(その1)で紹介した論文は,ボイカーズによるζ(3)の無理数性の証明を一般化したもののようでした.今回のコラムでは,ボイカーズ論文の要約を掲げます.
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【1】周期
新しい数の概念《周期》の定義から紹介することにしましょう.ある数が周期であるとは「代数的係数多項式で与えられる領域c上で,代数係数の代数的関数の積分として表される」ことをいいます.
周期という用語は,2次ないし3次曲線の弧の長さを表す周期積分に由来をもつと思われるのですが,周期はふつう超越数からなり,周期積分唐ノよって超越数の細分類を考えることであるといっても差し支えありません.
周期の例を掲げていきましょう.たとえば,代数的数√2は領域c:2x^2≦1上で,定数関数1の積分
√2=∫(c)dx
と表すことができますから,周期になります.
代数的でない周期の最も簡単な例は円周率πです.πは領域c:x^2+y^2≦1上で,定数関数1の積分
π=∫(c)dxdy
ですが,円の面積として
π=2∫(-1,1)√(1-x^2)dx
円周の長さとして,
π=∫(-1,1)1/√(1-x^2)dx
また,ローレンツ関数のグラフの下の面積に等しいという事実から
π=∫(-∞,∞)1/(1+x^2)dx
など,様々な形の積分を用いて周期として表現できます.さらにまた,代数的数2iをかけると,複素数平面内のz=0の周りの複素積分
2πi=唐р噤^z
で表すことも可能です.
楕円:x2/a2+y2/b2=1の全周は,完全楕円積分4aE(e)となり,代数的には表すことができない超越数ですが,楕円積分は定義からして周期そのものです.
∫(-b,b)(1+(dy/dx)^2)^(1/2)dx
=∫(-b,b)(a^2-k^2x^2)/{(a^2-x^2)(a^2-e^2x^2)}^(1/2)dx
e={(a^2-b^2)/a^2}^(1/2)は離心率
また,リンデマンの定理より代数的数βの対数logβは超越数ですが,たとえば,
log2=∫(1,2)dx/x
より,周期になることがわかります.
これらに対して,自然体数の底
e=lim(1+1/n)^n
やオイラーの定数
γ=lim(Σ1/k−lnn)
は周期ではないと思われています.前者は超越数(エルミート,1873年)であることがわかっていますが,後者は有理数とも無理数ともわかっていません.おそらく超越数なのでしょう.また,周期πの逆数1/πは周期に属しません.なかなか一筋縄ではいかないものです.
ここで,代数的数の集合をQ~,周期の集合をPと書くことにしますが,
Q < Q~ < P < C
周期の集合Pは可算集合であることがわかっています.周期(代数的数と複素数の間にある新しい数の世界)も超越数の候補ではありますが,超越数とは別の由来をもち,次元の異なる数なのです.
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【2】ゼータ関数と周期
ところで,s≧2のすべての整数でのζ(s)値は周期になることがわかっています.たとえば,積分
I=∫(0,1)∫(0,1)1/(1−xy)dxdy/√xy
において,1/(1−xy)を幾何級数として展開し,項別積分すると
I=Σ1/(n+1/2)^2
このとき,
1+1/3^2+1/5^2+1/7^2+・・・
の値が必要になりますが,この値はζ(2)=Σ1/n^2から次のようにして求まります.
1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・
=(1+1/2^2+1/4^2+・・・)(1+1/3^2+1/5^2+・・・)
=1/(1−1/4)・(1+1/3^2+1/5^2+・・・)
分母を奇数のベキ乗だけにすると一般式は
{1-2^(ーs)}ζ(s)
となるのです.したがって,
∫(0,1)∫(0,1)1/(1−xy)dxdy/√xy=(4−1)ζ(2)
さらにζ(3)は,c:0<x<y<z<1として
ζ(3)=∫(c)dxdydz/(1−x)yz
このように,多くの式の無限和も周期となります.
このように,s≧2のすべての整数でのζ(s)値は周期になることがわかっていますが,1979年,ボイカーズは周期積分の原理を用いた証明を見つけました.ボイカーズはアペリの論じている考えを土台にして,
|anζ(3)−bn|<α^(-n)
を導き出したのです.
さらに一歩進んで,数列{an}と{bn}に,重さ2となる保型形式的解釈を与えることによる証明もあるようです.エレガントな証明ですが,解説するには荷が重い・・・生兵法はけがのもと.
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