同じ数学的結果であっても,個人的な趣味(重要度の価値判断)によってはTheoremにもなるし,Propositionにもなるし,Lemmaにもなるし,Corollaryにさえなり得る.したがって,自分が重要と思う結果であっても,査読者によってはまさかのリジェクトを食らわされることもあるし,逆に予想外のアクセプトということもある.数学自身が矛盾を内包しているように思える.
今年はたくさんの論文を仕上げたので,リジェクトされたものも含め,いくつか紹介したい.
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【1】高次元正多面体の元素問題
正多面体についての第1の問題はまず何種類あるかである.3次元には5種類の正多面体がある(ユークリッド).それでは第2の問題.
[Q]何種類かの凸多面体を使ってすべての正多面体を作りたい.その最小数はいくつか?
[A]4種類.
高次元に拡張すると,
[Q]4次元正多面体元素問題 → [A]4種類
[Q]n(≧5)次元正多面体元素問題 → [A]3種類
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【2】高次元の準正多面体
体積の計算が可能でfベクトルが既知の高次元多面体を仮に「可測多面体」と呼ぶことにするが,可測多面体は正多面体を除いてほとんど知られていない.
[参]石井源久「多次元半正多胞体のソリッドモデリングに対する研究」
の考察はすばらしいの一言につきる.このような立派な研究が行われていたことをまったく知らなかったことを恥じ入るばかりであるが,この論文を読んでみると,高次元準正多面体には3つの重要な可測多面体のクラスがあることが理解される.
[1]空間充填2^n+2n面体
[2]置換多面体(面数2(2^n−1),頂点数(n+1)!の空間充填多面体)
[3]面数3^n−1(頂点数2^nn!)の多面体
先日,これらについてのセミナーを行ったが,評判が良かったらしいので,現在中断をしている作業を来年早々にも再開したいと考えている.
体積公式の副産物として,スターリングの公式を図形的に近似することができた.また,スターリングの公式の図形的近似に対して,組み合わせ論的近似も可能かもしれない.n^nは{1,2,3,・・・n}から{1,2,3,・・・n}へのinto写像,n!は{1,2,3,・・・n}から{1,2,3,・・・n}へのonto写像であるからだ.
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【3】シェパード問題の解決
シェパード問題とは面正則多面体の展開図が平面充填できるものをすべて決定せよというものである.最終的にはコンピュータ探索が必要となるのであるが,ステファン・ランゲルマン氏によってJ8が最後のTP多面体であることが証明され,これでTP多面体のリストは23種類ですべてであると決定された.
もうひとつのJZ問題
[Q]正多角形面体のうち,何種類かを用いて空間充填できるものをすべて決定したい.
[A]
(a)立方体だけ
(b)正四面体+正八面体
(c)J91充填
・・・・・・・・・・・
は未解決のままである.
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【4】ペンタドロン模型の完成
ペンタドロンは5種類ある平行多面体(1種類のブロックを平行移動させて空間を隙間なく埋め尽くす)を構成できる5面体で,したがって,230種類ある結晶をたった1個で構成できる究極の構成原理と呼べるものである.
とはいっても知っている人は(たとえいたとしても)少ないであろうが,先日,イメージミッション社の前畑謙次氏やタミヤ模型のご協力の下,プラスチック性磁石付きのペンタドロン模型が完成した.原資,US patent取得の問題で量産はできていないが,実現すれば認知度も高まるだろうと思う.
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【5】平行多面体の変身
ところで,デュドニー分割では,正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されている.この立体版の分割も考えることができる.すなわち,立体Aの表面が立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているというものである.
これは「分解合同」よりも格段難しいリバーシブル問題であるが,このような例として秋山仁先生の「キツネヘビ」「ブタハム」があげられる.菱形十二面体や切頂八面体はよく知られた空間充填立体であるが,実際,菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し,切頂八面体と直方体の間の立体蝶番返しなど空間充填形同士の蝶番返しが作られていて,秋山先生はこのようなリバーシブルな等積変形多面体をすべて決定する試みをされているというわけである.
5種類ある平行多面体相互間の変身10種とそれ自身への変身5種はすべて可能であることが確認されている.
[1]菱形12面体→六角柱
[2]切頂8面体→六角柱
[3]長菱形12面体→六角柱
の変身では,立体Aの表面は立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているものの,立体Aの断面の一部が立体Bの内部に残ってしまうことがわかった.完全に表裏を翻転させることはできないのだろうか?
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【6】My未解決問題の解決
[1]周長等分問題
ガウスの円周等分理論「コンパスと定規でn等分できるのは,2^2^qi+1の形をした相異なる素数piにより2^mΠpiと書かれる場合である」は円関数ばかりでなく他の超越関数,たとえば,
u=∫(0,x)f(t)=1/(1-t^4)^(1/2)dt
にも応用できる.
周長が
∫1/(1-x^n)^(1/2)dx
で表される曲線について調べた結果
[1]任意等分可能・・・・・・カージオイド
[2]2^mΠpi 等分可能・・・円,レムニスケート
[3]2^m等分可能・・・・・・r^3/2=cos(3θ/2),r^3=cos(3θ)
[4]2等分すら不可能・・・・r^5/2=cos(5θ/2)
であった.(これらはどのように特徴づけられるのであろうか?)
2008年に,レムニスケートサイン関数を用いて,レムニスケートのn等分点を計算したが,どうしても5等分点は得られなかった.ワイエルシュトラスのペー関数を使って5等分点を得ることができた.加法定理が幾分簡単になったためである.ワイエルシュトラスのペー関数の勝利といってよいだろう.
[2]オイラー・フースの関係式の拡張
オイラー・フースの定理の拡張版は,連立方程式
xicosθi+yisinθi=ci
xi^2+(yi−ci)^2=γi^2
のグレブナー基底を計算することによって得られる.
昨年取り組んで尻切れトンボで終わってしまった双心n角形のグレブナー基底であるが,阪本ひろむ氏の協力二より星形n角形を含め,n=8まで完全解決できた.
また,ポンスレーの定理でなく,シュタイナーの定理に対するオイラー・フース型関係式を導出することもできた.
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【7】まさかの・・・
[1]アクセプト
単位円に内接する正n角形の対角線の長さのm乗和Smについて,mが偶数のときは中央2項係数のn倍=(m,m/2)nで表される(m>2n).
指数を偶数乗和に制限する理由はなく,奇数乗和へと一般化することもできるが,mが奇数のときは簡単な式にはならない.
また,単位球に内接する頂点数nの任意次元の正多面体について,Smの大小比較をすると
m=1 正多角形<正多面体
m=2 正多角形=正多面体
m>2 正多角形>正多面体
となって,2乗和だけが普遍性をもっていることがわかる.
[2]リジェクト
4次元正120胞体の頂点をうまくとると,他の正5,8,16,24,600胞体をすべて作ることができる.その意味で,正120胞体は4次元の「万有正多面体」である.
このような性質をもつ正多面体は,すべての次元を通じて唯一正600胞体だけであって,例外中の例外といってもよいものであろう.注目すべきものである.捲土重来.
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【8】寄稿していただいた諸氏諸賢(アルファベット順)
いわまん,一松信,金原博昭,中川宏,阪本ひろむ,佐竹正雄,TNの各氏.
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