■和算と算額(その2)

[参]深川英俊・ダンペドー「日本の幾何−何題解けますか?」森北出版

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【1】デカルトの4円定理(1643年)

(Q)互いに外接する3個の円(半径r1,r2,r3)がある.これらすべてに外接する円の半径rを求めよ.

(A)r=r1r2r3/{r1r2+r2r3+r3r1+2√r1r2r3(r1+r2+r3)}

=1/{1/r1+1/r2+1/r3+2√(1/r1r2+1/r2r3+1/r3r1)}

 相異なる2つの球面S1,S2の中心をx1,x2,半径をr1,r2とするとき,S1,S2が接するための必要十分条件は

  |x1−x2|=|r1±r2|

となることである.±は外接か内接かに対応している.

 一般にR^n内の互いに接するn+2個の球面の系があるとする.このとき,接点がすべて異なるならばこれらn+2個の球面はすべて外接するか,または,ある球面が他のn+1個の球面を含むことになる.このような互いに接するn+2個の球面の系については,球面の半径の逆数に関する単純な等式がある.

  (Σ1/ri)^2=nΣ(1/ri)^2

 ただし,Sjが他の球面をすべて含むときはrj=−(Sjの半径)とする.このようにすることで,接する2つの球面間の距離が常に|xi−xj|=|ri+rj|で表される.

 n=2の場合,互いに外接する4個の円の半径の逆数の間の等式

  (Σ1/ri)^2=2Σ(1/ri)^2

が成立し

(1/r1+1/r2+1/r3+1/r)^2=2(1/r1^2+1/r2^2+1/r3^2+1/r^2)

1/r^2+2/r(1/r1+1/r2+1/r3)+(1/r1+1/r2+1/r3)^2=2(1/r1^2+1/r2^2+1/r3^2+1/r^2)

1/r^2−2/r(1/r1+1/r2+1/r3)−(1/r1^2+1/r2^2+1/r3^2+1/r^2)+2(1/r1r2+1/r2r3+1/r3r1)=0

 この2次方程式を整理すると(A)と同じ式が得られる(デカルトの円定理).n=2,3の場合は和算家達によっても得られていた(デカルトの円定理の拡張).

(Q)与えられた円(半径R)の内部に互いに外接する3個の等円(半径r)があるとき,rを求めよ.

(A)この場合は

(1/r1+1/r2+1/r3+1/r)^2=2(1/r1^2+1/r2^2+1/r3^2+1/r^2)

において,r1=r2=r3=r,r=−Rとする. → r=(2√3−3)R

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【2】ソディーのhexlet(6球連鎖)

 ソディーの定理(1936年)とは「半径a,b,cなる互いに接する3個の球K1,K2,K3のどれにも接する球Siの鎖の数は,常に6個となり,球の半径の逆数をρi (i=1~6)とすると

  ρ1+ρ4=ρ2+ρ5

が成立する」というものである.

 これには5個の互いに外接する球に関するデカルトの定理

  (Σ1/ri)^2=3Σ(1/ri)^2

が使われている.ソディーは同位元素の研究でノ−ベル化学賞を受賞した化学者であるが,彼もまたデカルトの定理を再発見したのである.

 この定理も100年以上も前(1822年)に和算家が得ていたものであるが,特に名前はつけていない.

 とくに,球K1(r)内に互いの外接する2個の等しい球K2(r/2),K3(r/2)が内接していて,それらに外接する6個の等しい球S1-6がループを作っているとき,その半径はr/3となる.

 また,半径Rの球に正四面体をなすように互いに外接する4個の半径の等しい大球(半径r1)を内接させる.正四面体の各面の中心の隙間に4個の中球(半径r2),その隙間に12個の小球(半径r3)をおくと,6個の内接球r1r2r3r3r2r1のループができる.

 このとき

  r1=(√6−2)R,

  r2=(√6−2)R/5,

  r3=(3√6−2)R/25

を得るが,これは10才の少年により提出された和算の問題だそうである.有名なソディーと無名の10才の少年・・・.

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【3】おまけ(数珠つなぎの円板)

 1世紀半前(1856年)の和算の有名な問題に「数珠つなぎの円板」がある.

(Q)同じ大きさの円がn個連結して輪を作っている.円の中心を結んでできる多角形の内側にある面積と外側にある面積を求めよ.

(A)n個の円は互いに重なり合わず接しているから円の中心を結んでできる多角形はn角形である.その内角の和はπ(n−2)となるが,内側にある扇形の面積は中心角に比例するから,これは円

  π(n−2)/2π=n/2−1

個分の面積に相当する.したがって,外側にある面積は円n/2+1個分である.

 円が何個つながっていようともnに関係なく外側の面積は内側の面積よりも常に円2個分広いわけである.

  S2−S1=2πr^2

 このことは少なくとも私にとっては意外な結果であり,いまでも強く印象に残っている.この問題を解析的に解こうとすると(グレブナー基底を用いた)ロボットアームの可動範囲の特定にも応用できそうな現代的な問題になるからである.以下,その概略を述べてみよう.

 単位円(半径1)の場合について考えてみるが,円の中心を(xi,yi)とし,(yi+1−yi)/(xi+1−xi)=tanθiとおく.(x1,y1)=(0,0),(x2,y2)=(2,0)として標準化するが,

  x1=xn+1=0,y1=yn+1=0,cosθ1=1,sinθ1=0

 隣り合う円は接することより

  xn+1−xn=2cosθn,yn+1−yn=2sinθn

  xn=2Σcosθn,yn=2Σsinθn

ここで,円が連結して輪を作っていることより

  (Σcosθn)^2+(Σsinθn)^2=1

  cosθ2+cosθ3+・・・+cosθn=−1

  sinθ2+sinθ3+・・・+sinθn=0

 また,円同士が互いに重ならないことから

  (xj−xk)^2+(yj−yk)^2≧1

このことから,たとえばn=4では

  cos(θ2−θ3)≧−1/2,cos(θ3−θ4)≧−1/2

  cos(θ2−θ3)+cos(θ3−θ4)+cos(θ4−θ2)≧−1

  cosθ2≧−1/2,cosθ2+cosθ3+cos(θ2−θ3)≧−1

など多くの付帯条件が成立することが必要になる.

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