■和算と算額(その5)

 和算ではデカルトやソディー,アポロニウスのガスケットなど,互いに接する円や直線図形の問題がきわめて多いことがひとつの特徴となっている.

 前回のコラムで,半径1の円の中に半径1/2の円を2つ内接させるアポロニウスのガスケットを取り上げたが,今回のコラムでは半径1の球が半径1/2の平行な円筒2つによって切り取られる体積の問題(ビビアーニの球面)を紹介したい.ビビアーニはガリレオの弟子.

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【1】ビビアーニの球面

 円筒がひとつならば球との交線は空間8の字曲線を描くことになる.とはいっても図が複雑すぎてここに描くことができない.

 答えだけを紹介することになるのだが,一般に球の半径をrとすると残った球の体積は128r^3/9,残った球の表面積は32r^2になる.球の問題なのにπはつかないのである.

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【2】円と三角形に関する問題・・・フォイエルバッハの9点円

 和算ではフォイエルバッハの9点円やマルファティの問題なども取り扱われています.

(Q)3個の傍接円(半径r1,r2,r3)に接する円(フォイエルバッハの9点円)の半径を求めよ.

(A)r=(r1+r2)(r2+r3)(r3+r1)/8(r1r2+r2r3+r3r1)

 フォイエルバッハの9点円が三角形の内接円と傍接円の各々に接するなど,三角形のような簡単な図形が無数に未知の性質を有することはまことに不思議なことです.平面図形の中で3本またはそれ以上の直線が1点で交わっていることを主張する定理が共点定理です.三角形の5心とは内心,傍心,重心,外心,垂心を指しますが,たとえば,三角形の各頂点から対辺に引いた3つの中線や垂線は1点に会するなど,三角形の5心の存在は共点定理の例となっています.

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【3】円と三角形に関する問題・・・マルファティの問題

(Q)与えられた三角形の内部に,それぞれ2辺ずつに接し,互いに外接する3個の円を作図せよ.

・・・というのがマルファティの問題である.イタリアのマルファティが1803年に提唱し,約20年後,スイスのシュタイナーが定規とコンパスによる作図に成功した.しかし,安島直円がこの問題を与えその解答を述べたのはマルファティの論文よりも約30年前のことである.

(Q)互いに外接する3個の円(半径r1,r2,r3)がある.これらに外接する三角形に内接する円の半径rを求めよ.

(A)r=2√r1r2r3/{√r1+√r2+√r3−√(r1+r2+r3)}

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 マルファティは3個の円の面積の和が最大になると信じていたらしいが,今日ではどのような三角形についてもマルファティの円は最大面積を与えるものではないことが証明されている.たとえば,正三角形について計算すると,マルファティの3個の円の和よりも,内接円とそれに外接しそれぞれ2辺に接する2個の小円の和のほうわずかに大きいことが計算できる.

 ところで,3次元空間の四面体では必ずしも3面に接し互いに外接する4個の球を作ることができない.また,正四面体については互いに接する4個の球が4個の球の体積を最大にするらしい(少なくとも内接球と3個の小球の和よりも大きい).これらは平面幾何学の問題を3次元あるいはそれ以上に拡張する困難さを示している.

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