ゼータ関数
ζ(s)=Σ1/n^s
において
ζ(2)=1/1^2+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・=π^2/6
以下,ζ(4)=π^4/90,ζ(6)=π^6/945が続きます.
ζ(2n)はπ^2nの有理関数になる,従って,超越数であることはオイラー以来知られていますが,奇数ベキ級数の和ζ(2n+1)についての類似の関係式は何にひとつわかっていませんでした.
つい最近までζ(3)は有理数になるかもしれないと思われていたのですが,ところが,1978年に,フランスの無名の数学者アペリによってζ(3)の無理数性が示されました.それを補ったのがポールテンです.ζ(3)=1.202056・・・に収束するものの,ごく最近までこの値が無理数であることすらわかっていなかったのです.順番が逆になりましたが,今回のコラムでは,元祖アペリ論文の要約を掲げます.
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【1】ζ(3)の無理数性
アペリはζ(3)が無理数であることを示すために,
ζ(3)=Σ1/n^3=5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)
に基づく連分数展開
6/ζ(3)=5-1^6/(117-)2^6/(535-)n^6/(34n^3+51n^2+27n+5)-・・・
を使いました.ζ(3)が無理数ならば,連分数展開は無限列となります.
アペリが行ったことは,より正確には,漸化式
(n+1)^3un+1=(34n^3+51n^2+27n+5)un-n^3un-1
を満たす2つの数列{an}{bn}を構成したことです.たとえば,
an=Σ(n,k)^2(n+k,k)^2
a0=1,a1=5,a2=73,a4=1445,a5=33001,・・・
bnに対する式も,より複雑ではありますが,同様に構成することができます.
bn=Σ(n,k)^2(n+k,k)^2c
c=Σ1/m^3+Σ(-1)^(m-1)/2m^3(m,n)(n+m,m)
b0=0,b1=6,b2=351/4,b4=62531/36,b5=11424695/288,・・・
この漸化式を満たす任意の数列は,
Cα^(±n)/n^(3/2)
(α=17+12√2=(1+√2)^4はx^2−34x+1=0の根)
で指数的に増加(減少)することより,直ちに
bn/an → ζ(3)
が示されます.
まったく同じ論法を用いて,ζ(2)の無理数性も示すことができます.
ζ(2)=Σ1/n^2=3Σ1/n^2(2n,n)
5/ζ(2)=3+1^4/(3+)2^4/(25+)n^4/(11n^2+11n+3)+・・・
(n+1)^2un+1=(11n^2+11n+3)un+n^2un-1
an=Σ(n,k)^2(n+k,k)
bn=Σ(n,k)^2(n+k,k)^2c
c=2Σ(-1)^(m-1)/m^2+Σ(-1)^(n+m-1)/m^2(m,n)(n+m,m)
α=(11+5√5)/2={(1+√5)/2}^5はx^2−11x−1=0の根(黄金比φを用いると,φ^5=3φ+2)
興味深いのは,アペリの証明が最先端の研究結果を使ったものではなく,オイラーが解決していたとしても不思議はないとされるような200年前にはすでにわかっていた定理や手法のみでの証明だったことです.
ζ(3)が無理数であるという証明が発表されたとき,学会場はどよめきの渦に包まれ騒然となったそうですが,アペリは非常に話し下手であり,参加者の多くは半信半疑というよりは懐疑的であったと伝えられています.アペリはマイナーな数学者とされていますが,今から考えると当時主流だった秀才数学者集団,ブルバキに押しつぶされた個性豊かな人物だったようです.
ζ(3)はいまだ無理数であることしかわかっておらず,オイラーによる
ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
という結果(log2の有理式×π^2)があるばかりです(1772年) .
いまだζ(3)が超越数であるかどうかは知られていませんし,ζ(5),ζ(7),・・・が有理数なのか無理数なのかもわかっていません.アペリの方法はζ(5),ζ(7),・・・の場合の拡張されるに至っていないのです.
なお,ζ(2n+1)は有理数と円周率から四則演算によって得られる数ではないだろうと予想されていますが,証明されてはいません.また,log2を含むであろうと推測されています.
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【2】ガンマ関数の例
Γ(1/2)=√πは超越数ですが,ネステレンコの定理より,
Γ(1/3),Γ(1/4)
も超越数であることが導かれます.変数sが有理数値のときのガンマ関数Γ(s)の値は周期と密接に関係しています.そのため,周期を代数的数とπのベキを除いて,有理数変数におけるガンマ関数の有理数ベキの積として表すという試みがあります.
