)^2=R^2

  x4^2+(y4−d)^2=R^2

[6]n=10の場合

 内接円の中心を原点にとる.外接円との交点をA(x1,−r),B(x2,y2),C(x3,y3),D(x4,y4),E(x5,r)とすると,

  x1cosα−rsinα=r

  x2cosα+y2sinα=r

  x2cosβ+y2sinβ=r

  x3cosβ+y3sinβ=r

  x3cosγ+y3sinγ=r

  x4cosγ+y4sinγ=r

  x4cosδ+y4sinδ=r

  x5cosδ+rsinδ=r

 また,外接円の中心O(0,−d)と点A,点B,点C,点Dとの距離の2乗はR^2となることより

  x1^2+(r−d)^2=R^2

  x2^2+(y2+d)^2=R^2

  x3^2+(y3+d)^2=R^2

  x4^2+(y4+d)^2=R^2

  x5^2+(r+d)^2=R^2

 α,β,γ,δを消去するにはどうしたらよいか? これらに対しては,コンピュータ計算をもってしてもお手上げであった.

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