∫(0,z)1/(1-x^3)^(1/2)dx
のような楕円積分は既に昔から深く研究されています.例えば,第1種楕円積分の標準形(ヤコビの形)
F(k,φ)=∫(0,φ)dθ/(1-k^2sin^2θ)^(1/2)
を使うと
∫(0,z)1/(1-x^3)^(1/2)dx=1/4√3F(k,φ)
φ=arccos((√3−1+x)/(√3+1−x))
k=(√3+1)/2√2
と表されます.
一松,数学公式T,p148,岩波
ただし,このままでは母数
k=(√3+1)/2√2
が1に近くて扱いが不便かもしれません.むしろ,ワイエルシュトラスの標準形
∫(∞,0)du/(4u^2-g2u-g3)^(1/2)
の特別な場合として扱ったほうが容易かもしれません.
誰しも考える
∫1/(1-x^3)^(1/2)dx
は対称性に乏しく,却ってレムニスケート
∫1/(1-x^4)^(1/2)dx
のほうが扱いやすいようです.
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【1】楕円積分の標準形(その1)
楕円積分
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
sn^(-1)(x,k)=∫(0,x)f(x)dx
はヤコビの楕円関数の1種であるエスエヌ関数の逆関数である.関数sn,cn,dnがヤコビの楕円関数で
cnω=(1-sn^2ω)^1/2,dnω=(1-k^2sn^2ω)^1/2
また,
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
K(k)=∫(0,1)f(x)dx
を第1種完全楕円積分,
f(x)={(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)
E(k)=∫(0,1)f(x)dx
を第2種完全楕円積分と呼ぶ.
第1種楕円積分は特に重要であるが,第1種楕円積分
K(k)=∫(0,1)1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)dx (ヤコビの標準形)
で,x=sinθと変換すると
K(k)=∫(0,π/2)dθ/(1-k^2sin^2θ)^(1/2) (ルジャンドルの標準形)
また,x=sin^2θ,λ=k^2とおけば
K(k)=∫(0,1)dz/{(z(1-z)(1-λz)}^(1/2) (リーマンの標準形)
が成立する.
これらの不定積分は初等関数では表せないが,たとえば,第1種完全楕円積分は
K(k)=π/2{1+(1/2k)^2+(3/8k^2)^2+(5/16k^3)^2+・・・}
とベキ級数展開できる.
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【2】楕円積分の標準形(その2)
F(k,x)=∫(0,x)1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)f(x)dx
E(k,x)=∫(0,x){(1-k^2x^2)/(1-x^2)}^(1/2)dx
π(k,x)=∫(0,x)1/(1+nx^2){(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)f(x)dx
をそれぞれ第1種,第2種,第3種の標準形という.
x=sinθと変換すると
F(k,θ)=∫(0,θ)dθ/(1-k^2sin^2θ)^(1/2)
E(k,θ)=∫(0,θ)(1-k^2sin^2θ)^(1/2)dθ
π(k,θ)=∫dθ/(1+nsin^2θ)(1-k^2sin^2θ)^(1/2)
となる.
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レムニスケート(x^2+y^2)^2=a^2(x^2−y^2)の表わし方として
x^2+y^2=a^2cos^2φ,x^2−y^2=a^2cos^4φ
を用いれば,
x^2=a^2cos^2φ(1−sin^2φ/2)
y^2=a^2cos^2φsin^2φ/2
ここで,(ds)^2=(dx)^2+(dy)^2を計算すれば,k=1/√2の第1種楕円積分
ds=a/√2・dφ/(1−sin^2φ/2)=a/√2F(1/√2,φ)
を得ることができる.したがって,レムニスケートの全長は
s=4a/√2K(1/√2)
また,セレー(微分幾何のフレネー・セレーの公式で有名)にしたがって
x=a(z+z^3)/(1+z^4),y=a(z−z^3)/(1+z^4)とパラメトライズした場合,
x^2+y^2=2a^2z^2/(1+z^4)
x^2−y^2=4a^2z^4/(1+z^4)^2
(ds)^2=(dx)^2+(dy)^2=2a^2dz/(1+z^4)
より,
∫(z,1)dz/(1+z^4)^1/2=1/2F(1/√2,φ)
ガウスは
x^2=1/2(z^2+z^4),y^2=1/2(z^2−z^4)
ds=(dx^2+dy^2)^1/2=dz/(1−z^4)^1/2
より,レムニケートの弧長を
∫dz/(1−z^4)^1/2
で表したが,このように∫dz/(1+z^4)^1/2によっても表すことができて,
1/√2F(1/√2,φ)
=∫(c,1)dz/(1−z^4)^1/2=√2∫(z,1)dz/(1+z^4)^1/2
なる関係を得ることができる.ここで,
c=cosφ=√2z/(1+z^4)^1/2
なお,レムニスケートは
x=t(1+t^2)/(1+t^4 )
y=t(1−t^2)/(1+t^4 )
のようにパラメトライズすることもできる.
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また,中間積分(と自分勝手に呼んでいる)
I=∫(c,1)dx/(1−x^3)^1/2
を考える.
変換
x=1+√3(y−1)/(y+1)
により,x=cに対するyの値を
y1=(c−1+√3)/(−c+1+√3)
とおくと
I=1/4√3∫(y1,1)2dy/((1−y^2)(2−√3+(2+√3)y^2)^1/2
ここで,y^2=1−z^2,z1^2=1−y1^2とおくと第1種楕円積分
I=1/4√3∫(0,z1)dz/((1−z^2)(1−k^2z^2)^1/2=1/4√3F(k,φ1)
となる.ただし,
k=(√2+√6)/4,sinφ1=z1
ちなみに,
∫(c,1)dx/(1−x^4)^1/2=1/√2F(k,φ1)
k=1/√2
φ1=arccos(c)
レムニスケートの全長は4a/√2K(1/√2)
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【3】雑感
∫(0,x)xdx/(1−x^4)^1/2
を考えると
∫(0,x)xdx/(1−x^4)^1/2=1/2arcsinx^2
のように初等関数で表されるので,擬楕円積分と呼ばれる.
オイラーは,弾性曲線の研究で積分
f(x)=∫(0,x)x^2dx/(a^2−x^4)^1/2
によって与えられる弾性曲線の性質として,その原点から(x,y)までの弧長
s(x)=∫(0,x)a^2dx/(a^2−x^4)^1/2
について
f(a)s(a)=πa^2/4
であることを発見した.
この関係は第1種楕円積分s(x)と第2種楕円積分f(x)の周期の間に成り立つルジャンドルの関係式をレムニスケートの場合に特殊化したものに他ならない.
第1種楕円積分からヤコビの楕円関数が導かれる.第2種,第3種楕円積分はヤコビの楕円関数の積分として表すことができる.したがって,第1種楕円積分はとくに重要である.逆に,ヤコビの楕円関数は第1種楕円積分から出発するのであるが,第2種,第3種楕円積分から出発することも出来なくはないのだろうが,第1種楕円積分から出発するのが最も簡単なのである.
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