ガンマ関数(オイラーの第2種積分)は,
Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt
ベータ関数(オイラーの第1種積分)は,
B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt
によって定義されます.ベータ関数において,a=m/n,b=1/2とおき,t=x^nと置換すると,
∫(0,1)x^(m-1)/(1-x^n)^(1/2)dx=Γ(m/n)√π/nΓ(m/n+1/2)
したがって,
(m,n)=(1,1)のとき,∫(0,1)1/(1-x^1)^(1/2)dx=2
(m,n)=(1,2)のとき,∫(0,1)1/(1-x^2)^(1/2)dx=π/2
(m,n)=(1,3)のとき,∫(0,1)1/(1-x^3)^(1/2)dx=Γ^3(1/3)/2^(4/3)3^(1/2)π
(m,n)=(1,4)のとき,∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)
が得られます.
レムニスケート周率ωが,
ω=Γ^2(1/4)/2^(3/2)π^(1/2)
と書けるいうわけです.
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【3】超幾何関数の例
ガウスは,1812年に超幾何級数
F(α,β,γ:x)=1+αβ/γx+1/2!α(α+1)β(β+1)/γ(γ+1)x^2+1/3!α(α+1)(α+2)β(β+1)(β+2)/γ(γ+1)(γ+2)x^3+・・・
について非常に詳細な研究を行っていたことで知られています.
この形の超幾何関数はガウスの超幾何関数と呼ばれ,
2F1(α,β;γ:x)
で表されます.また,α,β,γを有理数としたとき,超幾何微分方程式はピカール・フックス型になります.
オイラーの積分表示によって
2F1(α,β;γ:x)=Γ(γ)/Γ(α)Γ(γ−α)∫(0,1)t^(α-1)(1-t)^(γ-α-1)(1-xt)^(-β)dt
が成り立ちます.
(1-xt)^(-β)
を2項定理を用いて展開すると
(1-xt)^(-β)=Σ(-β,n)(-xt)^n=Σ[β]/n!(xt)^n
が得られます.これとベータ関数
B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt
を組み合わせることで,オイラーの積分表示が示されます.
たとえば,楕円積分に関係した超幾何関数値
2F1(1/2,1/2,2,1)=4/π
において,この余計な1/πはガンマ関数の相補公式
Γ(x)Γ(1-x)=π/sinπx
から派生してくるものとも考えられるわけですが,超幾何関数の代数的な変数での特殊値は,1/πを除いて周期となります.
超幾何関数の代数的な変数での特殊値はふつう超越的ですが,ときどき予期されない代数的値をとることがあります.例をあげると,楕円積分と関わる保型関数
4√E4(z)=2F1(1/12,5/12;1;1728/j(z))
とのつながりから,ガウスの超幾何関数
2F1(1/12,5/12;1/2;1323/1331)=3/4・4√11
など,思いもかけないような式が得られています.
これと似たようなふるまいをする簡単な例は,無限級数(n=0~)
Σ(n!)^2*3^n/(2n+1)!=4π/3√3
です.一般に,F(x)=Σanx^nとおくと,a0=1で連続する2項の係数比
an+1/an
が定数となる関数を超幾何関数と呼ぶのですが,この級数の項比は
an+1xn+1/anxn=3(n+1)^2/4(n+3/2)・x/(n+1)
ですから,
Σ(n!)^2*3^n/(2n+1)!=a0*2F1(1,1,3/2|3/4)
また,a0=1より
Σ(n!)^2*3^n/(2n+1)!=2F1(1,1,3/2|3/4)
より,級数Σ(n!)^2*3^n/(2n+1)!は超幾何級数2F1(1,1,3/2|3/4)であると同定されます.
また,無限級数(n=1~)
Σ1/{n(2n,n)}=1/2*2F1(1,1,3/2|1/4)=π√3/9
Σ1/{(2n,n)}=1/2*2F1(1,2,3/2|1/4)={2π√3+9}/27
も同様で,2F1→3F2→4F3→・・・と進んで,現在,一般化された超幾何関数nFn-1が代数的になる条件はボイカーズとヘックマンにより決定されています(1989年).
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