調和級数(自然数の逆数の和)が発散することはよく知られている.それどころか,素数の逆数の和だけでさえ発散する.
(証)p(≦n)なる素数を考える.
Π(1+1/p+1/p^2+・・・)=Π1/(1−1/p)
を展開すると自然数の逆数は必ずでてくるから
Π(1+1/p+1/p^2+・・・)>1+1/2+1/3+・・・+1/n→∞
Π1/(1−1/p)→∞
左辺の対数をとると
g(n)=Σlog(1+1/(p−1))→∞
ここで,logx<xを用いて
log(1+1/(p−1))<1/(p−1)=1/p+1/p(p−1)<1/p+1/(p−1)^2
g(n)<Σ{1/p+1/(p−1)^2}=Σ{1/p)+π^2/6
これよりΣ{1/p)→∞
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【1】diet調和級数の収束
調和級数は発散しますが,分母に9が含まれている項をすべて取り除けば発散しなくなります.
J=(1/1+・・・+1/8)+(1/10+・・・1/18+1/20+・・・+1/88)+(1/100+・・・+1/888)+・・・
において,括弧内のすべての項を括弧内の最大項に置き換えると
1/1+・・・+1/8<1/1+・・・1/1<9/1
1/10+・・・1/18+1/20+・・・+1/88<1/10+・・・1/10<9^2/10
1/100+・・・+1/888<1/100+・・・1/100<9^3/10^2
J<9/1+9^2/10+9^3/10^2+・・・=9/(1−9/10)=90
したがって,9をすべて取り除いた調和級数は収束します.同様に,取り除く数がどれであっても収束するのですが,10%の数を取り除くと収束する・・・なにか奇異に感じられませんか?
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【2】すべての数の中に9が含まれる数はいくつあるか?
種明かしをしよう.1から10^nまで,数字xが含まれる数字の個数は(10^n−9^n),したがって,xが含まれる数字の比率は(10^n−9^n)/10^n=1−(9/10)^nで表される.
したがって,1から10までで10%,100までで19%,1000までで27%,10000までで34%であるが,桁数が大きくなるほどxが含まれる確率は高くなり,この後,急速に100%に近づく.10%でなく事実上ほとんどすべての数にxが含まれているといえるのである.
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【3】無零調和級数の収束
[Q]分母に0が含まれている項をすべて取り除けば無零調和級数は収束する.
[A]10^α-1と10^αの間にある無零数の個数は9^α個だから,その間にある無零数の逆数の和は9^α/10^α-1より小さい.したがって,
Σ1/a<Σ9^α/10^α-1=9/(1−9/10)=90
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【4】グリーン・タオの定理
有名な素数定理(PT)は,漸近分布の形で
π(x)〜x/logx
と表すことができます.素数は無限個存在し,そして等差数列{a+kn}にも素数は無限に含まれるのですが,素数pでa+knの形のものの分布問題がディリクレの算術級数定理です.
π(x;a,n)〜C・x/logx C=1/φ(n)
算術級数定理は素数定理を精密化したもので,初項aの取り方にはよらないのですが,ここで,オイラーの関数φ(n)は1からn−1までの整数のうち,nと互いに素になるものの個数
φ(n)=#(Z/nZ)
として定義されます.たとえば,n=7の場合,1,2,3,4,5,6なのでφ(7)=6,n=10の場合1,3,7,9がそうなのでφ(10)=4となります.
ここで,素数のみからなる等差数列,
a,a+d,・・・,a+(n−1)d
において,「任意に長いn個の素数の等差数列が存在する.」(グリーン・タオの定理:2004年)
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【5】エルデシュ予想
「自然数列{ai}がΣ1/ai=∞を満たすならば,自然数列{ai}は任意の長さの等差数列を含む.」
Σ{1/p)→∞なので,エルデシュ予想を証明すれば各項が素数である任意の長さの等差数列が存在することがわかる.この事実は2004年にグリーンとタオによって証明されたというわけである.
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