一般にR^n内の互いに接するn+2個の球面の系があるとする.このとき,接点がすべて異なるならばこれらn+2個の球面はすべて外接するか,または,ある球面が他のn+1個の球面を含むことになる.このような互いに接するn+2個の球面の系については,球面の半径の逆数に関する単純な等式がある.
(Σ1/ri)^2=nΣ(1/ri)^2
n=2の場合,互いに外接する4個の円の半径の逆数の間の等式
(Σ1/ri)^2=2Σ(1/ri)^2
5個の互いに外接する球に関しては
(Σ1/ri)^2=3Σ(1/ri)^2
が成立する.
デカルトの円定理(1643年)はシュタイナー(1826年),ビークロフト(1842年),ソディー(1936年)によって独立に再発見されたというわけである.
[補]ビークロフトの定理
「4つの円が互いに接している場合,それら4つの円と接点を共有する互いに接する別の4つの円が存在する.」
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【1】反転の応用
接する円の族に関する定理では何百という美しい定理があるが,シュタイナー円鎖について述べておきたい.小円を大円の内部におき,この2つの円の中間に次々に接する円列を作る.たいていの場合,最後の円は重なってしまい,この円列は互いに接する円環をなさない.しかしときとして完全な円環をなす場合がある.これがシュタイナー円鎖である.
最も簡単なものとしては,たとえば,半径が3と1の同心円に対しては6個の単位円よりなるシュタイナー円鎖が存在し,円の中心の軌跡は半径2の円となる(円の最密充填).シュタイナー円鎖をなす円の中心の軌跡は楕円となる.
アルキメデスのアルベロス(靴屋のナイフ)円列はシュタイナーの円鎖の特別な場合になっていて,円の中心はすべて基線上に長径をもつ楕円の上にのっている.この円列の円の中心から基線までの距離は半径の2倍,4倍,8倍,・・・となる(パッポス).
ソディー(アイソトープの発見でノーベル賞を受賞した英国の化学者)の6球連鎖はシュタイナー円鎖の3次元版であるが,シュタイナー円鎖の場合とは異なって,球連鎖は常に繋がり必ず6個の球からなる.そして6個の球の中心,球同士の接点はすべて同一平面上にあるのである.
反転によって,接する2円は接する2円か,円とその接線か,平行な2直線のいずれかにに移る.また,平面上の交わらない2つの円を同心円に移す写像が存在する.シュタイナーやソディーの定理はこれらの事実に基づいて証明されるのである.
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【2】シュタイナーの反転法
シュタイナー鎖では同心円でなく,また交わりもせずに一方の円が他方の円の中に入っている状態で,この2つの円の間に連結する半径が異なる小円の鎖が内接している.これの3次元版がソディーのhexlet(6球連鎖)である.
ポンスレーの定理が成り立つような2円を見つけることは容易ではないが,シュタイナーの定理は最初の2円が同心円になるような反転を考えると容易に証明できる.メビウス変換
z’=(az+b)/(cz+d)
は円を円に変換する.
シュタイナーは反転法によって,鎖の間の連結する小円の半径やはじめの2つの円の中心間距離などの条件を求めた.
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[1]反転(円円対応と等角変換)
ユークリッド平面の反転ではまず定点Oを中心とする半径rの定円を考えます.点Pに対して直線OP上に
OP・OQ=r^2
となる点Qをとる写像を円Oに対する反転といいます.
平面の反転によって円の内部の点は外部に移り,周上の点はその点自身に,外部の点は内部に移ることは明らかですが,
(1)点Oを通らない円は,Oを通らない円に移る
(2)点Oを通る円は,Oを通らない直線に移る
(3)点Oを通る直線は,それ自身に移る
直線および円は直線または円になるというわけですが,直線も半径が無限大の円と考えることができますから,反転の特徴は「円は円に変換される」ということができます.
空間の反転では円,直線をそれぞれ球面,平面に読みかえればよいので
(1)点Oを通らない球は,Oを通らない球に移る
(2)点Oを通る球は,Oを通らない平面に移る
(3)点Oを通る平面は,それ自身に移る
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反転のもう一つの特徴は2曲線のなす角を変化させない「等角写像」であるということです.反転操作は最も簡単な等角変換ですが,多くの等角写像があり,たとえば,球面上の定点Oから球面上の任意の点PをOを一端とする直径に垂直な平面に移す極投影も等角変換のひとつとなっています.
1次分数変換(メビウス変換)
w=f(z)=(az+b)/(cz+d)
は複素数球面上で考えると1つの回転に対応していて,たとえば,数zを
(z−1)/(z+1)
に置き換えるには,北極と南極が赤道のところにくるように球を90°回転させればよいのですが,この写像は等角写像になります.
等角変換は円は円に移り,直線も円へ移るという性質を併せもつというわけです.
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[2]同心円への帰着
最初の2円の直径端と中心がそれぞれ
[−1,0,1],[α,(α+β)/2),β] (α+β>0)
にあると仮定しても一般性は失われない.
このとき,
w=(z+a)/(az+1)
は半径1の円板をそれ自身に移し,[−1,0,1]はそれぞれ[−1,a,1]に移される.(円板の中心が円板の中心に移されるわけではない).
[α,β]が[−r,r]に移されるためには,
(α+a)/(aα+1)=−(β+a)/(aβ+1)
より,aに関する2次方程式
a^2+2a(1+αβ)/(α+β)+1=0 (−1<a<0)
に帰着される.
a={−(1+αβ)±{(1−α^2)(1−β^2)}^1/2}/(α+β)
r=|(α+a)/(aα+1)|=|(β+a)/(aβ+1)|
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[3]閉包条件
これで半径rが求まった(R=1).((1+r)/2,0)を中心とした半径(1−r)/2の円が描けることから,1周して鎖が閉じるための条件は,
2arcsin((1−r)/(1+r))
が2πの整数分の1のときである.
また,1周して鎖がうまく閉じないときでも,何周か回った後に閉じることもある.
2arcsin((1−r)/(1+r))
=2arctan((1−r)/2√r)
が2πの有理数倍のときである.
シュタイナーの定理において,1周して鎖が閉じるための条件は,
2arcsin((1−r)/(1+r))
が2πの整数分の1のときであるから,n個の円で1周するならば,
2arcsin((1−r)/(1+r))=2π/n
(1−r)/(1+r)=sin(π/n)
r=(1−sin(π/n))/(1+sin(π/n))
で与えられる.
大円(半径1),小円(半径r),中心間距離d
として,シュタイナーの定理に対応するオイラー・フース型定理を導出すると,
s=(1−sin(π/n))/(1+sin(π/n))
とおくと
d^2=r^2−r(s+1/s)+1
大円(半径R),小円(半径r),中心間距離d
では
d^2=r^2−rR(s+1/s)+R^2
これがシュタイナーの定理に対応するオイラー・フース型定理である.
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