P(x)を2次の多項式とするとき,
f(x)=1/(P(x))^(1/2)
F(z)=integral(0-z)f(x)dx
は対数あるいは円関数(三角関数)になりますが,3次,4次の多項式の場合はそうはいかず,初等関数をいくら組み合わせても得られない関数が登場します.P(x)を3次,4次の多項式とするとき,F(z)は楕円積分,その逆関数F-1(z)は楕円関数と命名されています.3次でも4次でもx=1/tとおけば
dx/{x(x-a)(x-b)(x-c)}^(1/2)=-dt/{(1-at)(1-bt)(1-ct)}^(1/2)
となりますから,本質的には同じことです.また,P(x)を5次以上の多項式とするとき,当該の関数は超楕円積分,超楕円関数と呼ばれます.
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【1】レムニスケート積分
f(x)=1/(1-x^4)^(1/2)
u=F(z)=∫(0-z)f(x)dx
は,レムニスケート積分と呼ばれる典型的な楕円積分です.
2定点(−a,0),(a,0)からの距離の和が一定となる点の軌跡は楕円,差が一定の点の軌跡は双曲線です.また,商が一定の点は円(アポロニウスの円)を描きます.それでは積が一定の点はどのよう軌跡を描くでしょうか.
(答)はカッシーニ曲線.
{(x+a)^2+y^2}{(x−a)^2+y^2}=c^2
(x^2+y^2)^2−2a^2(x^2−y^2)=c^2−a^4
r^4−2a^2r^2cos2θ+a^4=c^2
2次の多項式f(x,y)=0,すなわち楕円,放物線,双曲線が円錐を平面で切断したときの切り口として現れたように,カッシーニ曲線はトーラス(ドーナツ)の平面による切断面として現れることが知られています.
定数cが2定点間の距離の半分aの2乗に等しいとき,レムニスケート(双葉曲線)と呼ばれます.レムニスケートは8の字形(8を90°回転させ横向きにした∞形)をしていて,その直交座標系での方程式は4次曲線(x^2+y^2)^2=2a^2(x^2−y^2),極座標系ではr^2=2a^2cos2θとなります.したがって,極座標による式のほうが,直交座標による式よりかるかに簡単です.極座標はベルヌーイの時代より前にもときどき使われていたのですが,極座標を広範囲に使用し,多くの曲線に適用してさまざまな性質を最初に見つけたのは,ヤコブ・ベルヌーイでした.
レムニスケートの弧長lは
l=∫(0-r){1+(rdθ/dr)^2}^(1/2)dr
=∫(0-r)2a^2/{4a^4-r^4}^(1/2)
とくに,a=1/√2とおくと,
l=∫(0-r)1/{1ーr^4}^(1/2)
となります.
このようにして,ベルヌーイはレムニスケートの弧長を
f(x)=1/(1-x^4)^(1/2)
u=F(z)=∫(0-z)f(x)dx
と表しました.これがレムニスケート積分と呼ばれる典型的な楕円積分です.ただし,レムニスケート積分が第1種楕円積分なのに対し,楕円弧長を求める積分は第2種楕円積分であり,パラレルな関係にはありません.
また,
∫(0-1)f(x)dx=1.311028・・・=ω/2
とおくことにしましょう.4ωがレムニスケートの全長です.すなわち,レムニスケートサインは周期4ωをもつことがわかります.円に類比すると,レムニスケートの定数ωは円に対するπと同じ役割を演じていることになります.さらにまた,レムニスケートには円に共通する性質があり,定規とコンパスだけで奇数のn等分することができる必要十分条件はnがフェルマー素数(n=22^m+1の形の素数:3,5,17,257,65537)であることです.
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【2】レムニスケートサイン
F(z)の逆関数であるレムニスケートサインsl(u)を求めてみることにしましょう.実際に1/(1-x^4)^(1/2)を2項展開し,さらに項別積分すると
F(z)=z+1/10z5+1/24z9+5/208z16+・・・
この逆関数のべき級数展開は
sl(u)=u-1/10u5+1/120u9+11/15600u13+・・・
=u(1-1/10u4+1/120u8+・・・)
=ug(u4)
となります.
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【3】レムニスケート積分からワイエルシュトラスの標準形へ
∫(0,x)1/(1-x^4)^(1/2)dx
は変数変換
x=1/√z,dx=−z^(-3/2)/2dz
により
∫(z,∞)1/(4z^3-4z)^(1/2)dz
となる.これは慣用の記号でg2=4,g3=0のワイエルシュトラスの標準形である.
∫1/(1-x^6)^(1/2)dx
も,変数変換
x=1/√z,dx=−z^(-3/2)/2dz
により
∫(z,∞)1/(4z^3-4)^(1/2)dz
となる.これは慣用の記号でg2=0,g3=4のワイエルシュトラスの標準形である.
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∫(0,z)1/(1-x^3)^(1/2)dx
は,第1種楕円積分の標準形(ヤコビの形)
F(k,φ)=∫(0,φ)dθ/(1-k^2sin^2θ)^(1/2)
を使うと
∫(0,z)1/(1-x^3)^(1/2)dx=1/4√3F(k,φ)
φ=arccos((√3−1+x)/(√3+1−x))
k=(√3+1)/2√2
∫(0,z)1/(x^3-1)^(1/2)dx
は,
∫(0,z)1/(x^3-1)^(1/2)dx=1/4√3F(k,φ)
φ=arccos((x−√3−1)/(x+√3−1))
k=(√3−1)/2√2
と表される. 一松,数学公式T,p148,岩波
∫1/(1-x^3)^(1/2)dx
は,変数変換
x=1/z,dx=−z^(-2)dz
により
∫(x,∞)1/(z^4-z)^(1/2)dz
となるが,
∫1/(1-x^5)^(1/2)dx
はx=1/√zと変数変換してもx=1/zと変数変換しても,楕円積分は得られない,
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